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□闇の奥  『神経がワレル暑い夜・番外1』
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 そんな会話を佐々木と土方がしていた日から、またしばらくして佐々木異三郎は。再び浪士組屯所を訪れた。

 おや。今日は皆さんではらっているんですかねぇ。

  門から覗き込んだソコには人っこ一人、影の一つも見られることは無く、折角来たのに残念ですね。と内心で溜息を零した。

 その脳裏に映ったのは、あの日に目を奪われたであろう土方の姿で、姿が見られなくて残念。と思ってしまった自分に自分で可笑しくなってしまう。簡単に思い出せるほどにその姿は鮮明に佐々木の記憶に刻まれている。

 組織としてはまだまだ稼動していないが、それでも自分たちで規律を作り、役目を担う為にただの烏合の衆だった者たちは、自分達の大将を据えて励んでいる。大将に据えられたのは、確か近藤と言っていたか。と土方から聞いていた偉丈夫の名前を思い出していた。

「あの。何か御用ですか?」

 突然声を掛けられて、佐々木は思考の海に入り込んでいた為、不本意ながら驚いてしまう。といっても、万が一にも周りに誰かいたとしても、佐々木が驚いたとはきっと気づきもしないくらい小さな身体の震えであったのだが。

「先ほどから、こんなところで何を?」

 再び問われた言葉には、先の問い掛けに何の返答も返してこないことを訝しむ様な色が含まれる。

「あ・・あぁ。すいません。ちょっと土方さんにようがありまして。」

 言って、目の前の男が近藤だということに気が付いたが、その近藤の顔が自分の知る男の顔つきと違う様な気がして、不躾にまじまじと近藤の顔を見つめてしまった。何がどう違うのか。と、また思考を囚われそうになったとき、やっと近藤からの返事が返ってくる。

「土方でしたら、今は所要で出ていまして、こちらからご連絡しますよ。佐々木殿ですよね?松平公の側近の。」

 二カッと音がしそうなほどの、朗らかな笑みを向けられ、佐々木は少しだけ戸惑う。

「もしくは・・・・・。今日の夜にでもまた伺っていただければ、土方がお相手します。興味があれば。ですが。」

 朗らかな笑みを浮かべたまま、近藤の眼が暗く歪んだような気がして、その瞳を覗き込む。言っている言葉の理由は、察しが付く。間違いなくそういった意味合いで目の前の無骨にも思える男は、提案しているのだ。

『土方が相手をする』『興味があるなら』と言ってきている。

 たった一言、土方の名前を出しただけで、目の前のこの男は無害な顔で提案しているのだ。それに、少なくとも近藤と土方には男同士の行為を誰かに提案できるほどの付き合いがあるのか。それともこれは上司である佐々木に対しての枕営業と言うモノなのか。佐々木は真意を掴みかねて言葉を濁していると、察したのか近藤が再び口を開く。

「佐々木殿は彼に興味がある様でしたので、まずは見物でも。と思ったんですよ。」

 あくびれた様子もなく、自分たちの行為を覗きに来いと言っている。確かに佐々木は土方に対して、少なからず色を感じていたから、全く興味がないわけではないので、佐々木は口角を上げて近藤の提案を受け入れたのだった。






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