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□WAVE!
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7.処女の血







「え!?あれ!?」

ナミがばさりと髪を下ろしていることに、コビーが驚いた。
もう全部バレている、この海賊船の中では、身分の詐称は不要だろう。

(やっぱりかわいいな⋯⋯!
手配書よりも、髪が長くなってる⋯⋯!)
海軍の男なら誰でも一度は憧れる。
しかも麦わらの一味は、掠奪をしたことがない。
エニエスロビーに殴り込んだり、天竜人を殴ったりしたが、ナミの悪い噂はとんと聞かない。
ただ、どこぞの貴族を婚約者を奪ったり、道行く男を誑かしたりするので、泥棒猫と呼ばれるようになったらしいが。

「コビー大佐、私、やっぱりナイアの船に戻ろうと思います」

ナミははっきり宣言した。
人形のような可愛らしい顔をしているのに、その目は鋭く、真摯だった。

コビーは頷いて、笑った。

「あなたならそう言ってくれると思ってました。宝石を返すんですね」
宝石を盗って来ていることも、バレていたのか。
ナミはハハハと笑って誤魔化して、ローの方を見た。
「それでね、この⋯⋯ローも一緒に戻ろうと思うの」

コビーがピシッと固まった。
後ろの柄の悪そうな男が、ナミのやけに近いところに立っていたからだ。
近すぎるんじゃないだろうか?
ここの船は狭いから、パーソナルスペースがバグっているのか?
と、コビーは思った。

「これはこれは、最近七武海入りされたトラファルガー・ローさんじゃないですか」
「お前は誰だ」
「僕は海軍本部の大佐ですが覚えなくていいですよ」
笑顔でバチバチに火花を飛ばすコビーを尻目に、ナミは交渉した。

「私は海兵のふりをするから見逃してね。あと、権限があるならマリンコードと所属部隊を与えて欲しいんだけど。ナイアの護衛なら尚いい。ナイアの命が危ないの」

「あ、それは僕の部隊です」
コビーが言った。
「ヘルメッポさん目敏いからな⋯⋯
マリンコードは与えられませんが、僕の側にいれば何とか誤魔化せます。元々はナイアさんが誤魔化していましたよね?知り合いなんですね?」
ナミはこくりと頷いた。
「イーストブルーで命を助けられたことがある。こんなところで会うとは思わなかったけど、ドフラミンゴの本当の狙いがわかった今、危ないの。力を貸して」

「もちろん、それが僕の職務ですし。⋯⋯ナイアさんが危ないというのは?」
「ドフラミンゴの狙いは、宝石をカイドウに渡すことと、ナイアの持つ製薬工場なの。東の海のことなんて知ったことじゃない。天竜人にナイアを始末させる気よ」

コビーは考え込んだ。
確かに、ドフラミンゴがこの件に首を突っ込んで来たのには違和感があった。
酷く複雑なやり口だが、ナイアの身が危ないとなればそれは自分の責任でもある。
ナイアという男は自分の知る限り善良で、イーストブルーを良くしようという情熱があった。
失うには惜しい、始末されて良い男ではないとコビーは思う。

「わかりました。ですが、向こうでは部下として接します。いいですね?」

ナミは笑って敬礼した。





「メガネ屋」
そうローに言われたのが自分だと気づくのに数秒かかった。
言うほどメガネ屋か?と思いながらコビーは探査船に乗り込み振り返る。
「なんですか?」
「あの宝石だが、あれの持ち主はルセリトロなんだな?」
「そのはずですよ。彼の持つ土地に遺跡が発見され、そこで見つかったとか」

ローは頷いた。
ルセリトロと交渉しなくてはならない。
ドフラミンゴの狙いも伝えなくては。

コビーとローに挟まれて、ナミは何となく居心地を悪くしながら操縦桿を握る。
探査船はハートの海賊団の潜水艦を出発した。

「2年間どこでなにをしてたんです?」
コビーが聞いた。
2年間息を潜めていたナミ達麦わらの一味に興味が出るのは当然のことだ。
ナミは海兵の服に身を包み、髪の毛をくるくると纏めて帽子の中に押し込んだ。
「えっと⋯⋯コビーになら言ってもいいかな。ウェザリアっていう気候を科学する国で、みっちり勉強をしてた」

ナミの専門は、気候学、気候工学、海洋学、海事科学だ。
自分の得意を余すことなく伸ばすことができた。
その道のプロフェッショナル達に囲まれ、時に優しく時に厳しく教え込まれた。
本当に、運が良かったと今では思う。
「少し早めに集合場所に来たんだけど、そのおかげでこの宝石の噂をね、聞いちゃって...フラフラ〜っとね」
「海軍が沢山乗ってるナイアさんの船に乗ったんですか」
なんて向こう見ずな。
そうコビーは思ったが、帽子からのぞく顔が余りにも可愛いのでそれはどうでも良くなった。
「おい、運転に集中しろ」
ローが注意したので、ナミは怒って声を上げた。
「ちゃんとやってるじゃん!ほら着くわよもう!」
がちゃん!と船が連結し、水の上に出る。
ロックを解除してナミ達は外に出る。
「私は今からダイヤモンド。性別は男。コビーの部下で、ナイアの護衛。ハイ、よろしく!」








ドフラミンゴは心底喜んだ。
ローが帰ってきた。
あの時行方不明になったローが戻って来てくれた。
全てを許そうとドフラミンゴは思った。
目的のものが三つも手元に揃っているのだ。
気分も良くなるというものだ。

「宝石、ルセリトロ社、オペオペの実」
みんな思い描いた通りになる。
ローは憮然とした表情で立っていたが、ドフラミンゴは笑いが止まらなかった。

「フッフッ、嬉しいよ、ロー!だから言っただろう。10年後にはお前は俺の右腕になると」
「前置きはいい。早く計画を話せ」
「察しの通りだよ。わかるだろ?みなおれのシナリオ通りだ」

「この船は今マリージョアへ向かってる。東の海の、ルセリトロ社の孤児院建設を天竜人が邪魔したからだが、ルセリトロは天竜人の靴を舐めて、せっかく出土した宝石を渡すと言ってる」

ドフラミンゴは軽薄に嘲った。
「馬鹿な男だ。やり手なのだろうが誠実すぎる。あの宝石があればやりようはいくらでもあるだろうに」
基本的に、ドフラミンゴの見ている景色は常人のものとは違う。
それはドフラミンゴの生まれ持った性質かもしれなかったし、後天的に必要に駆られて獲得したものかもしれなかった。

「この世で一番の無法者は天竜人だ。なぜそれがまかり通るのか⋯⋯お前はどう思う?」

ローは答えなかった。

「フッフッ、渡されると思っていたオモチャを鼻先で取り上げられたらどうなるか。ルセリトロの財産が没収されてから、ゆっくり製薬工場をいただくさ」

おおよそのシナリオが、ローの予想通りだった。
上手く立ち回れば、ドフラミンゴを倒せる。
慎重に行け。
その為に姿を現したのだ。







ナミはコビーと共にナイアの元へ戻った。
コビーは探査の結果を報告しに上司の元へ行った。

「あの大佐がお前を見る目が変わった」

去って行くコビーの背中を見ながらナイアが行った。
「なんでそんなことわかるの?」
「それがわかるから出世したんだよなぁ俺は」
ナイアが戸を閉めながら言う。
「わかるの?と言うってことは何かあったな。大方素性がバレたんだろう。それなのにお前が捕まっていないのはおかしい。あの大佐は取り引きに乗るタイプじゃない。ということはあいつはお前に惚れたんだな」
どかっとソファーに座ってナミの方へ手を出した。

「はい。宝石出して」
ナミは自分の首元につけていた宝石を渡した。
ああ。さよなら私の宝石。
「なんでそんなにわかるの?」
「人の振る舞いには情報が溢れてる。それをちゃんと見てるだけだよ」

ナイアが宝石を箱の中に仕舞った。
不思議な力のある石だ。ナミはそれを見ていると体がふらふらとしてきて石に吸い寄せられてしまう。
魅了されて、触れたくなってしまう。
今も、若干箱の方へ行きたくてうずうずする。
まるでさかりのついた猫みたいに。

「あの、ローって知ってる?トラファルガー」
「さっき救助をしていた奴だな。いい子ちゃんアピールの」
「あのね、ローのおかげでドフラミンゴの狙いがわかったかもしれなくて」
ナミはドキドキしながら言った。
ドフラミンゴにバレたら殺し合いになる。
そんな危ない橋を渡っているのだという気がした。






「ところで、イルヤンカシュの涙がどうやって願いを叶えるのか知っているか」
ドフラミンゴがローに聞いた。
ウイスキーを勧めたがローは口をつけない。

「処女の血を吸わせるのさ。目下、どこかから処女を調達しなければなるまいよ」

フッフッフッとドフラミンゴが笑った。








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