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□WAVE!
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18.ドフラミンゴの作戦





マリージョア壊滅の報は、瞬く間に世界を駆け巡った。
前代未聞の大攻勢は計画も何もあったものではなく、防衛機能は麻痺していた。
このままでは海軍大将の首が飛ぶこと請け合いである。
天竜人からナミを取り戻す為に、カイドウにドフラミンゴを狙わせて戦を起こさせたのであった。


「ハァ、ハァ」
「大丈夫ですか、ナミさん」


ドフラミンゴ、ロー、コビー、ナミが束になればなかなかの戦力であった。
カイドウ軍との戦闘は一進一退で膠着し、その隙に地下の脱出路に夫人たち、カミーユを逃がす。殿をナイアを含めた4人が務め、作戦を練っていた。

「キリがないな」
「カイドウはなぜこのタイミングで俺を"獲り"に来た?何が目的だ」
ドフラミンゴが言うと、ナミ以外の人間がスッと真顔で目を逸らした。
先ほどローにカマをかけたドフラミンゴは、結局彼の真意を測りかねたが、この状況にあってはカイドウとどう戦わずに済むかを模索しなければならなかった。その為には、圧倒的に情報が足りない。
目の前の3人の男達と比べれば、ドフラミンゴは情報戦において1歩リードを許す状態であった。だってはめられているのである。ローは全てをドフラミンゴになすりつけて逃げる気満々であった。

3人は思い思い別の方向を向いて誰かが喋り出すのを待っていた。気まずそうに、いやぁ…?自分は何も知らないッスけど…?みたいな顔をして黙っている。
ナミはそれでピンと来た。元々ローはカイドウにドフラミンゴを始末させようとしていたから、手を回したのだと。
「…………」
全員がドフラミンゴを無視するのでナミも気まずさが限界に達した。
カイドウとは交戦してはいけない。一か八かで挑む相手ではない。
だから持てる情報、使えるものは何でも使うべきである。
「ねぇ、カイドウの目的って」
「もうこいつが限界だ、おい」

ローはドフラミンゴの問いを黙殺してナミを気づかう風に適当に言葉をかけ、水を無理やり飲ませた。
水差しから直接流し込むので溺れかけている。

「なるほど、やはりお前の描いた絵図か」
ドフラミンゴは確信して静かに指を動かした。もちろんローから見て死角になっている指を。

「ゲホッゲホ、なに…!?」
ナミの体が糸によってドフラミンゴに引き寄せられる。

「おれはお前らを置いて空から逃げられる」
ドフラミンゴは人質を見せびらかすようにナミの首に手をかけた。ナミを連れて飛んで逃げようと言うのだ。カイドウに捕まるくらいなら、そうした方が良かった。
「空はカイドウの戦場だぞ」
カイドウの主戦場はその能力から空である。

「ちょっと待て。お前をダシにしたのは悪かった。そいつを取り戻すためだったんだ、こっからのことは共に手を考える」
「ナミさんを離してください」
ナイアとコビーが言い募る。だがドフラミンゴはそれを無視してローに向き直った。
「何と言ってカイドウを怒らせた?ローよ、お前にはほとほとがっかりしたよ」
「カイドウに宝石を渡すと言った時間にお前は来なかった。それだけのことだ」
「チッ」
そういうことなら逃げの勝ち筋も薄いではないか。自分は窮地に立たされている。

「ねぇ待ってよ、じゃあ」
「ドフラミンゴ、おれは宝石をカイドウにくれてやってもいい」
ナイアとナミはほぼ同時に言った。
「ええ、カミーユ聖は東の海のことを約束してくれたわ。宝石をカイドウに渡して場を収めましょう」
全方位ウィンウィン作戦である。
私たちはカイドウ軍を撤退させて欲しい。
カイドウは宝石が欲しい。
何に使うのかは知らないが、このパワーゲームの中で最弱のナミにとっては(しかも現在ドフラミンゴに人質にされている自分にとっては)、カイドウに交渉することしか活路が見い出せないのであった。

「カイドウが悲願である自死を願うのであれば、ドフラミンゴ、お前にも賭ける価値があるんじゃないのか」
「…簡単に言ってくれる」
ローに良いようにはめられている現況、ナミを確保することで何とか尻尾切りに合わないという体たらくだ。情けない状況にドフラミンゴは泣きたくなる。

「宝石はどこにある」
そう聞かれて、ナイアはドフラミンゴを指差した。純潔の乙女を後ろから拘束しているからだ。
ドフラミンゴは長い指を1本ナミの胸元に差し込んで布に引っ掛けると、クッとくつろげてそれを覗いた。
───そこには"イルヤンカシュの涙"が堂々と光っていた。









ドフラミンゴが上空へ飛び上がった。見渡すと、レッドラインの真っ赤な大地に青い稲妻がほと走っている。
「あれが見えるか」
小脇に抱えたナミに聞いた。
「青い…何?大きい雲…?」
「アレがカイドウだ」
「今からアレに会いに行くの」
「ああ」
「生きて帰って来れるの」
「………」
男は答えなかった。
「やめて帰ることはできたり?」
「お前を手放した瞬間、俺はカイドウに突き出される」
「ま、そうよね。私はもう孤児院建造の目的を達成したから自由なら逃げるわ」
マリージョアもドフラミンゴもどうなろうと知ったことではない。カミーユ達の安全が確保された今、保身以外何も大切ではなかった。
「そう。お前がおれに勝てない限り、おれはお前を手放さないし一蓮托生だ」
「私を持ってる(?)限りローたちは手出しできないってことね。三すくみが出来上がってるってわけだ」
持ってるという表現は正しい。大男に抱えられたナミはおもちゃの人形のようだし、抵抗しても勝てるわけがないので持たれたままリラックスしている。
ナミは腹をくくった。

「ねぇ、協力したらお願い聞いてくれる?」
「やぶさかでないねェ。美女の言うことを聞くのは」
「これが終わったら解放してね」
「そんな約束に何の意味がある?こっちが実力行使できる限りドレスローザに連れて帰るが」
ドフラミンゴは稚拙な交渉にびっくりして乾き笑った。相手を思いやったり、尊重したり、意見を聞き入れたり、そんなことは対等な相手(いればの話だが)にすることであって、かわいがる用のねこにすることではないから。強者は弱者の言うことを聞く必要はないのだ。

「じゃあカイドウに寝返る」
「は」
「この人が悪意を持ってすっぽかしましたって言って、あんたをやっつけてもらう」
「フッフッ」
男はあーおもしろいと言った風に頭を抱えて笑った。それだけは困るのだ。ドフラミンゴはよしわかったと声を上げた。
「全面的にそちらの意見をのむ」
「契約成立」
と言って握手し、カイドウの元へ向かった。
解放を約束するなんてそんな気はさらさらなかったが、きっちり嫌なところをついてくる猫の頭は大好きなので。



カミーユ邸を取り囲んでいたカイドウ軍の前に降り立ち、宝石を渡すと言えば、案内に出てきた隊員が戦士たちに道を開けさせた。
カイドウに近づく度、案内の位が高くなり、最後にはどこかで見た顔の戦士が務めたが、ナミはそれが誰だか思い出せなかった。


「取引相手が間違いないかを確認することにしねぇか、カイドウさんよ」
「お前はおれに嘘をついたよな。宝石を渡すと。…反故にされるとはいい気分じゃねぇなァ」
「おれに恨みを持つ者がやったことだ。おれは言っていねェし預かり知らん。悪いが、これで怒りを収めてくれねぇか」

ナミがドフラミンゴの後ろから進み出た。首飾りがよく見えるように、カミーユ邸にあったドレスを着ている。

「ウォロロ…こいつが件の」
「そうだ。願えば何でも叶うと言う、幻の聖遺物さ。そして」

ドフラミンゴがナミの髪を一房手に取る。

「これが鍵の乙女だ。この者の血を数滴宝石に吸わせた時、宝石は願いを叶える」
ナミはバッとドフラミンゴの方を見た。
話が歪曲されている。ナミでなければならないような言い方である。
こいつらは年がら年中交渉だの取引だのをしているので、相手に与える情報を極力絞っているのだ。そうすれば優位に立てる。
しかしそれはナミ単体にはメリットをもたらさない。
ナミには事態が良からぬ方向に行っているとしか思えなかった。
そして現実はその通りになったのである。


───ガチャン。
幽閉されたるはカイドウの安宅船(あたけぶね)の座敷牢、宝玉と優艶の乙女、そこに留め置かれたり。
べべん。







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