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□WAVE!
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17.ご褒美








雷鳴。
コビーは空を見上げた。
美しい透けるような青空に雲はまばらで、とても雷が響く天気には思えなかった。
獣の唸るような空気の震えは一瞬で消えた。

「敵か?」
「ナミさんだという可能性は?」
「うーん」
3人はカイドウの軍と接触しないように進んでいた。
ここはもうおそらく天竜人の居住区のはずだが、敵が深く侵攻しているようだ。ドフラミンゴを探している。

「グェ」
ローはこそこそと逃げていた天竜人の襟首を捕まえた。
邸に押し入られ、着の身着のままで逃げ出して来たらしい。

「おいお前」
「ヒッ!」
不細工な顔が恐怖に歪んだ。
「カミーユの邸はどこだ」
ローのクマの深い目がすごむ。

「わちきに向かってなにを!お前!不敬罪で死刑だえ!」
「うるさい」
「グェー!」
ローが天竜人を締め上げ、指し示した方向は雷の鳴った方角だった。また同じ場所で雷が落ちた。
3人は走ってそちらへ向かった。嫌になるほど大きな敷地の屋敷が続いている。







「まずい。囲まれている」
カミーユが病人に手を貸しながら言った。
ナミが最初の敵を倒した後、他にも敵が攻めて来たので邸の中へ退去したのだ。
何発か雷を落としたあとナミも室内へ帰って来た。

「バルコニーある!?高いところから攻撃しないと私がやられちゃう!」

この邸は今や敵に四方を囲まれていた。
攻撃・防衛できるのはナミだけだ。ナミは前に立って背後を守るタイプではないが、この状況下では仕方がなかった。

バリバリッ!!
雷の刃が敵を貫く。

「うそ⋯⋯何人いるのよ」
敵が舞いあげる砂塵が近づいてくる。
雷を落とせば一定の時間は稼げるものの、後から黒く蠢めく集団が負傷者の隙間を縫って迫っていた。
───門が突破され、カミーユ達に危害が及ぶのも時間の問題かと思われた。

ナミが武器を握り直したその時、敵の放った矢が目前に迫っていた。
避けられない!
そう思ったのに、矢が何かに打ち落とされたように目の前で力を失った。


バサバサと鳥の大きな羽ばたきが頭上で聞こえた。
大きな影がナミを覆う。
いや、大き過ぎる。
見上げるとそれはピンクの羽を纏った男で、ドフラミンゴが空から降り立って来た。

「ド───ドフラミンゴ!?」
「フッフッ!よく持ち堪えたじゃないか」

まさに天の助けだった。
ドフラミンゴは糸を細かい網目にしてナミを矢から守った。

元々広範囲に及ぶ攻撃を得意とする二人である。
標的とするドフラミンゴが現れたことで敵がざわめいたが、二人は糸と雷で応戦し、敵を蹴散らして行った。

七武海と背中を合わせて戦うなど、どんな巡り合わせだろう。
そもそも自分は戦闘員ではない。とナミは思った。
攻撃し続けたせいで息は上がっているし、武器を握る手も力が入らなくなってきた。

「海に帰りたい」
「そう人魚のようなことを言うな」

ハァハァ、息を切らしてナミが膝をついた。
敵が粗方引き上げて行ったからだ。
ドフラミンゴが手を差し出した。

「大丈夫か」
「あんた、なんで空、飛べるの」
「ああ、糸で」
ドフラミンゴは指を動かした。
しばらく息を整えていたナミは素直にその手を取って立ち上がる。

「カイドウはあんたを探してるみたいなんだけど、出頭してくれない?」
「つれないねェ。おれがどうなってもいいと?」
いい。とナミは頷いた。
この男、ただで死にそうにない。

「なぜカイドウがこの行動に及んだのか、おれには話が一向に見えない」
カイドウの部下は口々にドフラミンゴを捕らえろと叫んでいた。
わざわざマリージョアを襲撃して探しているのだ。余程のことだろう。

「何かしたんじゃないの?」
「誓って覚えがない」

スマイルの取り引きはうまくやっていたはずだった。
宝石はダイヤモンドにやると決めたので、その話は持ちかけていないし。

さて、と言った様子でドフラミンゴがナミを見た。

「お前を助けたのだから、キスくらいしてもいいと思わないか?」
「キ!?」
ナミは声を上げた。
「お、思わない!!こんな時に何を考えてるのよ!?」

ドフラミンゴがナミの肩を掴む。
別に処女をくれと言っているわけじゃない。キスするくらいは当然良いだろうと思っていたし、舌を絡ませるのは気持ちが良さそうだった。
生死を賭けた戦闘の後は特に。

ナミが精一杯の抵抗でドフラミンゴの口を押し返していると、敵が引き上げて行くのを確認したカミーユがバルコニーへのきざはしを上がってきた。

「おやまあ」

カミーユが袖で口元を隠した。
すぐにナミが抵抗しているのを察して間に割り込む。

「これ、この娘はわたしの妻なんだけど?ごうつくばりのドフィーちゃん」
「昔の調子で呼ぶな。泣き虫のカーミャ」
「あんたたちそれどころじゃ」

ナミが言うと、カミーユが優しく笑った。

「よく頑張ってここを守ってくれたね。ありがとう。こなたには頭が上がらぬな」
ナミはその美しさに唖然としたが、気を取り直して言った。

「で、これからどうするの?今のうちに早く逃げないと」
「誰かさんがカイドウに話をつけに行ってくりゃれば良いが」
2人がドフラミンゴを見る。

「カイドウのとこに行って攻撃やめてって言って来てよ。私はその隙に逃げるから」

「どこに逃げると?ドレスローザに来る約束だったはずだが」
「約束してないわよ!?」
ナミが目を剥く。
「ファミリーに会わせようと思っていたのに」
「外堀を埋めようとすな!」
スパーンとナミがドフラミンゴの脇腹を叩いた。

その時、階下で物音がした。ドアを開ける音と、何かが落ちたような音。

「何事」

三人は室内に戻って、夫人たちの元へ戻った。

「誰です、あなたたちは」
摺墨が誰何したのは、三人の男たちだった。
いずれも息を切らし、その目は誰かを探している。
「ナミは⋯⋯」
一際美しい顔をしたオレンジの髪の男が言った。
摺墨たちは誰のことかわからず訝しむ。

「ナイア!ロー!コビー!」
ナミは駆け寄って状況を説明した。
「お前、無事で」
ローがナミを抱きしめたので、その後ろでドフラミンゴの毛が逆立つのをカミーユは感じた。
ナイアが自船の船長として方針を固める。

「はいはい、そういうのは今いいから。敵を押し返したんだな?じゃ早く一旦ここを出て、全員うちの船に乗るといい。よろしいですね?カミーユ聖」
ナイアは周りの惨状からある程度状況を予測していた。あちこちが襲撃されて、破壊された建物と足跡の多さ。
まともにやりあって勝てる相手ではない。もう一度襲撃がある前の退却が最善手だ。
その後ろでコビーが摺墨たち病人に手を貸している。

「宜しくお願いする」
カミーユが頭を下げた。
「非常時の為、無礼があるかもしれませんが。御容赦を。」
「かまわぬ、今は戦時下じゃ。万事貴殿に裁量を委ねる故、この者たちを頼む」

もうコビーは寝たきりの者を運び出す準備をしており、ナミたちもそれにならった。


「ローよ、おれにはわからないんだが」

ドフラミンゴが笑顔を張り付けている。

「どうしてカイドウがおれを狙うと思う?
お前、何か知ってるんじゃないか?」

弓が張りつめたような緊張が走った。
ローは顔色ひとつ変えずに言う。

「何も。」

喋りすぎてはいけないとわかっているから、堂々ととぼける。
ちらりと2人を見たナミは事の顛末をまだ知らない。
カミーユからナミを取り戻すために、ローがカイドウをけしかけたことなど。











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