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□狼与万圣节
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ところで、彼らもお年頃です。そろそろ人間の女の子に、興味が湧き始めている者もいました。大人の狼男がさらってきた美しい人間の女の子を見かけたり、月に一度満月の夜には、彼らも時々人間界に遊びに行っていたので、人間の女の子をデートに誘いたい気持ちが芽生えてきたのです。それは成長した狼男として、当然の感情です。いつかは自分のつがいを持ち、群れを作るのが、狼男の生き方なのですから。



10月を幾日か過ぎた日のことでした。
12匹は見た目はログハウスに似た、リビングの他に部屋が6つある手作りの家に住んでいました。ベッキョンが、面白そうな情報を手に入れたと、リビングに飛び込んできました。どうやら、森で一枚のチラシを拾ったようです。

『10月31日 ハロウィンパーティ行います!仮装をして来てくれた方は、お料理を値引きします!』

それは、ハロウィンのイベントを知らせるチラシのようでした。リビングではちょうどみんな集まってお茶を飲んでいました。

「ハロウィンってお祭り、みんなも聞いたことあるだろ?女の子たちがかわいいコスプレしたり、美味しそうな食べ物を売ったり、すっごく楽しそうだよ!今年の10月31日なら、満月じゃん!」
「満月なら、僕らも行けるじゃん!行ってみたい!」
「僕も僕も!」

興奮して語るベッキョンに、タオとセフンも興味津々で瞳を輝かせました。

「でも、僕らが行っても大丈夫かな?」
「大丈夫さ!ハロウィンなら人間達もおばけの格好をしたり、変装したりするらしいんだ。僕たちの耳やしっぽがもし見えちゃっても、誰も気にしないよ!」
「行こう行こう、それでさ、かわいい女の子を探そうよ!」

一斉に盛り上がる皆をよそに、スホは腕組みをして口をへの字にしました。スホは12匹のリーダーです。もしハロウィンに参加してトラブルに巻き込まれたら、狼男の部族の長に叱られるのはスホです。

「僕は反対だなあ、たくさん人が集まるなんて、リスクが高すぎるよ。みんな分かってる?人間界には常に天族がいて僕らの命を狙っているし、吸血鬼が下僕にするために僕らを狙う場合もあるんだよ」

スホの言うことも、また事実でした。魔界に住む生き物は、天族という天界に住む聖なる生き物と大昔から敵対しています。彼らは、定期的に人間界をパトロールしています。ハロウィンに行けば、いつも以上に命を狙われる可能性があります。また、狼男と同じく吸血鬼も、女性を探して現れるでしょう。吸血鬼は狼男より格上なので、もしも彼らに血を吸われたら、彼らの下僕にされてしまうのです。

「えー、頼むよスホヒョン、数時間でもいいからさ、ね?」
「魔界には、何のお祭りもないんだよ?あるとしたら、長老の誕生日くらいだよ、地味すぎるだろ!」
楽しいことが大好きなベッキョンとチャニョルは、もう行きたくてたまらないようです。

「まあ、みんなの気持ちも分かるから、考えておくよ…」

困ったように眉を下げてスホは答えました。一方、あまりハロウィンに関心を示さない者もいました。

クリスは、「俺はあまりお祭りには興味がないなあ、それより、眠っていたい」と言いました。昼寝が好きなのです。
レイは、「君は本当に昼寝が好きだね。僕も行かなくていいかなあ。ガールフレンドを探すより、この間拾ったギターを練習したいんだ」と答えました。
ディオも、「僕もいいや」と短く答えました。

最終的に、ハロウィンに行きたがっているのはチャニョル、ベッキョン、チェン、カイ、タオ、セフン。ディオとクリス、レイは行かなくても良いと言いました。

皆のやりとりを聞きながら、ルハンは自分はどうしようか悩んでいました。人間界は楽しくて大好きだし、お祭りには興味がありますが、女の子を探すために行きたいのかと言われると、それは違いました。
ハロウィンまではまだ日にちがあります。検討するから待っててというスホに、みんなはそれぞれ自室に帰って行きました。もう眠る時間です。

リビングには、ルハンとシウミンだけが残りました。ハロウィンの話題の時からシウミンは黙って隣で、メープルのマグカップでコーヒーをすすっていました。

今はすっかりとシウミンを信用しているルハンですから、悩んだことはいつもシウミンに相談していました。

「シウミン」
「ん?」
「シウミンは、どう思う?ハロウィン、行ってみたい?」

ルハンは覗き込んで、ぱちぱちと瞬きしながらシウミンの瞳を見つめました。

「うーん、俺は正直そんなに…危険なのは、間違いないしな…」

シウミンの答えに、ルハンは少しだけがっかりしました。シウミンとハロウィンに遊びに行けたらいいなと、期待していたからです。この群れのリーダーはスホですが、グループで最年長なのはシウミンで、一番賢い存在です。彼がそう言うなら、従うべきでしょう。

シウミンは、カップを持ったまま片手で、ベッキョンが置いていったチラシを何気なくペラリとめくりました。

その瞬間シウミンの目付きが、パッと変わりました。

『スターライトバックス、ハロウィン限定!おばけカボチャフラペチーノ☆』

裏面には、また違うお店の宣伝が載っていました。

「わっ、かわいい!」

横から覗いたルハンは、感嘆の声をあげました。カフェの広告でしょうか。透明なカップの中にカフェオレとコーヒーゼリー、そして上にはおばけカボチャのアイスクリームと生クリームが乗ったフラペチーノの写真です。

「うん、かわいい。それに、美味しそうだ」
「うん!」

タオたちのように目をキラキラさせて、シウミンはしばらくそれを見つめていたので、彼がそれを気に入ったことをルハンはすぐに分かりました。何年も共に暮らしているのですから、まなざしだけで気持ちは分かります。シウミンは可愛いものと、美味しいものが、大好きなのです。

でも、シウミンはチラシをテーブルに戻すと、ひとつあくびをして、今日はもう寝よう、と言いました。




部屋は2匹でひとつなので、シウミンとルハンの部屋は共同です。(ちなみにすべての部屋で最もきれいなのは彼らの部屋でした)
 
布団に潜り込み、シウミンの方を向いて、ルハンが語りかけました。

「シウミン、明日は森に行って、鹿の角を探そうよ」
「いいよ」
「それを加工してさ、素敵な壁飾りを作って部屋に飾ろうよ」
「うん、いいね」
「ありがとう!じゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」

くーかーと寝息を立てて、ルハンはすぐに眠りにつきました。おなかが出ていたので、まだ本を読んでいたシウミンは、立ち上がって布団をかけ直してくれました。半分ぼんやり目を覚まして、ルハンはそれに気がつきました。

シウミンの自分に向けてくれる優しさが、ルハンは大好きでした。他のみんなより、少しだけ贔屓してくれていることも、なんとなくわかっていました。今までたくさん喧嘩もしましたが、シウミンの口下手なところも、本当は冗談好きなところも、食いしん坊なところも全部大好きでした。そしてそれを、人間界の言葉で親友と呼ぶのだと知った時、真っ先にシウミンの顔が浮かびました。ルハンの親友の、シウミン。


ルハンに肩まで布団をかぶせると、灰色の耳を撫でて、シウミンはろうそくの明かりをけしました。

ちらりと横をみると、シウミンももう口を開けてクウクウと眠っていました。もしも危険でないとしたら、シウミンは、ハロウィンに行きたいのでしょうか?それは、人間の女の子に興味があるからなのでしょうか?ルハンは結局聞けませんでした。そんな自分を、いくじなしだと思いました。

シウミンは、ルハンの大切な親友です。
ですが同時に、ルハンは密かに、シウミンに恋をしていました。

いえ、恋をしたことがないのではっきりとそう言い切ることはできませんが、きっと、そうに違いないと感じていました。

なぜなら、シウミンの前でだけ、臆病になるからです。いつもの男らしい自分でいられなくなるのです。
側にいたくて、嫌われたくなくて。
そんな自分も、好きでいて欲しい…

いつからかルハンはそう、願い始めていました。




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