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□狼与万圣节
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狼与万圣节



あなたは狼男を知っているだろうか?

普段は狼の姿をしているが、満月の夜に白く目映い月の光を浴びると、たちまち人間の姿に変身し、人間の女性をさらってしまう、恐ろしい生き物である。

彼らは日頃は魔界の森の中で狼として生活しているが、満月の夜になると人間界に現れ、伴侶にするために、美しい女性を探しに来ると言われている。彼ら狼男は、誰も彼も非常に恵まれた見目麗しい容姿なのだ。人間の女性をたぶらかし、魔界へ連れ去り、永遠に人間界に帰れないようにしてしまう。

もしも、あなたも若い女性だったら気を付けて。
素敵な男性に夜道で突然声をかけられたら。

その日が、満月の夜だったなら。

彼は、もしかすると…







広い広い、魔界の森の片隅。12匹の狼男の男の子達が、群れを作って暮らしていました。人間で言えば、まあ、17歳くらいです。

リーダーのスホ、最年長のシウミン、ルハン、クリス、レイ、チャニョル、ベッキョン、チェンにディオ、それからカイとセフンとタオの、12匹です。

魔界の生き物は、100年以上は生きます。彼らはまだまだ子供同然なので、獲物を追いかけて遊んだり、じゃれあったり、木の上に新しい隠れ家を作ったり、毎日仲良く遊んで暮らしていました。
ちなみに、彼らは魔界の中にいる場合は、獣の姿にも、人間の姿にも、自由に変身することができます。(残念ながら、人間の姿になっても、耳と尻尾は残ってしまいますが…)その時にしたいことや、気分に合わせて、変身しながら過ごしていました。
ただし、一つ注意があります。人間界では、満月の夜にしか、人間の姿にはなれません。

狼は強くて獰猛なイメージがありますが、実際はそれだけではありません。狼男も同様です。とても情に厚く、気を許した仲間には、豊かな愛情表現を行います。12匹の狼の男の子達も同様に、助け合いながら縄張りを守り、暮らしていました。





ただ、今の暮らしに行き着く前には、一つの出来事がありました。

数年前、この森で、二つの狼の群れが、激しい縄張り争いをしたことがありました。最終的には片方の群れが勝ちましたが、互いに多くの犠牲が出ました。

勝利した群れには、もともと8匹の幼い狼の子供がいました。そして、敗北した群れにも、4匹の幼い狼がいました。動物の世界は、人間とは比べ物にならないほど厳しい世界です。しかし当時の群れのリーダーは、情けをかけ、その4匹の幼い狼を、自分の群れに迎え入れることにしました。

その時残された4匹の幼い狼が、クリスとレイ、タオ、そしてルハンでした。

初めはお互いに警戒心を抱いていた12匹でしたが、日々寝食を共にし、協力して狩りを行い、四季を繰り返すうちに、次第に仲良くなっていきました。さらに年月が経ち、成長した12匹は群れを離れ、自分たちで新たに一つの群れを築いて生きることにしたのです。





人間と同じく、12匹もいれば、1匹1匹さまざまな性格をしています。おしゃべり好きだったり、天然だったり、泣き虫だったり、生真面目だったり…

後から入ってきた4匹の中に、ルハンという狼がいました。12匹の中でも、とりわけ可憐な、まるでぬいぐるみの狼ような顔をしていました。人間になれば、抜群の美人でした。ところが性格はけして女の子らしいわけではなく、やや極端なところがありました。可愛いと褒められれば殴りかかる勢いで怒り、誰よりも勇敢で、自分より大きな獲物にも果敢に立ち向かって行くくせに、心配事があるとすぐに眠れなくなったり、おなかが痛くなったりする神経質なところがありました。

敗北した自分たちが、勝利した群れに入ることに一番抵抗をしていたのも、ルハンでした。幼くて争いには参加していなくとも、複雑な思いがあったのでしょう。しかしクリス、レイ、タオと話し合い、群れに加わることを選びました。そうしなければ、たった4匹の群れでは、また淘汰されてしまうと考えたからです。





群れに合流し、しばらく経っても、ルハンはなかなか周囲に心を開くことが出来ませんでした。タオはセフンとすぐに親友になりましたし、クリスやレイはもともとマイペースなところがありましたので、自然に彼ららしく振る舞うことが出来るようになっていきました。

狩りの無い日は、ルハンは部屋に閉じ籠ったり、眠れないときは、三日月を見上げて、失った昔の群れを思い出したりしていました。言葉遣いもふるまいも粗野ですが、意外と繊細なところがあるのです。


そんなルハンを、さりげなく見守ってくれている存在がありました。

その夜もルハンはベッドを抜け出し外に出ると、考え事をしながら、足元でひとりサッカーボールを転がしていました。おそらく魔界の誰かが人間界から持ち帰って捨てたのでしょう。魔界で拾って、ルハンはいつもそれで遊んでいました。

さく、と草を踏む音がしました。

「ルハン」
「?シウミン…?」

振り向くと、シウミンがいました。そのとき初めて、ルハンは彼に名前を呼ばれた気がしました。シウミンはいつもあまり喋らないからです。

「眠れないの?」
「ううん、たまたまだよ」
「うそ。俺、知ってるよ。ルハンがしょっちゅう、夜中に起きてるの」
「えっ…」

大きな瞳をさらに開いて驚くルハンに、シウミンは小さく微笑みました。

「それ、俺とやろうよ。俺も知ってるよ、サッカー。電波がいいときは、魔界のテレビでもサッカーの中継を見れるよ」
「本当?!シウミンも、サッカー好き?!」
「うん、今度映ったら、一緒に見よう」
「ありがとう!」

その晩、二人は朝が近づくまで、サッカーをして遊びました。たくさんの言葉を話さなくても、二人は楽しい気持ちを共有することができました。


気が合うことが分かった二人は、それ以来、行動を共にすることが増えました。同い年だと分かり、お互いに気兼ねなく接することができました。

しばらく経ってから、ルハンは気が付きました。シウミンがあの夜、ただサッカーをしたかったわけではなく、自分を気遣ってくれたのだと。その時二人は既に、親友と呼べる仲になっていました。





「おーい、シウミン」
「ん?なんだよルハナ」

昼下がり、シウミンがベッドでごろごろしていたら、部屋にルハンが入って来ました。

「人間になって!サッカーしよう!」
「雨降りそうだけど」

シウミンが、窓の向こうの太陽を遮りつつある雨雲を指差しました。

「……」

耳と尻尾を垂らし、ルハンが目に見えてがっかりしたので、シウミンは笑って立ち上がると、じゃあ雨が降るまでやろうか、と言ってくれました。ルハンのしょんぼりした顔に、シウミンは弱いのです。


サッカーボールはもうぼろぼろでしたが、繕いながら、二人はそれを使っていつもサッカーをして遊んでいました。もっと大人になったら、新品を人間界に買いにいくのがルハンのささやかな夢でした。

ぽつ、ぽつ、ぽつり…
ほどなくして、やっぱり雨が降ってきました。

二人は仕方なく狼の姿に戻り、木陰で雨が止むのを待ちました。その間も、二人はたわいもない話をしておしゃべりしていました。

「雨だから、たぶんチャニョルとベッキョンとタオとセフンが、家の中で鬼ごっこを始めるな。間違いない」
「そして、昼寝をしていたクリスに怒られる!アハハ!」
「あいつらも学習すればいいのにな」
「いいんじゃない?クリスもたまに混じって『だるまさんが転んだ』やって大騒ぎして、スホに叱られてるから」
「まあな、ぷぷ」

雨で寒くなったルハンは、黙ってシウミンの灰色の毛に、肩を寄せました。シウミンもルハンに頭を預けてくれました。どこまでも続く緑の草原と、その向こうの森を、雨粒が濡らしています。しかし、空の雨雲は、遠くで途切れています。もうしばらく待てば、雨は止むでしょう。

気分が良い時、狼は尻尾はをふわんふわんと左右に揺らします。ルハンの尻尾は、まさにそうなっていました。ルハンはシウミンに、心から懐いていました。狼は、一度世話になった人への恩は、一生忘れない生き物なのです。

ルハンはシウミンに、とても感謝していました。
同時に、彼を他の誰より大好きでした。



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