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□闇の奥  『神経がワレル暑い夜・番外1』
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 浪士組屯所は、まだまだ改築が必要で、大まかな部屋割りだけしか決めていなかった。それに、組織としてもまだまだで、それでも屯所に身を置く全員が近藤を大将に据えた為、近藤・土方には個人部屋が宛がわていた。

 この日。近藤は夜は客人が来る予定があり、土方と大事な話がある為、人払いをしていた。
 呼び出された土方は近藤の部屋へ行くと、待っていた近藤に更に二つ先の奥部屋へ案内された。

 近藤が襖を開けた部屋の先を見て、土方は自分が呼ばれた意味を正確に理解したのだった。


 薄暗い部屋に敷き布団だけが敷かれ、敷布のすぐ横には小さな文机の上には猪口が並んでいる。座布団は二つ文机を挟んで用意され、そこに自分は座ることはない事を土方は知っている。

 トン。と後ろから軽く背中を押され、土方は部屋の中に一歩二歩と足を踏み入れると、静かに襖が閉じられる音が、これから行われることへの開始の合図だと、唇をキツク噛みしめた。

「トシ。」

 呼ばれて差し出された手に視線を向ければ、ソコには小さ瓶が握られていて、以前にも何度か使われたことがある為、その瓶はよく見慣れていた。いったい近藤はどこから仕入れているのか、わからないが、所詮言うところの媚薬だ。と、言うことはこれから客が来る予定だが、飲んだ後は自分は放置されるのだろうか。
と、以前使った時の苦しさを思い出して、眉間に皺を寄せて差し出された瓶を受け取った。


「これから佐々木殿が来る。トシ。ちゃんと相手してくれよ。」

近藤は悪びれた様子は全くなく、いたっていつもの笑顔を向けて土方に告げた。告げられた土方は、近藤の言葉に驚いていつもは鋭い目が大きく見開かれぽかんとし、言われた言葉の意味が解るとサッと血の気が引いた青ざめた顔が現れる。閉じられた薄い唇が微かに震えていた。
 その絶望ともとれる顔をみて近藤は笑いが堪え切れないで、ははは。と声が漏れてしまった。












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