novels2

□WAVE!
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11.コビー豹変









「マリージョアへはあと何日?」
「あと2日くらいですかねぇ」

コビーがうーんと悩む。

「ドフラミンゴさんとこに行こうとしてませんよね?」
「え?まあ、うん」

ナミがぼんやりしているのに気づき、コビーが聞いた。
手っ取り早く仲間の元へ帰りたいナミはドフラミンゴのところに行きかねない。
正しい性知識も持っていないのに、ドフラミンゴの話に乗るなんてカモがネギをしょって行くようなものだ。
それにしても。

(ナミさんがしょ、処女だなんて⋯⋯)
そんなこと考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ。
そう自分に言い聞かせるのだが、すればするほど考えてしまう。

(なのに色仕掛けで僕を懐柔しようとしてたなんて、可愛すぎる⋯⋯っ。
いじらしいし、すごく健気だ⋯⋯!!
ルフィさん、大切にナミさんを守ってたんだろうな⋯⋯!)

こんな有様で海軍将校になれるのか?と誰もが思うところだが、一回の航海が長い海軍は、陸軍に輪をかけて女遊びが激しい。
港に娼館が多いのはそのためで、コビーも何度も先輩に無理矢理連れて行かれている。

(ナミさん可愛いっ)

コビーがじっと見てくるので、ナミが引く。

「なに?怖いんだけど⋯⋯」
「あっ、す、すいません⋯⋯」

ナイアは仕事に忙しく、ローは何やら連絡を取っている。
ナミは上手くいけばマリージョアに着く前にカタがつくと思い、ドフラミンゴから情報を聞き出すタイミングを見計らっていた。

その時、ぐらっと船が揺れる。
海王類が現れたのか、大きく揺れたのでナミはコビーに抱き留められた。
コビーは嬉しくて、不必要なくらいぎゅっと抱きしめた。
蜜柑のいい匂いがした。
同時にナミも、コビーの匂いに驚いていた。
柔軟剤のいい匂いがするのに、どこか男らしい匂いがしたから。

「あ、ありが⋯⋯」
「いえ、すいませ⋯⋯」

ザバッ!!

2人の体が離れたところで、海王類がパクッとナミを口の中に入れてしまった。
コビーは驚きの余り一瞬頭が真っ白になった。

なんてことを⋯⋯!
海王類の腹を蹴り、ナミを吐き出すまでに約1分、ナミは甲板に出てきたが水を飲んで意識を失っていた。

コビーは必死に人工呼吸を施した。

ナミの胸を圧迫して呼吸を促す。
口を合わせて息を吹き込んで、胸が上下するのを確認する。

「ゴホッ、ゴホッ、けほ、けほ」

ナミが水を吐いた。
わっ、と周りが沸いて、さすがコビー大佐!などの声が聞こえてくる。
「良かった...!」
息をしたので一安心だ。
近くでナミの様子を観察する。

「ナミさん、大丈夫です、か⋯⋯」

コビーはナミの首筋に赤い跡があるのを見つけてしまった。
昨日ローがつけたものだ。


医務室に連れて行きます、と周りに言ったコビーは、誰も見ていないことを確認して自分の部屋にナミを連れ帰った。
ナミが危険な目にあって、混乱していたからだろうか。
助かったことに興奮していたからかもしれない。
あの痕がすごくショックで、とても驚いていて、何があったのか聞きたい気持ちが勝った。
恋をするのは初めてですか?
はい、実は。
積極的な方なんですね?
はい、実はそうです。
好きな相手に、倫理に悖ることも辞さない?
まあ、多少は。



ナミが目覚めるとコビーがいた。
優しく笑っている。

「あ、私海王類に⋯⋯」
「大丈夫ですか?」
コビーがナミを助け起こした。
「うん、ちょっとくらくらするけど」
コビーがナミに水を飲ませた。
「よかった⋯⋯怖かったわ。コビーが助けてくれたの?」
「いえ、大したことではないので。あなたが無事で良かった」

ナミは笑ってお礼を言おうとした。

「うん、色々ありが」
「昨日、何してたんですか?」
コビーが被せ気味に聞いた。
ナミはまだぼんやりしており、その不穏さに気づかなかった。

「あ⋯⋯ドフラミンゴのとこに行こうとしたら、ローが行くなと⋯⋯」

「トラファルガーさんが⋯⋯」

コビーの中に、初めての気持ちが渦巻いていた。
嫉妬で胃がねじれそうだ。
あの首筋の痕が嫌でも目に入る。
昨日まで何も知らない子供だった彼女を、女にしたというのだろうか?

だめだだめだやめろ
止まれ自分

「こんなところにキスマークをつけて、ドフラミンゴさんを懐柔できると思います?」

「え!?」

キスマークって何!?とナミが起き上がろうとするのを、コビーが覆い被さるようにして阻止した。

優しく、柔らかく、なのに絶対に逃がさないように腕の中に閉じ込める。
「手を」
コビーは微笑んでナミの手を取る。
その動作も表情も優しすぎて、ナミは逃げるべきだとわからなかった。
コビーはナミの手の甲にキスして、ちゅ、と吸った。

「ここはあまり付きませんね」
「コビー⋯⋯?」
「こうして、柔らかいところを」

ナミの服をくつろげて、今度は腕の内側をちゅうと吸った。

「⋯⋯っ!」
「吸うとほら、赤い痕が付きます」

コビーがナミを見下ろす。

「昨日、何をされたんですか?」

「なにも⋯⋯」

「じゃあ首のこれは何ですか?」
つつ⋯⋯とコビーが首筋をなぞった。
「⋯⋯っ!」

こそばゆくてナミが自分の首を守るように触れる。
触っても正直わからない。
首にキスマークが付いてるってこと?
気づかなかった。
いつつけられたのかもわからない。
それに、なんだかコビーが怒っているような気がする。

「コビー、怖い⋯⋯」
「僕は怒ってるんじゃないんです。聞いているだけ。ナミさんが、何を、どこまで知って、やったのか」

「やってない!全然、最後までやってないし、聞いただけ。私、やり方を知らないから、教えてって言っただけ!」
「へえ。それで?」
「ローは途中でやめてどこかへ行っちゃった」
「どうしてやめたんですか?」
「わからない⋯⋯私が、これでドフラミンゴから情報を取って来れるかなって言ったら、ローは首を⋯⋯」
「首を?」
「し、絞めたの。だから、そういうものなんだって思ったけど⋯⋯」

「ナミさん、いいですか」
何も知らないナミをコビーは起こした。

「男との睦言の最中に、他の男の名を出しちゃダメですよ。まして、自分に惚れてるかもしれない男に、本番は別にいると言うのは酷というものです」

「むつごと⋯⋯?そ、そうよね。ごめん⋯⋯」

「あと、首を絞めるのは普通じゃありません。絶対駄目です。危ないですから」

コビーは有無を言わせない圧力があったので、ナミはしゅんとした。
ローにも、悪いことをした気がする。
いや、悪いことをされたのは私なんだけど。

「ナミさんならきっと、ちょっと微笑めば上手く行きますよ。無理に寝ようとしなくてよろしい。そういうのは好きな男とするものです」

「はい⋯⋯ごめんなさい」

「わかってくれたならいいんです」

にこっと笑うコビーに、ナミも安心して笑った。
無理にセックスを覚えなくても良いと言われて、ほっと肩の力が抜ける。

「まあ、ナミさんが求めてくれるならいつでも教えますけど」
はいはい、とナミが笑った。
「私、変なのかな。今まで忙しすぎて、そういう情報に全く触れてこなかった」

「1人でもしないんですか?」
「えっと?1人でもできるものなの?」

耳年増な同年代とつるんでいる暇もなく、恋愛に興味もなく、仕事に打ち込んでいれば、そういうこともあるのかもしれなかった。
コビーは自分が少し恥ずかしくなって言葉を濁した。

「いや⋯⋯どうでしょう⋯⋯ごにょ⋯⋯」

「でもね、私どうしても、孤児院を建てたいの」

私も孤児だったから、と短く言い、決意を込めた真剣な瞳で言った。

「だからやっぱり、天竜人にこれ以上邪魔される訳には行かないわ。ドフラミンゴの所に行ってくる」
「⋯⋯っ!駄目です危ないですから」
「大丈夫。寝ようなんて思ってない。まだ交渉の余地はあると思うし、勝算もあるの」

ナミは立ち上がった。
ドアのところで振り返る。

「助けてくれてありがとう」

そう言ってにこっと微笑んだ。
コビーはのけぞった。

ホラ、だから言っただろ。

ナミさんなら微笑めば上手く行くって。










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