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□泥棒猫と呼ばれるようになったわけ
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九、ゾロVSナミ






バリーン!!

ゾロが窓を破った。

「キャアア」
飛び散る破片からナミはマリアを守る。
入って来たのは見覚えのある男だった。
いや仲間だ。
ゾロが私を探しに来たのだとその時わかった。
なぜ私は仲間が自分を探していることに気づかなかったのだろう?今まで。

「ナミ!」
「ゾロ!」

その時、駆けつけた男が部屋の入り口から叫んだ。

「ナミ!マリアを守りなさい!」

その声が響いた瞬間、ナミは全ての考えを放棄しなければならなかった。
クリマタクトを組み立てて臨戦態勢を取った。

ナミはもはやナミの形をした人形だ。
自分の意思はなく、目に光はない。

ゾロに武器を向けるナミはロボットのように滑らかに動いた。
明らかに身体能力が上がっていた。
命令を遂行する為に、人形は限界を越えるのだ。

ナミのクリマタクトとゾロの刀が交差した。
ゾロは全てを理解して笑った。
そういうわけか、様子がおかしかったのは。
「お前、甘いぜ。おれに勝てるわけが───」

ナミは無表情に体を前に乗り出した。

ブシュッ!!!

ナミはゾロの刀に自分の身を押さえつけた。
頬と胸に刀が食い込み、血が吹き出した。

更に、無表情な顔を傾け、自分の首の大動脈にピタリと刀をくっつける。

「お⋯⋯ま⋯⋯」
ゾロはすぐさま刀を離した。
もう1秒でも遅ければ、頸動脈を切っていただろう。

「いや!ナミ!もうわたくしを守らなくていい!!守らなくていいから!!」

マリアが泣きながらナミの催眠を解こうとする。
しかし命令はアルベルトの方が上位だった。

ナミは『何をしてでも』マリアを守ろうとする。ゾロには勝てないとわかっているので自分の命をふんだんに使う。
すぐに切られようとするので、刀を出している方が不利だ。

「そうだ、お前はそういうとこがあったよな」

これ以上傷付けないよう、鞘に刀を納めた。
ナミの頬と胸から血が滴っていた。

昔、ウソップを助けるために自分の手の甲を刺した。
ゾロを助けるために危険を犯して海へ飛び込んだ。
魚人の刺青をズタズタにした。

自分を傷つけることにためらいがない。
女だから、弱いから、勝つために引き換えにするものが多いのは当然だという顔をしている。

「とんでもねー女だな、お前は」

ナミの無表情の頬から、血がポタポタと落ちている。

だからこそ、守りたい。

気づいていただろうか。
いつも自分がナミを視界に入れていたことを。
手の届く範囲なら、必ず守れる自信があった。
でも、言葉や特別な関係で縛り付けるのも嫌で、伝えたことはない。

自分を選んで欲しかった。
この世にはたくさんの人間がいる。船にも、船の外にも。
その中で、オマエが自分で見つけて、振り向いて欲しいと思っていた。

気づけ。
お前が誰よりも強い女だから、好きになった。


「オマエには何もしねーよ」

ナミはマリアを背に庇っている。

「おれの相手はあのオッサンだ」

「武器を仕舞って何ができる?ナミ、その男を倒しなさい」
アルベルトは長い指でゾロを示す。

ナミがゾロの方へ駆けて行った。

「痛ってぇ!!」
ナミがゾロの僧帽筋を噛んだ。
首筋に喰らいつく吸血鬼のように、ぐゔとくぐもった声を出す。
「やめろって⋯⋯言ってんだろうが!!」

ゾロはナミを床に縫い付けた。
両手首と両足を自分のそれで固定する。

ナミは何をされても動じることはなくどこか遠くを見ている。

ガン!!

そうして動けなくなったゾロの体を横殴りにしたのはアルベルトの巨大な人形《デク》だった。
身長は2メートルを超えるだろう。
床に叩きつけられたゾロは受け身と同時に習慣で刀を抜いた。

するとナミがすっと木偶(デク)の前へ出る。
また斬られようとしてくる。
それを嫌って不利になると木偶が攻撃してくる。

もはやゾロは殴られ続けるだけだった。

クソ!あのオッサンさえ倒せば。
そう思うのに、ナミを使って邪魔をしてくる。
刀のない戦闘を強いられている。

先にナミを止めるか。
わざとナミに肩を噛ませた。血が滲む。でも。
───殴、れない!

手加減ができない。
鳩尾に一発入れれば、死んでしまうのではないかと思うくらい腹が薄い。

勝てるわけないのに。
自分に歯が立たないことなどわかっているはずなのに、向かって来るのが不憫だった。


遂に、ゾロは木偶によって窓の外へ放り投げられた。
木々の間を飛ばされ、地面に軌跡を付けた。


「全く、何度も向かって来るね」
アルベルトが息を吐き、マリアはがたがた震えていた。
戦いが怖かったからではなかった。
ナミの血が点々と落ちているからだ。
「⋯⋯ナミ」
ナミはマリアを抱きしめた。
守ること、して欲しいことを叶え続けるために。

「マリア、ナミは役に立つけれど、置いていこう。またやつらが取り返しに来てしまうよ」

「お父さま。せめて、せめてこの傷を治療してからでもいい?」

マリアがナミの頬に触れる。

「マリア⋯⋯でもね、私の人形たちが⋯⋯」

「ナミ!!どこだ───ッ!!」


やはりそうだったか。
アルベルトは自分の手を見た。
木偶たちがやられた気配がしていた。
敵の影はだんだん近くなる。
麦わらの船長がものすごい勢いで洋館の門を叩いていた。

1番強い敵が来た。
何体か木偶を差し向けて、1番手応えがあった。
大丈夫。戦力はここに集結している。

「ナミ。命をかけてマリアを守っていて」

もう自分にはマリアしかいないのだ。
メアリーは死んでしまった。
私にもっと人を見る目があれば、マリアをあんな家へ嫁がせはしなかったのに。







ルフィは暴れに暴れていた。
洋館の中にいた人形は百、それも軍服を着た大きな木偶ばかりだった。
入り口のホールは戦闘でぐちゃぐちゃだ。倒された木偶が何体も重なっている。
アルベルトは階段の上からルフィを見下ろして言った。

「私の人形たちは強いだろう」

アルベルトが悪魔の実を口にした日から、自分が触れるものは全て人形になった。
形を変えて強化することも、そのまま人間の形を取るのも、自由自在だった。
ただ、自分の言う事を素直に聞く存在になる。
ここにいるのは戦闘力を考慮して人形にした強い元人間たちだ。

アルベルトはこの能力が好きではなく、使うことは滅多になかった。
無駄吠えをする犬を少し大人しくさせたくらいだ。
娘が婚家に酷い仕打ちを受けるまでは。

「うるせぇ。ナミを返せ」

凄むルフィに、どうしたら彼に触れられるだろうかと思う。
アルベルトは自分自身が人形になることもできた。
小さな人形になって、マリアに運ばせたのだ。金色の小箱に入って。
そしてナミにチョイと触れたから、今ナミはこちらのものになったのだ。
誰にも気づかれなかった。
アランを人形にしなかったのは、いい青年だと思ったからだ。マリアと上手くいくかもと思った。人を人形にする虚しさはわかっていたから。でも、こちらが思うより彼は賢かった。

「やはり目的は彼女なんだね」

アルベルトは手を上に上げた。
ルフィが倒した人形が次々と起き上がった。

「私も、やってみるよ。彼女の願いを叶えるために」

マリアはナミに救われている。
だから。

「戦おう。どちらかが勝つまで」









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