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□梦中梦 【十二月的奇迹】
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梦中梦 【十二月的奇迹】








地球によく似た、けれど遥かかなたにある惑星。
その惑星にはたくさんの国があります。
お日様によく似た星にいつもポカポカ照らされた、ある国がありました。

名前を、"春の国"といいました。
一年を通して温暖な気候で、緑が豊かに生い茂り、国中に花が溢れていました。芳しい薔薇の香り、甘い芍薬の香り、ふんわりとした沈丁花の香り…ひときわいい香りがするのは、春の国の宮殿です。

春の国には、ルハンという花のように美しい男の子のお姫様と、セフンという春のそよ風のように優しい男の子の王子様がいます。

お兄さんのルハンは18才、弟のセフンは14才でした。二人はとても良く似た美しい兄弟で、近くの国でも噂が広まるほどでした。特にお兄さんのルハンは、まるで春の国に咲く花を一輪摘んで、その花びらを並べて描いたような愛らしいかんばせをしていました。国中の人から愛され、二人は毎日しあわせに暮らしていました。


宮殿の広い広い庭園には、屋根がかかっていて、ゆっくりとお茶を飲むことが出来る場所があります。ルハン達はいつもそこで、おしゃべりをしたりくつろいだりしていました。


今日もルハンの侍女の男の子のギョンスが、慣れた手つきで茉莉花の花のお茶を、白い茶器に淹れてくれます。

「ん〜、いつ嗅いでもいいにおいだなぁ」
「そうですね」

そう言ってルハンはつんとした鼻をくんくんさせました。お姫様の傍に控えているのは、護衛係のシウミンです。長い前髪から覗く涼やかな瞳のきれいな男の子です。体はちょっぴり小柄ですが、剣術や武術の腕は、春の国で一番だと言われています。

「ギョンス〜、今日のおやつはなあに?」
「南瓜の餡が入った焼き餅ですよ、セフン様」
「わあ、美味しそう!いただきまーす!」

大きく口を開けて、セフンはお餅を頬張りました。セフンはルハンより背も高くたいそうな美形であるため大人っぽく見えますが、中身はまだまだお子様です。

今までならこの四人とセフンの愛犬ビビがいつもの面々でしたが、数ヵ月前からお茶の仲間が少しばかり増えました。

「あ〜っ、いいにおいがする!お菓子?お菓子?俺のぶんもある?」

ドタバタと竹ホウキを片手に走ってきたのは、元山賊のチャニョルです。以前に山道で迷ったルハンとシウミンを助けたことが縁となり、庭園の掃除係として、仕事を与えられることになったのです。おかげで皆が庭でくつろいでいると、遠慮なく混ざってくるのでした。

「あっ、こら、チャニョル!それはセフン様のお餅だぞ!」
「いいよ、チャニョル、分けてあげる」
「あざーす、セフン様!」

セフンのお皿のお餅にチャニョルが手を伸ばしたので、ギョンスが注意しました。しかし、セフンはチャニョルが気に入っているので、快く分けてあげました。自分やビビと遊んでくれたり、時々おんぶしてくれたりするので、すっかり仲良くなっていました。

「はい、シウミンもるうとお餅はんぶんこしよっ」

シウミンはお茶や食事の時も、ルハンの側にはいても、自分も食べることはありません。身分が違うからです。お餅を半分にちぎり、差し出しましたが、シウミンは拒みました。

「私はいいです、ルハン様がお召し上がり下さい」
「いいから!るうはシウミンとはんぶんこしたいの!ね?はいっ!」
「はあ…」

半ば無理矢理ながらも、ルハンはお茶の時には必ずシウミンにお菓子を分けました。シウミンが何かを食べているのを見るのが好きなのです。モチモチのお餅を頬張り、まあるく膨らんだシウミンの頬を見て、ルハンはにっこりしました。

「ぷぷっ、ルハン様とシウミン様は年がら年中、朝から晩までイチャイチャしてるなぁ」

正直に呟いたチャニョルの背中をギョンスはさりげなく小突き、セフンは小さくクスクス笑いました。

そんな風にみんなが和気あいあいと昼下がりの休憩を楽しんでいたら、続いて今度は背の高いお坊さんが姿を見せました。黒い帽子を頭にちょこんと載せたアルパカを引き連れています。

「やあ、いいにおいがするな、皆でお茶をしているのかな?」
「クリス様、残念ですが、お餅はもう品切です。また明日焼きますね」
「あ、そ、そうか…」

クリスと呼ばれた見目麗しいお坊さんは、ショックを隠しきれず悲壮感に溢れた表情を見せました。髪を剃ったつるりとした頭が、彼の麗しさをよりいっそう、引き立たせていました。
クリスは世界中を旅しているお坊さんで、今は春の国を気に入って、数ヵ月前から宮殿に客人として滞在しています。時々宮殿の人たちに、ありがたい仏教の説法や、自分が訪れたことのある他の国の話を聞かせてくれることもありました。

「ふむ、もうすぐ十二月だな。みんな、圣诞节(クリスマス)は知っているか?」
「栗とお酢と枡??」

みんな、首を傾げました。聞いたこともない響きの言葉です。

「私が昔旅をした、遠い西の国で一年に一度冬に行われる、お祭りだ。その国で信じられている宗教の神様の誕生を祝って、家の中や町を華やかに飾り付けたり、家庭でご馳走を食べたり、家族や近しいもの同士で、贈り物を贈り合ったりするんだ」
「へぇ〜」
「圣诞节の前日の夜には、圣诞老人(サンタクロース)という、白い髭をたくわえて赤い衣を身に纏ったお爺さんが、まっしろな雪の降る空をトナカイという鹿に似た動物の引くそりに乗って、眠っている子どもたちの枕元に贈り物を配ったりもする。そう…彼はこういった姿と言われている」

懐から紙巻と筆を出し、クリスは圣诞老人とやらの絵をさらさらと描いて見せましたが、その場にいた誰の目にも、タヌキに乗ったダルマにしか見えませんでした。

「その、圣诞节っていうのはいつなの?」
「毎年十二月二十五号だ」
「もうすぐですね」
「るうたちの国には冬もないし雪も降らないし、想像もつかないな」
「でも、みんなで贈り物を贈り合うって素敵だね!僕もやってみたい!」

春の国も、王様の誕生日や、建国記念日には、それはそれは盛大なお祭りを行います。その他にも宗教のお祭りなどはありますが、贈り物を贈り合う風習はありません。

「その、圣诞老人って爺さんは、どんな子どもにも、贈り物をくれるの?」
「もちろんさ、子どもが眠っている間に、枕元に置いていくんだ」

お餅を噛み齧りながら、チャニョルがクリスに尋ねました。

「俺みたいな、みなしごにも?」
「ああ、どんな子どもにも、必ずくれる、それが圣诞老人だ」
「へぇ…」

チャニョルが寂しそうに俯いたのを、お皿を片しながら、ギョンスはちらりと見ていました。



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