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5.試し行為
試し行為
相手が自分をどの程度受け止めてくれるのかを探るために、わざと相手を傷つけるような行動を取ること。
数日が経った。
ナミはよく乾いた洗濯物を抱えながら階段を降りる。
あれからサンジは驚くほどいつも通りだった。
温かい食事を作り、以前と変わらぬ態度で接して来た。
誰も気がつかないほど自然でそつのない振る舞いに、私だけが怯えている。
「ナミさん」
サンジが階段の下で壁にもたれていた。
煙草を吹かしながら船の影から出てくる様に、ナミはゴクリと唾を飲み込む。
もはや自分は被食者だった。
捕食者に狩られる獲物。
「朝食はどうだった?美味かったかい?」
「美味しかった、わ」
「良かった!ナミさんの口に合うだろうと思ってさ、エシャロットを漬けてたんだ。」
「ありがとう⋯⋯」
攫われる腰。
洗濯物で塞がった両手。
その下で胸を触るサンジに抵抗もできず、ナミは俯く。
ふわふわと胸の先端を指で押されて、ナミは唇を噛んだ。
そうしなければ声が出てしまう。
部屋へ帰るとすぐに挿れられた。
首筋の匂いを嗅ぐ音が聞こえる。
声もなく泣いてサンジの体に掴まっていた。
足を持ち上げられているとそうせざるを得ず、終わる頃にはサンジの腕には爪痕が残った。
ナミの体をベッドの上へ横たえてサンジは部屋を出る。
そんなことが何度か続いた。
嫌がる君を見たとき、心が千切れるような痛みを感じた。
でも気づいた。
君がおれを拒否しないこと。
嫌だと言ったのは最初だけで、後はおれにされるがままだ。
───もしかしたら、受け入れてもらえるんだろうか。
そんなはずはない。
これだけ酷いことをして、嫌われていないはずがない。
でも、もしかしたら。
そう思って、拒否されないことを確かめる為だけに、君を抱いた。
安心した。
罵詈雑言を投げつけられることも、拒絶もなかった。
ただかわいそうな大切な人が、自分の下で震えているだけだった。
どこまでやったら君はおれを突き離すだろう。
安心できる日など来ない。
拒絶されないその一瞬しか自信が持てない。
でもやめられない。
そうして中にまで出した。
これは自傷行為だ。
大切な人の体を使って、自分を慰めているだけの。
なぜ君はおれを拒否しないんだろう。
軽蔑した、絶望したとひとこと言えば、こんな男すぐに壊してしまえるのに。
痛む腰を抑えながら、ナミが蜜柑の手入れをしていた。
サンジは近くでシーツを干していた。
今日は洗濯日和の快晴で、雲ひとつなく、ちょうど船内で水鉄砲をしていた船長がサンジのベッドをびしょびしょにしたからだ。
重い沈黙が続いていた。
もくもくと作業するナミの背中をサンジが切なげに見ていた。
サンジの見聞色は天賦の才だ。
キラリと空が光り、サンジは背筋に悪寒を感じた。
「ナミさん危ない!!!!」
そう言うと同時に空中に飛び上がったサンジは、ちょうどナミの真上で何かと接触した。
サンジが蹴り飛ばしたそれはサッカーボールほどの大きさで、ナミやみかんの木に当たらないよう軌道を変える。
嫌に、柔らかかった。
攻撃ではない、命を奪う気などない、なにか別の意図を持った何か。
地面に着地して落ちて来たものを見る。
「サンジくん、大丈夫!?」
駆け寄るナミの声が嬉しかったのに、サンジはそれを見て凍りついた。
ジェルマ66の文字が見える。
「一体なに?」
「⋯⋯」
ナミもその文字を見て言葉を失う。
───イチジ?
それを見て、確かにそう思った。
中身は手紙だった。
ジェルマ王国の科学を利用して衛星から船の位置を捕捉し、長距離ミサイルを打つ要領でこれを寄越したのだ。
「サンジくんに⋯⋯?」
そう呟くナミに、とぼけたことを、とサンジは思った。
ナミの手を引いて手紙を取り出し、彼女の部屋へ行ってベッドに放り投げた。
イチジからナミへの手紙だった。
サンジは笑顔でそう言った。
「ヘェ、イチジからナミさんへだとさ。」
「わた⋯⋯し⋯⋯?」
ナミが呆然と呟くと、サンジはいっそう笑みを濃くする。
「おれが知ってる奴は、こんなことする男だったかなァ。」
上から見下ろされ、ナミは怯えた。
サンジが怖い。
怖くて、悲しい。
「君が変えたのかな。ルフィと一緒に捕らわれてたはずの君が、イチジに渡されて、一体なにがあったんだろうな。おれがプリンちゃんにプロポーズしてる間に、君は⋯⋯」
ズキ!
ナミは目を見開き、痛みに張り裂けそうな胸を押さえた。
サンジはプリンにプロポーズをした?
そうか、筋は通す男だ。
結婚式前に、政略結婚と言えどプリンを尊重し、愛し、大切に想い、安心させる為に、きちんと言葉を形にした。
とてもサンジらしく、納得できる行動だと思う。
勝手に涙が流れて、ナミは嗚咽を漏らした。
わかっていたはずでも、恋が終わる瞬間は辛い。
歪な関係を続けているのならば余計にそうだ。
サンジはその姿を見て、悪魔が首をもたげるのを感じる。
ナミの顔を掴んで唇を合わせた。
唾液を絡ませて口内を犯した。
この期に及んで抵抗しないナミを押し倒して下半身に触れる。
中指が柔らかな下着の上を羽のようになぞると、中から蜜が溢れ出すのがナミにもわかった。
サンジの手は緩まない。
そして笑いながら言った。
「ナミさん、今この手紙読んでくれない?」
ナミは顔を歪ませた。
絶え間なくもたらされる快楽と、サンジの凄惨な要求にただ脳が混乱する。
「⋯⋯そ、んなこと、できない⋯⋯っ」
身体を捩って逃げ出そうとしたが、サンジに腰を掴まれてベッドの上を引きずられた。
ずぷりと差し込まれるそこからは体液が漏れ、容赦なく打ちつける動きに卑猥な水音が響く。
「あっ、あっ、ああっ!」
苦しい程に自分の中に押し込まれるモノがナミの心を挫けさせる。
自分の意思は風前の灯のように小さく、目を閉じれば消えてなくなりそうだ。
決定的な言葉をサンジに投げられて、ナミは目をつぶった。
「できないなら、もう、いいよ。」
おれを見捨ててもいいよ。
壊してもいいよ。
目の前から消えていいよ。
仲間だと思わなくていいよ。
もう嫌でしょ?
嫌いになったでしょ?
───そう泣いているように、ナミには聞こえる。
震える手で手紙を受け取った。
視界がにじむ中、イチジへの良心の呵責に苛まれる中、ナミはそれを読んだ。
そこにはイチジの純粋な気持ちが綴られていた。
こんな風に読まれるべきではなかった想いの丈が。
それがナミの心を締め付ける。
「あっ、あの時の⋯⋯っ、おれの気持ちは、しんじ、つだ⋯⋯」
後ろから突かれながらイチジの言葉を読む。
私への気持ちを。
私たちに踏みにじられながら。
「んっ、あっ⋯⋯もし⋯⋯⋯⋯」
ナミが先を読むのを止める。
サンジは苛立って余分に強く腰を突き立てた。
「もし、何?」
「読めない⋯⋯っ、ああっ、サンジく、もうやめて⋯⋯っ!!」
「読んで。」
サンジはナミの顔を自分に向けさせて言った。
「嫌だ?やめる?⋯⋯おれが酷いと思う?」
それが、ナミには、
小さな子どもがわがままを言っているように見える。
「うっ⋯⋯」
ナミは観念した。
「⋯⋯もし、お前も同じ気持ちなら⋯⋯っ、〇〇島で、待っている。」
そう結んで手紙は終わっていた。
汗と涙で髪が顔に張り付く。
べたべたとする肌に温かいサンジの手が不用意に触れた。
「⋯⋯行くの?」
「⋯⋯!そんな、の、んっ、わかんな⋯⋯」
仰向けにされて、キスをする。
息と息が混ざり合って、熱くて、目をぎゅっと閉じる。
「⋯⋯っ!!!」
どちらも果てて、汗と荒い呼吸だけが残る。
どんな感情も、一瞬の快楽に押し潰されてしまう。
何も考えられないままに、いつもと同じように、サンジは離れて行った。
逃げるようにして、出て行く人。
何が悪かったのか、誰が悪かったのか。
どうしてこんなに惨いことができるのか、わからないまま。
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