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□WAVE!
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13.第16夫人







「あれが、マリージョア⋯⋯!」


ナミが驚きの声を上げる。
見上げる城はこの世で一番贅を凝らした建築だ。
ナミが手を回しても届かないほど大きな柱、石像に絢爛な庭。
見かけばかりが美しくて、寒々しい。

天竜人はそれ以外の人間がどうなろうと意に介さない。
それが子供であろうと、なんであろうと。


「お前は、地味〜〜にしていろよ」

ナイアがナミに打ち合わせた。
「わかった」
「俺と同じで顔が派手なんだからな」

「ナミさんは置いて来た方が良かったんじゃ」
「ナミ?誰のことだ?」
コビーの言葉にドフラミンゴが尋ねた。
ローが後ろで汗を垂らしている。

(しまったぁ!ナミさんの名前をダイヤモンドだと騙っているのを忘れてた!)
(馬鹿な奴⋯⋯)

ナイアが人を選び、ジャルマック聖に謁見する五人を決めた。
ナイア、ナミ、コビー、ドフラミンゴ、ローである。

謁見の間には武器を持った兵士が並び、しきたりに従って文官が作法を指示した。

五人は大理石の床に膝をつくよう言われ、しぶしぶ従ったところだった。
ドフラミンゴだけは立っていたが。
しかし、いくら待ってもジャルマック聖は現れない。

「⋯⋯遅すぎる」
ローがイライラと言った。
ドフラミンゴも待たされることに明らかに苛ついており、その辺の兵士に絡んでいた。

この一団の主たる人物であるナイアが口を開きかけた時、こつこつと足音が聞こえた。
兵士たちが一斉に礼を取る。
ナイア達もそれに習った。

「面をあげよ」

鐘を打つような凛とした声に言われて、その顔を仰いだ。
ナイアの顔が凍りつく。

それはジャルマック聖ではない、若い男だった。背が高く、ずるずると長い中華風の装束を着ている。

「失礼ながら、ジャルマック聖はどちらに」
「父はこぬ」
男は突き放すように言った。

ジャルマック聖の息子なのだろうか。
天竜人はマリージョアではいつもの装束は身につけないらしいが、男の優雅な物腰はおおよそ天竜人らしくなかった。

ナイアは続けた。
「こちらの宝石を献上し、私どもの孤児院並びに医院の設立にご裁可頂きたく参上しました。内容は書面にて差し上げた通りですが、お父上とお話させてくださいますようお願い申し上げます」

「父は会わぬと言っておる」
母に似たのだろう、女のような顔をした男は興味もなさげに言う。
「では、ご裁可は」
「わっちが現当主のジャルマック2世、カミーユである。裁可はわちきが下す」

カミーユは長い髪を翻して宝石を手に取った。

「これかえ。例の宝石は」

流れるような所作で宝石を手に取り、それを空へ透かした。
色とりどりの光が反射している。

「ふん。そこいらのものと何も変わらぬ。珍しい宝石と聞いて来てみたものの、何の変哲もな⋯⋯ん?」

カミーユが宝石をかざしながら歩いていると、宝石がギラギラと光った瞬間があった。
サファイアの深い青緑が、赤にもオレンジにも見えた。
その輝きが異常だったので、もう一度空へかざしてみた。
その光は目を奪う輝きだ。
しかし、歩いている時でないとその現象は起きなかった。

しばらく宝石を確かめ確かめ、色んな角度で見てみた後、カミーユは一人の人物の前で止まった。

帽子を目深に被った、華奢な海兵の前で。

「そなた、面をあげてみよ」

ナミは恐る恐る顔を上げた。
ナミを映した時だけ宝石がギラギラと光るのに、カミーユが驚く。

「あなや、なぜこれほど光るのだえ。不可思議なことよ」

カミーユは笑った。

「ふ、面白いものを献上された。宝石屋よ、裁可はくだそう。褒美を取って帰るがよい」

「は。ありがたく⋯⋯」

「なかなか粋なことをする。さすがは一代で成功を収めた男であろうよ」

マリージョアの住人には珍しい端正な顔を歪め、カミーユはナミを見下ろした。

「ではこなたを第16夫人として迎えてやろう」
「⋯⋯!?」

兵士がナミを取り囲んだ。
その動作は手慣れていて、ナミはあっという間に拘束される。

「お待ちください!その者は関係ありません!」

「このクソガキ、大人しくしてればつけ上がりやがって」

ナイアとドフラミンゴが抗議すると、カミーユも言った。

「これはこれは。ホーミング聖の御子息⋯⋯お噂はかねがね。では貴聖の名に免じて、明日の引き渡しで構いませんえ。
その子を貰わない限り裁可はくださないけれど。」

そう言うと、カミーユは去って行った。

「クソ!なんだアイツは!」
ドフラミンゴはカミーユを追いかけて行った。






「ナミさん⋯⋯!」
マリージョアの海兵隊基地の官舎で、ナミは座っていた。
コビーやローの顔が真っ青なので、ナミは聞いた。

「あの〜?大丈夫?顔真っ青よ、二人とも⋯⋯」
「大丈夫?って人の心配をしている場合ですか!天竜人に求婚されたんですよ!?」
「ことの重大さをお前はわかってない」
コビーとローに言われてナミが縮こまる。
「そんなの適当なところで踏み倒せばいいじゃない。ダメなの?」
首をすくめるナミにナイアが聞く。
「求婚され慣れてるのか?」
「そんなことないわよ」
「さっきを除いて、最近いつ求婚された?」
「えっと、昨日かな」
ハハハ〜と二人で笑った後、ナイアがノリツッコミをする。
「いや、笑えねーよ」
「昨日ってまさか」
「嘘つけ。あやとりしてただろ」
「その前に言われたの!」
ワイワイと話し合う四人。

「ドフラミンゴがまさか天竜人だったとはな」
「おそらく元、な」
「でもこれではっきりしましたね。天竜人とコネクションがあった理由が」
コビーが頷く。


「じゃあナミ、悪いが行ってくれるか」
「なんで!?」
「お前なら脱走できるだろ?」
ナイアがきょとんと言う。
「あんた私を過大評価してない!?
いーい?私はね!怖がりでか弱いんだから!そりゃちょっとは強くなったと思うけど、天竜人ってヤバイんでしょ!?」
「ナイアさん、それは僕も反対です。危険過ぎる」

ナイアは目を伏せて息を吐いた。

「わかったよ。お前を危ない目に遭わせたいわけじゃない」
「でも天竜人は⋯⋯ナミさんを渡さないと裁可をくださないと言っていましたね⋯⋯」
「あの分じゃ、資産も没収しかねないぞ」
「気分次第でお忙しいことだ」
コビーとローが言うのを、ナイアが皮肉る。

「ねぇ、どうして孤児院を作ろうと思ったの?」
ナミが聞いた。

「ヴィラのクーデターが長引いている。うちのシマに難民が流れて来るようになって、そこに赤子もいた」

子供が子供を抱え、乳が出る女は1人しかいないのに乳児は6人、男はみんな戦へ出た。老人は歩くのもままならず、女の乳は切れ、みな共倒れ寸前のところを保護した。

赤子が持たず1人死んだ。そして、懸命に赤子たちを生かそうとした女が、ナイアの腕の中で死んだ。
それからも次々と難民はやって来た。
ナイアの領に行けば助かると噂が流れたのだ。
手のひらからこぼれ落ちる数の人間がのしかかった。

「俺だって天竜人なんかいなくなって欲しいさ。でも今こうしている時にも、赤子は待ってはくれない。乳をやらなけりゃ死んでしまうし、世話をする人間がいなけりゃ生きてはいけないんだ」

綺麗ごとで生きていけたらどれほど良いか。
金があっても、それが人を生かすわけじゃない。
基盤を整えなければいけないと思った。
安心できる家、毎日の食事、仕事、世界政府がやらないことを、誰かが。

「ねぇ、わかった。さっきのは取り消すわ」
ナミが言う。
「行くわ。任せてよ」
第16夫人にでも何にでもなろうと思った。
そんな顔をされては、見て見ぬふりなどできないではないか。

「ナミさん」
「必ず助ける。逃げられるようにする。俺を信じてくれ」
ナイアが言った。
何手も先を見ているから、これ以外ないとわかっていたのだ。









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