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□泥棒猫と呼ばれるようになったわけ
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三、真相









「また来てるよ」
「もう3日連続だ」
ウソップとチョッパーが顔を見合わせて微笑ましく見ている。
次の日、アランは午後にメロンを持ってきた。次の日は自分の店の高級ケーキを持って来た。
ルフィは完全に餌付けされており『食べ物をくれる人』とアランを認識している。
船の工期はやはり延びてしまったようで、ならば小旅行だとプッチの滞在計画も進行している。

「どこの店に行こっかな〜♪」
「ここもここも行こう!!ここもここも全部食う!!!」
チョッパーとルフィがガイドブックと頭を突き合わせている。
美食の街プッチ!押さえておきたいB級グルメ!とある。
「ウウウ⋯⋯おれ、こんなに楽しみなの初めてかもしれねぇ⋯⋯」
ルフィはとうとう震え出した。
どんな島に行く前もそんな反応は見せないので、相当やばいところまで来ているのだろう。

「ルフィさんは面白いですねぇ」
アランが言う。
「ナミさんの傷の具合はどうですか?」
チョッパーに聞くと、小さな鹿は慌てて医者の顔に戻った。
「内出血もないし、もう普通の生活に戻って大丈夫だぞ」
良かったな〜ナミ!とウソップ達が喜ぶ。

「ナミさん、少し話せますか?」
「え?いいけど⋯⋯」
アランはナミを散歩へと連れ出した。
「あんな顔してグイグイ行くなあ」
ウソップが二人の後ろ姿を見送った。
しばらくして買い出しから帰って来たサンジが、ナミがいないことに激怒したのをなだめる。
「オオイチョッパー!なんでナミさん外出させてんだアイツと!」
「ごめん、ナミは十分安静にしたから誰かついてるならいいかと思って⋯⋯」
「そういう意味じゃなくてだな!!」
「まあまあまあまあ」
「すみませんが、ナミという方はこちらに?」
警官が扉の前に現れたのを見て、みんなどきりとする。
ウソップが対応して、警官は去った。
部屋へ戻って来たその顔はどこか青白い。
「おい、今警官⋯⋯」
チョッパーとサンジが違和感に気づいて近寄る。
ウソップは呆然として、混乱した顔つきで言う。
「あの夜、ナミが子供を助けたって言ってたよな?」
「うん」
「次の日、アランがあの子供は助かったって言ってたよな」
「言ってたな」
サンジが思い出して言う。
「今⋯⋯警官が、男の子の靴を見つけたって⋯⋯」
眉根を寄せる二人。
ウソップは顔面蒼白だ。
「それで、その子死んだって⋯⋯」









「突然連れ出してすみません」
「いいのよ、久しぶりに外へ出られて嬉しい!」
ナミが笑顔を見せるのに、アランの顔は浮かない。
「ここで⋯⋯あなたを見つけたんです⋯⋯」
「あ、そうね。あの水路から落ちて、ここまで流されたみたい」
ナミは髪を押さえて水路を覗き込む。
「そう、青白くて、僕は最初死んでるのかと思った⋯⋯」
「それをあんたが助けてくれたのよね。ありがとう。あんたがいないとどうなってたか」

海にそのまま流されていただろう。
ウォーターセブンは地盤沈下を繰り返していて、水路の下には海水に沈んだ街が続いている。
海はすぐそこだ。

ナミは満面の笑みでアランを振り返った。
すると、やけに距離が近い。

「アラン⋯⋯?」
様子がおかしかった。
悲しそうな、辛そうな顔で、背後に立っていた。
「君に出会わなければ、俺は⋯⋯」

「ナミさん離れて!!」
サンジが駆けつけた。
「そいつは嘘をついた!!ナミさんが助けた子供は死んだと連絡が来た!!何が目的でナミさんに近づいた!!」

同時に、アランの腕がナミを捕まえた。
まるで盾にでもするかのように。

「嘘はついていない!証明できる!でもそれは信頼できる者にしか教えられない!」

「アラン⋯⋯どういうこと?」
ナミは冷静に聞いた。刃物を突きつけられている訳ではないのに、サンジが動けないようになっている。
自分の身を案じるあまり、迂闊に手を出せないのだろう。後ろからルフィが来るのも見える。
アランの人となりを見ていたつもりでいるから、ナミにはこの状況が信じられない。
「ねえ、答えて」
アランはひどく悲しそうな顔をした。
こうなってしまったものはしょうがないと思い、震えて言った。

「⋯⋯俺を信じてくれる?」
耳元でアランが囁くのに、ナミはぞくりとした。
何を考えているのか、得体が知れなくて怖かった。
でも。

あの男の子がどうなったのか、私には知る権利がある。
ナミがこくりと頷く。
ふ、と力が抜けた気配があって、体を抱かれた。

アランはナミと一緒に水路に落ちたのだ。
勘弁してよ、また?と思ったが、アランはナミの頭を抱きしめて衝撃から守っていた。
水面に上がるとすぐそこにボートが用意されていた。
アランはそれにナミを乗せて、追手をまいてしまった。

「海列車ですぐ追って来るわよ。家も名前も知ってるのに」
「今日は休日ダイヤだよ」

操舵を握ったアランはサングラスをかけてニッと笑った。
昨日までとは別人だ。
話し方も振る舞いも何もかも違う。

「いや、でも」
「警察に駆け込む?海賊の言うこと聞いてくれるかな?」
「知ってたの」
「助けた時は知らなかったよ」
ボートの発電機がどるるるると鳴っている。慣れた手つきで列車の線路のすぐ横を走る。

「それで、どういうこと?」
「見てもらうのが早い」

島が見えてきた。
プッチだ。どこか美味しそうな匂いがする。
およそ港とは思えない場所にボートを隠して、雑草の茂る雑木林を歩いた。
そこに小屋があって、アランは戸を叩いた。
「ダン、俺だよ」
ガチャリと木の扉が開かれた。
そこには見覚えのある男の子がいた。
あの時溺れていたあの子だ。

「ナミさん!」
男の子はナミに抱きついて来た。
「助けてくださったのに、お礼も言えず、すみません。旦那様が連れて来てくださったんですね!ありがとうございます!!」
「ナミ、彼はダニエルだよ。あの晩君が助けた後、ここに隠れてる」
「死んで、ない、わね。良かった」
肩の力が抜けた。
ナミはぽんとダニエルの頭に手を置いた。

「ダンはあの日聞いてはいけないものを聞いてしまった。それで水路に落とされたんだ。そこに君が通りかかった」

「俺はそれを見つけて、二人を引き上げた。ダンは生きていると知れたらまた殺される。だから死んだように見せかけてもらった」

「さっきはナミにそれを言おうとしたんだよ。サンジさんが来て修羅場になっちゃったけど、本当はちゃんと言おうとしてたんだぜ」

「はぁ、サンジさんにうちのレストランに来て欲しかった⋯⋯下手を打っちゃったな〜」

アランは銀の髪を括って上着を脱いだので、もはや別人だった。
貴族のような物腰は今や全く感じられない。

「言ってくれれば良かったのに」
「本当?それはごめん」
ダンを見せなければと思った。

「ナミさんも頭を縫ったって聞きました!もう大丈夫ですか?僕も縫ったんですよ!ほら!」
生きていて良かった。
それでも、ダンの後頭部は半分ほども剃られていて、何センチも傷が続いている。10針で済むかどうか。

「ごめんね、ダンを動かせないから、ナミの回復を待ったんだよ」
「ダンとはどういう関係?弟?」
「まあ、そんなとこ」
ナミはふつふつと怒りが湧いて来た。
どうして、ダンのような子供が命を狙われなければならないのか。

「なんでダンがこんな目に遭わなきゃいけないの!?怪我して、隠れて⋯⋯こんな酷いこと、絶対許せない!」
ナミは膝をついて、ダンの顔を見た。
「何を聞いたの?落としたのはどんな奴だった?こんな傷⋯⋯一体何で巻き込まれちゃったの」

ナミはゾロの言葉を思い出していた。
男の子を突き落としたと言っていた奴が、酒場にいたと言っていた。

「それを聞いたら、君も危ないんだよ」
アランは困ったような優しい顔で言った。

「海賊に危ないも何もある?私、ダンを突き落とした犯人に心当たりがあるの。私の仲間は強いんだから!」

「そうそう、懸賞金が上がったのは知ってる?近日中に発表されるらしい」

ばさりと書類をテーブルの上に広げる。
ナミは息を飲んだ。
懸賞金の書かれた手配書は、平穏との別れだ。

「はあ、これで私もお尋ね者か⋯⋯可愛く撮れてるからそれはいいけど」

「これホント可愛いよね。もらっていい?」
「この前、モデルやらないかって言われて撮ったやつだ⋯⋯」
ナミはじろりとアランを見る。
「何で正式発表前に持ってるの」
「ま、色々コネがあるもんで⋯⋯エニエスロビーで何したの?」
わくわくした顔で聞くアランに、息を吐く。

「どうせ信じてもらえないと思うけど」
「そう、俺もその気持ちだった」
ダンがにこにことそれを聞いている。

「今日はもう遅いから、泊まって行って」
「うそ〜もう最悪〜お風呂は!」
「薪で沸かして入りますよ!僕頑張って焚きますから!」
そう言われては、文句も言えないナミ。

「いやでも⋯⋯ダメよ。サンジくんたちが心配してると思うし、ボート貸して」
「そう⋯⋯では、送ります」
アランは残念そうに言った。




仲間たちに説明するのは骨だった。
「テメェ!」
アランがナミを送り届けた瞬間、サンジがアランの胸ぐらを掴んだ。
「待ってサンジくん!」
ナミはズボッと二人の間に入り、アランを背にしてサンジの胸に飛び込んだ。
「熱くならないで。大丈夫だから」
「ふぁい」
サンジがギュ、とナミを抱きしめ怒りは収まったようだった。

「アランの言うことは本当だった。私は助けた子に会って来たの。怪我はしてたけど、元気そうだったわ」
ナミは訝しがるクルーたちに説明したが、ウソップが言った。
「でもなんで警官は」
「ゾロ、あんたこの前私を探してる時、子供を落としたと言ってた奴を見たのよね」
部屋の隅にいるゾロにナミが聞く。
「あの子は聞いてはいけないことを聞いて、落とされたの。だから居場所は明かせないし、生きていることも言わない方がいい。だから、シュバリエ家が手を回した」
「シュバリエ?」
ぴくりと反応してゾロが言った。
「俺が酒屋で子供を落とした話を聞く前、変な話を聞いた」
男の影が二人、何かを話していた。
「その男たちはアラン・シュバリエを殺すと言ってた」
仲間の視線がアランに集まる。

「参ったな。そんな話も聞いたんですか」
「どういうことなの?」

「実は」

「僕は命を狙われてるんです。僕の婚約者、マリア・メラニー・ルグランに」











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