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□WAVE!
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8.暇つぶしのおもちゃ







「なるほど」
ナイアがナミから話を聞いて頷いた。
ドフラミンゴの狙いを探れとは言ったが、こうも早く叶うとは。
これが分かれば手も打てる。

「天竜人に渡す直前で奪うと。そしたらおれは縛り首か?回りくどいことをする」
「ど、どうするの」

ナミがドキドキとしながら聞いた。
「ネッド・スタークは実直過ぎて敵にハメられた」
ナイアがとある世界的ドラマの登場人物を例に挙げて、不敵に笑う。
「おれは誠実なタイプではないからな」

別に、生きるためなら何だってやるし。そうしなきゃ生きて来られなかったし。
内戦で両親を亡くし、孤児で徒党を組んで生きて
きたのだ。
海賊から金品を奪っているうち、いつの間にか海賊になっていた。
宝石を加工した商売が当たり、金持ちになった。政府と司法取引をし、一大企業として扱われるようになった。

「じゃ、今からお前ドフラミンゴのとこに行って、これを渡せ。
なぜドフラミンゴが天竜人と関わりがあるのか知らないが、おれには会わないがドフラミンゴには会うと言う。それはなぜか。弱みを握っているなら、それをおれも握りたい。」

「これは何?」
ナミは手渡された紙をめくった。
「製薬工場の設備の仕様書とか、諸々。使いどきを間違えるなよ。欲しくて欲しくてたまらないという時に、盗って来たと言ってこれを出すんだ。他にはおれの生い立ちやお前と出会ったわけ、全て情報として話して構わない」

「まさか⋯⋯あんた私に何をやらせる気なのよ」

ナイアは悪どい笑みを見せた。
「ドフラミンゴがしたように、天竜人の弱みを握れば今後こんなことをしなくても良くなる。俺は俺のような境遇の人間を減らしたいだけ。ドフラミンゴと真正面から対立するおれには無理。だからオマエがやって」

ドフラミンゴの持つ天竜人の弱みを盗って来いと言う。
ナミは絶句した。








ドフラミンゴはご機嫌に糸を出して遊んでいた。
この船は豪奢で居心地がいい。
ローは戻って来たし、それを分かち合う仲間に早く会いたかった。
───暇つぶしになる手駒でもいい。

「ダイヤモンド?」

ナミが飛び跳ねる心臓を抑えながら部屋に入って来たのを笑顔で迎え入れる。

「フッフッ、まあ座れ。酒でもどうだ?今日はめでたい日なんだ。共に祝ってくれ」
「なに、誕生日とか?」
ナミが仁王立ちした。
「あんたはいくらでおれにつく?と聞いた。いくら出せるの?」

ナミが座らずにいたので、ドフラミンゴが立ち上がって背後に立った。
上背が自分の倍ほどもあるでかい男だ。威圧感が半端ない。
ナミはこういうことに慣れてますよ、初めてじゃないですよ、という顔を装ったが、果たしてそれが通用しているかどうか。

「欲しいのは金か?」
お金、欲しい!
とナミは思った。
でもこの世の中には、金よりも金になるものがあるのだ。

「いいえ、もっといいものが欲しいわ」
ナミは笑った。
「あんたはお金よりもいいことを知ってるって、そんな気がするの」
「へぇ、そうかい」

ナミは促されてソファに座った。
ドフラミンゴが楽しそうに聞く。
「どうして男のなりを?」
「へ?」
ナミは咄嗟に言い訳が思いつかなかった。
確かに、私は怪しすぎる。
ドフラミンゴを信用させなければいけないのに。

「ナイアに雇われて、海軍に潜入しろと言われたの。
知っていると思うけど、ここに来るまで散々嫌がらせを受けてる。ゴアのとある土地に孤児院を病院を建てようとしただけなのに、許可がもらえず不法な輩が邪魔をしに来るそうよ」

「誰が糸を引いてるのかわからない。海軍から探れることもあると思ったんでしょうね」
と、いうことにしておこう。
するとドフラミンゴが情報をくれた。

「アア、それを邪魔しているのはジャルマック聖その人だ。海軍ではない」
「え?」
ドフラミンゴが対面のソファにどかっと座る。

「なぜなの?」
「それは言えない」
「どうして?」
ドフラミンゴが笑う。
「まるで質問が止まらん幼女だな。オマエはこの仕事に向いてないんじゃないか」
むっとしてナミが言った。

「ナイアの情報要らないの?」
「要らないなら取引などしないさ」
「そうよね」

ナミは弓形に笑った。
長い脚でドフラミンゴの前に立ち、腰を曲げて耳元で囁いた。
「製薬工場、欲しいんでしょーう?」

最新技術を、七武海とはいえ海賊であるドフラミンゴに売ってくれる企業はない。
ジェルマはドフラミンゴを毛嫌いしているし、秘密裏に科学者を使って自分で作るしかない。
量産体制が整えば、覇権を取れる技術を持っているのに。

「⋯⋯へえ、なぜそれを」
「私を取引相手にする気になった?」

答えるように、ドフラミンゴは癖でナミの腰をさらってしまった。
間違えた。
男のなりをしている女なんか趣味じゃねぇのに。
女はこう⋯⋯バン!と胸があり、キュ!と腰がしまっているのが好きである。
自分の膝にのせて顔を見る。
帽子から見下ろす瞳が美しかった。

「ああ」
「⋯⋯本当に欲しい?」
「本当に欲しい」
「どれくらい?」
「そうだな。多少、無理をしてでも欲しい」

でも、タダじゃあげられない。
とナミは言った。
主導権を握ることに成功したのだ。

「もし本当にそれが欲しいなら、私の欲しいものを持って来て」


この女は持っているな、と思わせなくては駄目だ。
ドフラミンゴの膝から降り、扉へ向かう。

「私の欲しいものをくれるなら、ナイアを裏切ってそっちにつく。だって、その方が何倍も価値があるもの」

いつの間に盗ったのか、ピンクのコートの羽を一枚撫でながらナミは言った。

帽子から覗くダイヤモンドの瞳は、ドフラミンゴの視線を奪うのに十分であった。








ほどなく、ナミの元へ兵士から手紙が言付けられ、開くとドフラミンゴの部屋へ来いとある。

ドフラミンゴはナミにあるものを渡すと言った。

「イルヤンカシュの涙を、お前に贈る」
「へ?」
「本当はカイドウにやろうと思っていたんだが」

そう言ってドフラミンゴはナミの首へ手を回した。
どういうことだ。これはナイアの持ち物ではなかったの。
「海兵の服には、絶望的に合わんな」

確かにそうだが、まさか脱がされそうになるとは思わなかった。
「何してんの!?」
大きい手がぷちぷちとナミのボタンを外そうとするので、ナミはその手を叩いた。
「一応、つけたところを見ておきたい」
「やめろ!!」
見ればドレスが用意されている。
なんだこいつは。
こんなもんを持ち歩いているということは、女遊びをする気満々ではないか。

ただ、首飾りをつけるとナミの気は変わった。
肌で宝石が光るところが見たかった。
「別にあんたのためじゃないんだからね⋯⋯」
そう言って衝立の後ろに消える。

ナミが髪を下ろし、ドレスアップして出てくるとドフラミンゴは思わず笑った。美しかったからだ。
「これはこれは」
「はあ〜〜きれい。レプリカとは思えないわ」

ナミは鏡の前で何度もポーズの角度を変える。
デコルテが光り輝き、レプリカの宝石が本物に見えるほど華があった。

ドフラミンゴが1番好きなものは何かと聞かれれば、ビジネスだと答える。
相手と自分のシノギを削り合うのが好きだ。
自分の思いどおりに事が進むと気分が良いし、少し難しいことに挑戦するのも好きである。

この女からは裏切りの匂いがする。
ナイアを裏切ると言った時の顔にゾクゾクした。

生意気な女を抱くのが好きだし、妾の1人にしても良いかなと思ったのだ。
女を落とすには宝石だろう。ついでに情報も。

ダイヤモンドの瞳がドフラミンゴを見ていた。
宝石に光を当てながら、ナミが言う。
「すり替える為に用意してたの?周到ね」
「ああ、もちろん本物を渡すと約束しよう」
ナミがかき上げた前髪の間から覗く。

「私は天竜人の弱みが欲しかったんですけど」
「フッフッ、ああそれなら」

ドフラミンゴが耳元で囁いた。

「お前が寝所を共にするなら教えてやろう」

ドフラミンゴは完全に楽しんでいた。
暇つぶしのおもちゃにダイヤモンドは最適であった。










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