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□泥棒猫と呼ばれるようになったわけ
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六、私のお人形






最初の結婚の時 うまくできなかった


結婚したその晩、最初の夫はわたくしをひどく痛めつけた。
夫の親類も同様に、わたくしをまるでおもちゃかなにかのように扱った。
マリアは左胸にそっと触れた。
わたくしの胸には焼印がある。おもしろがって家畜のように押されたそれは消えることはない。

それを知ったお母さまは病気になり、お父さまは夫とその家族を殺してしまった。

お父さまはわたくしが結婚した事実すら隠すために、関わった人全てを人形にした。
その人形は、小さかったり大きかったりする。
それは不思議な力を持っているお父さまが決められる。
お人形になると、お父さまのいうことしか聞けなくなる。
お父さまが命じれば何でもする。本当に、なんでもできるようになる。



「お父さまはお母さまが亡くなってからおかしくなったのよ」

マリアは眠るナミの髪を撫でながら言う。
たくさん人形は持っているけど、蜜柑の匂いがする人形は初めてだった。
蜜柑の匂いを嗅ぐと、気分が明るくなる。前向きな気持ちになれる。


それから何人もの貴族と結婚した。
その資産を手に入れると、関わった人たちを全員人形にすることを繰り返した。
わたくしたちが関わった家には何も残らない。


手口はだんだん大胆になった。
アランさまは今まで結婚したどの貴族よりも賢い。
わたくしたちがやってきたことに気づき、婚約の破棄を申し立てた。
だけどそんなのは意味がないことだ。
人形になれば都合の悪いことは忘れてしまうんだから、地下にあるお部屋に入れておくか、よっぽど気に入ればナミのように自分の部屋に置いておく。



「ん⋯⋯」
ナミのまつげが震えて、マリアは笑った。
「あら目が覚めたのね」

「自分のことがわかる?」
「⋯⋯はい⋯⋯」
ナミの体を起こす。
「あなたのお名前は?」
「⋯⋯ナミ」
「血液型は?」
「X型⋯⋯」
マリアは好きなものや、嫌いなもの、ナミのことをたくさん質問した。
ナミはその全てに丸裸の心で答えていく。目は開いているのに、催眠にかかったように虚ろな表情で、意思とは無関係に心を剥かれてしまう。

「あなたはとても明るく見えるのに、心が少しだけ泣いているのはどうして?」

何かの実の能力者である父と違って、マリアに特別な能力はない。
だけどマリアにはその人の心がわかる。人形の声が聞こえて来る。優しい声で話しかけ耳を澄ますと、泣いている音が聞こえる。
「⋯⋯」
「何か辛いことがあったの?」
「⋯⋯母が、殺されたから⋯⋯」
抑揚のない声にマリアは少し怯んだ。

「どうしてお母さまは殺されたの?」
「侵略されて、私たちは奴隷になり⋯⋯奉具が払えなかったから⋯⋯」

マリアはそれを聞いて、やっぱりと思い、自分と似た境遇に嬉しく───ならなかった。

初めて勝手に心を覗いたことを申し訳なく思った。
自分を理解してくれる人を探して、色んな人の心を覗いてきた。
でも、そんな人には出会えずにきた。

「⋯⋯あなたの肩に、たくさんの刺し傷があるのはどうして?」

マリアは自分の胸に触れた。
裸を見た時、刺青の周りの滑らかな肌にある傷がどうしても気になった。
もうやめようと思うのに、知りたい気持ちが止められない。

「⋯⋯母を殺した奴に入れられた刺青が⋯⋯死ぬほど嫌だった⋯⋯私の大切な人を傷つけたから、もう腕が取れてもいいと思って、刺した⋯⋯」

「⋯⋯そう」

マリアはナミの額に自分の額を付けた。

「わたくしが2回手を叩いたら、あなたはいつも通り、明るくておもしろいあなたに戻る。わたくしが昨日言ったことは忘れていて、森で出会ったわたくしとお友達になった。
あなたはわたくしをマリアと呼ぶ。わたしたちは素敵なお友達。一緒にいると楽しい気持ちになる」

パンパンと手を叩いて、ナミは意識を取り戻した。

「あれ⋯⋯?私、なんでここに⋯⋯わっ!素敵なドレス!」
「わたくしとドレスを選んだでしょう?忘れた?」
「マリア、んと、そうね。そうだったわよね!あはは、おかしいな」

ナミは照れ臭そうに笑う。

「仲間が心配してるから、私帰らないと。あっ、でもまた来るわ。遊びに来る」
「そう⋯⋯」
マリアは笑っていたが、とても寂しそうだった。
もう少し一緒にいて欲しい。そう思った。
するとナミは言を翻した。

「やっぱりもう少し一緒にいるわ。マリアは大切な友達だもの」

人形の能力が高ければ高いほど、人形は命令通りの働きをする。

「ねぇ、あの茶器素敵ね。お茶にしない?一緒に用意しましょ」
「ええ⋯⋯もちろん⋯⋯あれはね、特別に取り寄せたお気に入りなの⋯⋯」

胸の底が軋むほど嬉しい。
初めて出会えた。同じような痛みを持っている人。









アラン達はルグラン家の屋敷を藪の中から覗いていた。
「よし、じゃルフィさんたちはこっちから回って⋯⋯ってルフィさん!?」
ルフィはアランの言う事を全く聞かずに正面から屋敷に入って行った。
ドドドドと入って行ったかと思うと、バリーンと窓から放り投げられて出て来た。
ウソップとチョッパーが泣きながら抱き合っている。
「何かヤバイのがいるじゃん!もうやだ」
「クソ、敵が多い」
ルフィが口元の血を拭う。
「何がいたんだ?」
無理矢理ついて来たパウリーが聞いた。
「人形だ」
「人形?」
「デカイ人形が何十体もいる。一体一体は大した事ねぇけど、中が狭くて間合いがとれねぇ」
「バカ、正面から入って行くからだよ」
「でもこれで敵の強さがわかったわ」
「引きずり出して外で戦った方がいい」
ゾロが黒い鉢巻を巻く。
アランは海賊たちの連携に息を飲んだ。

やはり、この屋敷には何かがあった。
自分の命運は今ここにかかっている。






マリアの耳に窓ガラスの割れた音が飛び込んで来る。
何か起こったのだ。
警官には手を回しているし、アランは周囲と孤立させているので派手なことはできないと思っていたが。

「ここにいなさい」
そう言われると、ナミはまた目に光のない人形に戻った。








サンジはこういう時、別働隊として凄まじい働きをする。
ルフィたちが戦闘している間、ナミを探して屋敷の裏口に回った。
埃のかかっていない道を選ぶ。
若い女が好みそうな可憐な装飾の扉。足で開く。いた。

「ナミさん!良かった⋯⋯!」
ナミがベッドの上に座っていた。
虚な瞳がサンジを見る。

「さあ、行こう。心配したよ」

ナミはサンジが差し出した手を取って、その手を引っぱった。
サンジは体勢を崩してベッドに膝をつく。

「ナミさん?どうし⋯⋯」

ナミがサンジにキスをした。
柔らかな唇が離れて、呆然とするサンジをじっと見た。

「ん、え?ナミさ、今の」

ナミは俯いてドレスを脱ぎ始めた。
「ナミさん!?ちょ、え!?」
下着だけになって、サンジに近づいた。
「なん」

で、と言う唇にナミは唇を押しつける。
舌を入れて、タバコの味のする舌を舐めた。

ナミは相手の気持ちがわかる。
相手の一番望んでいることを叶えてあげられる。

人形は触れられると嬉しい。
命令を遂行する時が一番幸せだ。
だから、とても幸せだった。
サンジが私に触れている。望みを叶えてあげたい。

サンジはナミの唇を味わった。
唇を合わせて舌を絡ませると、息ができなくて汗が出る。
「ハァ、ハァ」
興奮が押し寄せてくる。
彼女をまさぐる手が止まらない。
動きづらいスーツに苛立ち上着を脱いでナミの体をベッドに横たえた。
「あっ⋯⋯あ⋯⋯」
ナミの口から思わず、と言った様子で声が出た。
口元を隠そうとした手を取って手首をシーツに押し付ける。
ズボンの中が痛いほどだった。

何度もキスをしてその肢体を見下ろすと、ナミがサンジの唾液がついた自分の唇をペロリと舐めた。
それで頭が沸騰してまた唇に貪りついた。

「ん⋯⋯んっ⋯⋯」
ギュウギュウと体の中心を押しつけた。
ナミの肌に擦り付ける腰が止まらない。
下着の上からでもそこはもう滑っていて、ナミの声がするたびにサンジの頭は真っ白になった。
「ん⋯⋯あっ⋯⋯」
声が上擦り、ナミの体がびくびくと震えた気がした。
そしてナミの黒い下着にかけてしまった。
とろりとした白い液体が布の中に染み込んでいく。

「ハァ、ハァ、ナミさん、ごめ⋯⋯」
ナミは手で目元が隠れていて、開かれた唇から荒い息をするのだけが見えた。
確かめるようにキスをした。
「ん⋯⋯」
ナミは応えた。

ずっとこうしたかった。
でもそれは、ナミと想い合ってしたかった。
ナミは確かに誘っていて、受け入れているけど、様子がおかしい。
表情も、意思もない。

すると、ナミは舌で応えるのをピタリとやめた。
ナミは相手の望みがわかる。相手の望むことをする。
サンジが「やめる」ことを望んだからやめたのだ。

無表情にサンジを見ていた。
その目はまるでガラス玉。


「キャア!!ナミ!!」
マリアが部屋の入り口に立っていた。
父親のアルベルトが優しく低い声で言う。

「ナミ、その男を倒しなさい」

その声を聞いた途端、ナミがサンジの鳩尾を蹴った。
床に猫のように飛び退る。
サンジに武器を向けて明らかな臨戦体勢を取る。

「だめよ、お父さま、ナミは連れて行くの」
「大丈夫だよ。今はあの男をなんとかしないと」

「なんだテメェら!!ナミさんに何をした!!」
ゴロゴロゴロと小さな雷雲がサンジの背後に浮かんだ。
音より早く動いたとしても光には勝てない。
サンジはナミの手首を掴んで武器を放させた。

ナミは無表情にサンジを見上げる。
頭を持ち上げてサンジにキスをした。
その隙に、また鳩尾を蹴った。

「ナミさん、起きて!!おれだよ!!」

サンジは女に手荒なマネができない。
ナミは無表情のまま、マリアたちを庇うように立った。

アルベルトは計算して、ナミの耳元で何かを命じた。

「───そして、私たちが確実に逃げられたら、その場に倒れて眠りなさい。それまで時間を稼ぎなさい」

「⋯⋯はい」









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