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□デッドマンズハンド サボ編ENDボツ案
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19.サボ編(ボツ案)
ナミが目を覚ますと、周りには誰もいなかった。
狭い船室から出ると外が暗い事がわかる。
夜まで寝ていた自分に驚きながら廊下を歩いた。
つらつらと、寝ぼけながら壁を伝って歩くと、曲がり角で誰かとぶつかった。
いい匂いがした。背の高い、精悍な男の割には、花のような甘い香り。
「ごめ⋯⋯ナミ!?起きたのか!?」
「おはようサボ。」
寝ちゃってたと、ナミが目を擦る。
サボはオレンジの髪を見下ろした。
ナミが目を覚ました時、初めに会いたいと思っていた。
でもそれは、自分が望むべきじゃないと言い聞かせていた。
きっと、ナミはエースを選ぶ。
わかっている。
期待などしていない。
諦めることは、苦手じゃない。
「どのくらい寝てた?なんかルフィが起きたって聞いたら、安心しちゃって。行き先もわかんないし、どうすんのこの行軍。」
「丸1日かな。何だかんだ給仕長のもとみんな上手くやってるぜ?軍艦は目立つからどこかで放棄しねぇとな⋯⋯」
給仕長と呼ばれているのはバギーだ。
1日3食食事をふるまう彼に親しみを込めて。
「シャボンディ諸島へ行く?」
「無法者に寛容だし、そうなるかな。」
サボが外を見る。
「じゃあ島に着いたら、私を抱いてよ。」
「うんわかった島に着いたら⋯⋯はっ!?」
ナミは耳を赤くして立っている。
「お前何言って、」
サボは目を丸くして言葉を切った。
からかっているのだと思った。
ナミは寝ぼけていて、目の前の人間が誰かわかっていないのだと。
「お前にはエースがいるだろ。」
「⋯⋯」
ナミはしばらく黙って、口を開いた。
「ここにはイワンコフ達革命軍幹部が乗っていて、探査船も回収した。あんたは仲間とそれに乗って帰るでしょ。だから、もう会えないと思ったの。」
俯いて言う。
「でも、冗談よ。もういい。」
涙は落ちないで欲しかった。
ナミは瞬きを堪え切れず涙を一粒落とした。
目が覚めた時、初めに会うのはサボがいいと思っていた。
ルフィは元気になった。エースは解放できた。
今こんなに苦しいのは、サボとのいつか来る別れだ。
私達は違う世界を生き、違う目的を持つ。
交わったのは奇跡だった。
運命が重なって、密接に関わり合い、問題を解決した。
ぶつかり合い、理解し合った。
なのに。
サボは私の気持ちを信じない。
私が他の誰かを想っていると思い込んで。
私は、自分が誰を望むのかやっとわかったのに。
抑えられない苛立ちをぶつけられたことも、そんな弱さを見せてくれたことも、自分は受け入れたかったのだ。
サボに惹かれていたから。
だって、サボは自分を強くしてくれた。
私の持てる力を信じてくれた。
涙を隠そうとするナミをサボが包むように抱きしめた。
「良くないだろ。」
「⋯⋯もういい。」
「本当にもういいのか?」
「⋯⋯よくない。」
サボが吹き出す。
破顔して、笑うとまだ少年のようだ。
「なぁナミ。島まで待つのは無理だ。」
「今抱くよ。」
夢みたいだとナミは自分の体の下で震えた。
しなやかな体は強張って、あまり経験がないのだと言うことがわかる。
それが嬉しくて、更に自分を高揚させた。
ナミのことを、綺麗だとか、セクシーだとか言う人間もいるのだろう。
だが不思議なことに、そんな感想は持たない自分に気づく。
───すごく、可愛い。
「変に思うかも知れないが。」
背中に声をかけられて、ナミはサボの方へ寝返りを打つ。
「俺は好きになると情熱的なんだぜ。」
サボがナミの手を取り、指にキスをした。
ナミはくすくすと笑う。
「なにそれ。」
ナミが鼻を寄せ、唇を啄ばんだ。
頬が緩むのが止まらない。
サボの新たな一面を見られたことに、ふわふわと心が浮き立つのを感じる。
指を絡め、細い首筋に顔を埋めて、サボは言った。
「離れたくない。」
「⋯⋯そうね。」
ナミはサボの頭を撫でる。
オレンジの香りに包まれながら、唇にナミの鼓動を感じながら、サボは細い体を抱きしめていた。
自分にこんな情熱があることに、驚いている。
離れたくないし、離したくなかった。
この存在にどれほど救われただろう。
もし、ナミと出会わなかったら、エースと会えなかったかも知れない。
空洞が満ちることはなかったかも知れない。
記憶が戻ることも、こんなに人を愛することも、知らないままでいるなんて。
そんな恐ろしいことは、もう二度と。
「お前がいないと、もう生きて行けない。」
触れると火傷をしそうなほどの情熱だ。
ナミは胸を射抜かれ、頬は熱くなった。
「サボ⋯⋯」
いつも、想っていようと思った。
この目の前の人を、心の弱い人を、同じ場所では生きていけないとしても、想い続けることで支えようと。
「私はあなたを忘れない。」
忘却を乗り越えて、サボは再会を果たした。
大切なものを思い出し、大切なものに出会った。
2人にとって、きっとこの言葉は大きな意味を持つ。
明日もし離れるとしても、この気持ちは本物で、忘れることのできない、最後の恋になる。
End