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□泥棒猫と発情期
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泥棒猫の発情期








深夜、ナミは息を潜めて女部屋を抜け出す。
昔から夜目がきく方だ。
頼りになる灯りもない暗闇の中、行動するのは得意分野だった。

夜のトレーニングルームへ。
階段を登った頃には頬は上気し、下着は濡れていた。

そして、トレーニングの合間にうたた寝をしていた男を起こす。
乱暴に服を引っ張り、肌に触れ、男の物を口に含む。
しばらく夢中で舐めていると、止めるように強く引き離され、組み敷かれる。

滑りと肌のぶつかる音。
水の濁音。
漏れ出る嬌声。
体の奥を突く瞬間。

「⋯⋯っ!」

気持ちいい。

「あ⋯⋯!!」

男のものが一層硬くなり、中がびくびくと痙攣する。

男と女の荒い息遣いだけが部屋に響き、並んで天井を仰ぐ。
ナミは息を整えながら考えを巡らせる。

波も穏やか。
敵もいない。
明日の朝ごはんは何だろう。

ナミがシーツに身を預けたまま口を開く。


「⋯⋯じゃ、そういうことで⋯⋯」

「いやいや待て待て。」

去って行こうとするナミにゾロが腕を伸ばす。

「どこ行く気だよ。」

「寝る。」

「寝るじゃねェだろ。ヤるだけヤっててめーは。」

ゾロの言いたいことはわかっている。
こんな対応をする女には困惑するだろう。
セックスが終わったら、さっさと帰ってしまう。
自分はいつもこうだ。

自分の服を集めて抱えたナミは困った顔をする。

「ごめん。またね、ゾロ。」

ゾロは誠実な人間で、こんな関係をよしとしない。
でも自分にはこの関係が必要なのだ。
ただ、その期間に体を合わせる相手が。








「ああっ⋯⋯っ!!」

「ごめん!痛かった?」

サンジが腰を止める。

「うう、ん⋯⋯っ。最、高⋯⋯っ!」

サンジの痩せているのに逞しい体躯に掴まり、快楽を貪る。

「ナミさん腰振ってる⋯⋯エロい⋯⋯」

時間も場所も関係がなかった。
サンジが人気のない食料庫に行ったところに、うっとりとした目で現れたナミは、男が作業をする手に自分の指を重ねた。
中指で、触れるか触れないかの肌をなぞる。
それで男に電気が走るのがわかった。
それが合図だった。

上では誰かが走り回る足音が聞こえる。

こちらは人気のない狭い部屋で、声を殺して犯されている。

事が終わり、やっと息が整って来る。

「てかさーナミさん。」

タバコに火をつけながらサンジが言った。

「おれだけにして欲しいんだけど。彼女になってくれねーかな。」

ナミはしばし考えてちらりとサンジを見た。

「だってサンジくん忙しいでしょ。」

背中のホックをつけながら言う。

「それにサンジくんにはもっと、素敵な人がふさわしいと思う。⋯⋯私なんかより。」

「ナミさんそんな」

「ビョーキなのよ。ごめんね。」




そうだ。
病気だと思う。

自分のこのだらしなさを、ウソップにだけは話している。
この男は幼い頃からの親友のように、理解してくれているのだ。

「もうこの際あんたでもいいわ。」

「ヤメロォ!おれにはカヤと言う心に決めた人がっ⋯⋯」

いつも通りの軽口にウソップがガタガタと仰け反った。

ナミの貧乏ゆすりは止まらない。
まるで盛りのついたメス猫のようだ。

「⋯⋯またアレなんか。」

「そう。今回やばいわ。あいつら見てるとヨダレ出そう。」

あいつらとは、上半身裸で走り回っている船長たちだ。
この猛暑に、海パンになって水鉄砲で楽しそうに遊んでいる。

珍しくゾロも参加していた。
サンジは顔面に水をかけられたことに怒り、ルフィをめがけて水鉄砲を放ったところ避けられたのでゾロの顔面に当たり⋯⋯
後はご想像の通りと言うところだ。

筋肉が隆起した胸板に、水滴が滴る。
首筋に汗と水が混じり、指が───


「おいナミ!!お前顔ヤベェって!!」

「へ?」

「風呂で水かなんか浴びて来いってほら!!!ヨダレ拭いて!」


かなりトロトロになった顔でルフィ達を見ていたナミは、ウソップに冷たい水を浴びるよう命じられた。


毎日と言うわけではない。
毎日男の体を必要としている訳ではないが、ある一定の期間だけ、自分ではどうにもできない期間がある。

理性が、本能に勝てない。

そんな時、そう言う雰囲気になった。
ゾロと酒を飲んでいて、酔った自分を抱きとめられた時。
サンジとキッチンのすれ違い様に、事故で手が腰に当たった時。

船が寄港していれば行きずりの男と一晩関係するのが1番後腐れがないが、寄港も体も自分の都合でコントロールできることではない。

普通の恋愛は昔から諦めている。
泥棒もしていたし、悪いこともしていた。

サンジに言ったことは、本当にそう思う。
私よりも、ふさわしい人がいるだろうなと、思う。



冷たい水を頭から浴びた。
体の火照りが冷やされて行く。

と、思っていたのに。

最後に静かに湯に浸かっていたのが、よくなかったかもしれない。
どやどやと喧嘩する2人の声が聞こえた。
お前のせいでずぶ濡れだの、風呂に毎日入れだのの話をしながらガラリと浴室のドアが開けられた。

そこにはゾロとサンジがいて、目が合って、そして。

「ぇぇええええ⋯⋯?」

一気に体温が上がり、ナミは泣きそうに顔を歪ませ、目が潤んだ。
ボルテージが上がる。
体が準備してしまう。

「おいナミ!?」

「ナミさん鼻血!!」

ナミの鼻から血が垂れ、そしてぶくぶくとバスタブに沈んで行った。

「チョッパー!!ナミさんが鼻血!!!」

「チョッパー早く来い!!」

サンジとゾロがザバザバと湯の中へ入り、ナミを助け出す。

タオルの上に寝かせるとナミはすぐに飲んだ水を吐き出したので、2人は息を吐いた。

「ゴホッゴホッ!ごめ⋯っ」

「ナミさん大丈夫⋯⋯!?」

「すぐチョッパー来るからな。」

心配そうな2人の顔が覗き込んで来る。






⋯⋯⋯⋯言えない。発情して鼻血を出して倒れたなんて。







ナミが動けない体でそう思った頃、慌ただしい足音が聞こえ、チョッパーが勢いよく洗面室の扉を開けた。
そしてその光景に目を見張る。

「うっ!なんだ!?この匂い!?」

チョッパーは小さな蹄で鼻を抑える。

「ナミ!発情してるだろ!すごい匂いだ!」

「ちょ⋯⋯あんた⋯⋯今ここでそれ、言う⋯⋯?」

起き上がることのできないナミは弱々しく口を開くので精一杯だったが、かなり恥ずかしい思いをしていると言うことだけはわかる。
地面深く埋まりたい気分だ。

チョッパーは意に介さない様子で薬箱から漢方を出す。

「これ飲むといいぞ!ましになる。発情するのはだいたい何日間くらいだ?1週間くらい?」

ナミは答えたくないと思いながら、沈黙に耐えきれず返事をした。

「⋯⋯はい。」

「3日くらい特に我慢できない時がある?」

「⋯⋯はい。」

「暖かい時期になりやすい?」

「⋯⋯はい。⋯⋯チョッパーもうほんと勘弁して⋯⋯」

恥ずかしさのあまり許しを請うナミに、チョッパーはニカっと笑った。

「うん。猫みたいだな。ナミは“泥棒猫”だもんな!
人間にも発情期があって、だいたい排卵期の前後1週間くらいが当たるんだ。それは恥ずかしいことじゃないんだぞ!我慢するのはよくないから、ちゃんと発散しろよ!2人とも頼むぞ!」

2人は発情期じゃ仕方ない、と言う顔でナミを介抱した。






それから1ヶ月後。







「ナミ屋の遺伝子を電気泳動装置にかけてみたところ」

「とっ、トラ男くんなんでいるの」

「トニー屋に言われてな。」

「なんなの!?ちょっとチョッパー!こいつになに言ったの!?個人情報保護してよ!医者としてのコンプライアンスどうなってんの!?」

「DNA分析装置じゃねえかよい。持ってたのかい。」

「買った。」

「このために!?高額よね!?そしてあなたは誰!?」

「白ひげ海賊団で船医をやってたマルコだよい。チョッパーに呼ばれて来た。よろしくな、ナミちゃん。」

「えっ、よろしく⋯⋯」

「これが結果だ。」

「猫の遺伝子が混ざってるよい。」

「と言うことは⋯⋯」

───ナミは猫。


真剣な男たちの表情にナミは言葉を失う。



「次の発情期はおれを呼べ。」

「そんな誘い方があるかよい。」


「そんなことある訳ないじゃない!あんたら医者でしょ!?なんなのよ!?もーーー!」




その後、『泥棒猫には発情期があるらしい』と言うまことしやかな噂は世界を駆け巡ったとか⋯⋯。


















「ヘェー。猫の遺伝子ねぇ。」

ウソップがテーブルに頬杖をつく。

「でもなんか納得だよなぁ?人間のものとは思えない精力⋯⋯」

「うるさいっ」

「そう言えば昔見たドラマでさー。遺伝子操作された女の人が猫の身体能力を手に入れる代わりに発情期まで搭載してしまったやつ見た事あるぞ。」

「うう⋯⋯ねこ⋯⋯好きだけど⋯⋯」







遺伝子の真偽はともかく、普通の体になりたい、と思うナミであった。









DNAの電気泳動装置でそういったことがわかるのかは不明なんですが、ぼんやり昔使ったことあるなぁ、と思って登場させてしまいました。

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