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□泥棒猫と呼ばれるようになったわけ
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七、誰にでも





仲間たちが駆けつけた時、サンジはボロボロのナミを膝で寝かせていた。
自分も黒焦げになりながらナミと戦い、ナミはしばらく戦った後、電池が切れたように倒れた。
サンジの上着を肩にかけられ、猫がするように丸まって寝ている。


「サンジ!!ナミ!!何があった!?」
ルフィの質問に、サンジはすぐに答えられなかった。
何を言い何を言わないでいるべきかわからない。

「ナミさんと戦わされた⋯⋯この屋敷の父親は多分能力者だ」
「あのデカイ人形も父親の能力か」
「人形を使役する能力?」
「何の実なのかはわからないが、ナミさんを思う通りに操れるようだった」

「ごめんなさい⋯⋯僕のせいでナミさんが⋯⋯」
アランがその場に膝をつく。
ウソップが背中をぽんと叩いた。

「いや、ナミを取り戻せてよかった⋯⋯」
ルフィはほっと息を吐いた。
「あの人形ども、倒しても倒しても起き上がる。大きいのも小さいのもいてやりにくい。またここにも来るぞ」
ゾロが言うと、ルフィが答える。
「負けっぱなしは性にあわねぇ」
「いやルフィもうやめとけって」
ウソップが止めた。
「アランには気の毒だけどよ、金より命だろ?もしかすると、敵は今まで片っ端から人間を人形に変えてきた異常な奴らだ。おれたちも人形にされるかもしれねぇんだぜ。戦った奴らは明らかに人形だけどよ、ナミみたいに普通の人間も思い通りに操れるってことだろ?」

アランは気づいて言った。
「そうか、父はもう⋯⋯」
人形にされているのかもしれない。
「ナミが元に戻ってるならな。どの道、ナミがおかしいままならおれはそいつをぶっ飛ばす」
ルフィが射抜くように言った。

「そのマリアって娘と父親はどこに行ったんだ」
「⋯⋯ナミさんに時間稼ぎをさせて、どこかへ逃げた⋯⋯。もうここには戻ってこないつもりだろう」

サンジが扉の方を見る。
部屋の隅で、茶器が割れていた。オレンジの実が描かれたボーンチャイナが。







ナミが目を覚さないので、シュバリエの屋敷で休むことになった。
「サンジ、おれが運ぼうか?」
人型になったチョッパーが言う。
「いやっ、だ、大丈夫だ」
サンジはナミの下着がどうなっているのか気が気でない。
上着をかけてしっかり隠しているが、チョッパーには匂いでバレている気もする。

ナミは様子がおかしかった。
しかし、シュバリエ家に行ってアランの父親に会うと、操られているようにはとても思えなかった。
快活で体躯のよい父親は一向を快く歓迎してくれた。
「拙宅だが、ゆっくりと休んでくれ」
にこやかに迎える父親にアランはもう一度訴えた。
「父さん、この人はマリアに危害を加えられたんです。長年仕えてくれているダニエルも。
───僕は結婚したくありません」

そう言うと、途端に父親の目がだらりとすわった。
そして感情も抑揚もなく言った。
「⋯⋯婚約は⋯⋯破棄しない⋯⋯」

それを見て皆、敵の厄介さを理解する。




拙宅などとへりくだる必要はなかった。
屋敷は広く重厚で落ち着いていて、調度品には品格がある。
ゲストルームはいくつもあって、貴族が集まることのできるボールルームも。

「ナミは勝手にいなくなった。まだ操られているのかもしれない。交代で見張ろう」

チョッパーがそう言って、2時間ごとに交代で見張ることになった。



深夜2時に、サンジと交代してパウリーはナミの部屋へ来た。
寝ていてるナミの横で、一人がけのソファにパウリーは浅く座った。

なんで、一味でもないのにこんなところに来ているのか。
エニエスロビーに同行したのもそうだが、今回ついて来ても誰も異議を唱えなかったし、仲間だと思われているかのような、いて当然の扱いをしてくる。
みんなそうだ。それがパウリーには居心地が良かった。
お前らはいい奴だよ。
ナミの横顔を見ながら思った。

パウリーはナミの側にいたかった。
8個も下の女に何をと思うが、ナミは中身がまるで子供ではない。
頭の回転が速く、成熟した考えを持ち、度胸がある。仲間への思いやりの熱い女だと思った。パウリーはそれを目にして来た。

───パウリーは父親じゃない、仲間。友達よ。

仲間だと言うんだな、と思った。
長い期間共に過ごした訳ではないのに、ナミの中のそのカテゴリに入っているのは素直に嬉しかった。

無闇に女が肌を見せるのはもともと好きではないが、ナミの場合、ほかの男が見るではないか。
お前のいいところはもっと別にあるというのに、外見だけに惹かれる奴がいるのがなんだか嫌だった。

見た目が綺麗なだけじゃないんだぜ、ハレンチ女の良いところは。と思う。

「⋯⋯パウリー」
「起きたのか」
「⋯⋯ここどこ?」

操られているような不審なところはない。いつもと同じように思える。

「シュバリエの屋敷。お前が気を失ったから、泊めてくれるとよ」
「ふーん」
「お前⋯⋯昨日どこにいた?」

「えっと⋯⋯あれ?待って、昨日って、ガレーラでしょ?」
ナミがわたわたと手を動かす。
「ロブシュバリエでマリアに会ったのは覚えてるか?」
「⋯⋯覚えてない」
「アランのことは?」
「⋯⋯溺れてた私を助けた人⋯⋯?」

ナミがぼやぼやと記憶が定まらない様子で答えていく。

「サンジと戦ったのは」
「戦⋯⋯?覚えてない」
「なんで勝手にガレーラを抜け出した?」
「覚えてないぃ〜⋯⋯」

パウリーが怖い顔で聞くので、ナミは泣きそうになった。

「⋯⋯悪いな。こんなの柄じゃねーもんで」
「うう⋯⋯なんかごめんね」

全然覚えてないやと首をすくめ、突然ナミはぱっと明るい顔をした。

「明日はレストラン行けるのかな?楽しみね、私行きたいお店があるのよ。若い子に人気なんだって」
にこにこ笑ってナミが言う。
パウリーは拍子抜けした。

「は⋯⋯もう大丈夫みたいだな」
操られているという話だったが、当のナミは至って能天気で楽しそうにしているので、明日には一味にいい報告ができそうだと思う。

「ねぇ、良かったら二人で行かない?」

パウリーはなかなか言葉を理解できなかった。
どこに?行きたいという店にか。

「い、かない?って、俺はいいがその、お前が俺でいいのか?」

頭の中で文字がぐちゃぐちゃする。
ナミは愛しそうな顔で困ったように言う。

「私とじゃいや?」

悲しい顔になりそうだった。
それをさせたくなくて、パウリーは言った。

「⋯⋯嫌じゃない」
「⋯⋯うふふっ」
ナミの顔はほんのり赤い。
「よかったぁ。断られるんじゃないかと不安で⋯⋯」

「いや、別に、断わるとか⋯⋯」
ゴニョゴニョと語尾をごまかすと、ナミはにこにこと笑って言った。

「私、パウリーのことが好きなの」

パウリーの手を握る。

「こんな気持ちは初めてなの。ずっと側にいたいと思うし、あなたを見てると、幸せな気持ちになるの。仕事を頑張るところも、不器用なのに思いやりがあるところも、勇気があって強いところも、大好き」

ナミは本当に思っていることと、相手が望んでいる言葉を上手く混ぜて言う。

「お前⋯⋯操られてるな」
「?何を言ってるの?」

だってあなた、こうされたいんでしょう?

ナミはパウリーを抱きしめた。

ああ、したかったよ。こうして抱きしめたかった。
サンジがナミを抱えているのも、見たくなかった。

「パウリー、好き⋯⋯」
操られてるとわかっていても、嬉しかった。
ナミの言葉は欲しいと思っていた言葉だ。
パウリーを良く見て、良く理解して、親愛を感じているから出た言葉だ。

「一人で寝るのは寂しい⋯⋯」
添い寝して、と恋人のように指を絡ませた。細い指と自分の無骨な指が交差しているのを見て、パウリーはふわふわした気持ちになる。

ナミはただ、相手の望みを叶える人形だから、その通りのことをする。
触れていると幸せで、相手が満足すると嬉しい。

ベッドの中で抱き合って目を閉じた。
そこに自分の意思はない、人形なのだとわかっているのに、麻薬のような幸せが止まらない。


「ねぇ、してあげようか?」
「ばっ⋯⋯!?何を⋯⋯」
この雰囲気では、するのはやましいことだ。
ナミは真剣に言う。
「いつものお礼よ。エニエスロビーに一緒に来てくれたでしょ。私のことも必死で探してくれたのよね?船も一生懸命作ってくれてる。お返しがしたいの」

「いやいやいやいや」
ナミが体を起こして体に触れるのでパウリーが身を捩って逃げる。

「誰にでもするのか、こんなこと⋯⋯」
「?私を欲しいと思ってる人になら、誰にでもする」
ナミはきょとんとして正直に答えた。
相手の望むことをする人形だから、心を救って欲しい人にはそうするし、体を求める人にはそれをあげる。好きだと言って欲しい人には好きだと言う。
それは人形であるナミにとって至極当然のことだった。

パウリーはナミと体を入れ替えて、ごろんと寝転んだナミを見下ろした。
とんでもなくムカついていた。
ナミは表情もなくそれを見ている。

「誰にでもするのか、お前がそれを望んでなくても」
「そう。それが嫌ならあなたは私を閉じ込めておけばいい。そうしたら私はずっとあなたを愛するし、あなただけを見る」

好きな女を征服する、独占する欲のようなものがあった。
今この女に自分を刻まなくては、他の男を受け入れるとそう言っている。
きっとその誰かにも好きだと言うのだろうし、何でも許すと言うのだろう。

「ん、ふっ⋯⋯ぴちゃ、ん⋯⋯あ⋯⋯」


パウリーはナミの唇を奪った。
嫉妬と独占欲でぐちゃぐちゃになっていた。
ずっと側にいればいいのか。簡単だと思った。

髪を嗅ぐと蜜柑の匂いがする。
この考えは正しいんだ、と思えたし、とてもハイになった。

しばらくキスに応えていたナミはお礼だから、と言ってパウリーのベルトを外した。
もうはち切れそうなそれが、刀のように反り返っている。

「えっと、こう?」
辿々しく指でそれに触れるナミに、パウリーが真っ赤になって息を吐いた。
ここまで誘っておいて、した事がないとはどういう了見だ。
あんなにハレンチな見た目をしておいて、男のモノに触ったことがないなんて。

でも───貞操観念が高くても不思議ではない、とも思った。
ナミは本来、誰彼構わずという女ではない。
それが人形にされたせいで簡単に蹂躙されているかと思うと、正直興奮した。

「こんな風に⋯⋯」
パウリーは手本をやって見せた。ナミはほうほうと得心して同じようにやってみる。
上下に擦るとそれがびくびくと動く。
カチカチに硬くなったそれはもうナミの手には余り、考えた末ナミは着ていたシャツをまくり上げた。

「⋯⋯っ!」
「気持ちいい?」
「どこで、そんな⋯⋯っ」
「いや⋯⋯わかんないけど、挟んだら気持ちいいんじゃないかと思って」
胸の間にパウリーのそれを挟んだ。
手でできるのだから、胸でもできるだろうと思った。
「っ⋯⋯!!」
「気持ちよくなってくれると、嬉しいのよ」
ナミは優しく言って、先を舐めた。

「ぅあ⋯⋯っ!」
こんなのは駄目だ、だめだと思えば思うほど、快感で脳が焼き切れていく。

こんなに気持ちが良いのは初めてだった。
舐めたり、咥えたりしながら胸でしごかれて、それはナミの手の中でどくん!と脈打った。
白い液が飛び出し、ナミの顔や胸にかかった。

「きゃ⋯⋯!」
「す、スマンッ!」
「痛!?目、目に入った!いたっ!いたたたた!!」

悲鳴を上げながら風呂場に飛び込むナミ。
パウリーはだらだらと汗を流しながら服を整える。
大変なことをしてしまった。
早くナミを元に戻さなければ。










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