書庫◆混合◆

□記憶と芳香 1
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記憶と芳香







あの日。
俺たちはその志を失った。

「かぁつらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
青筋立てた幕府の犬が追ってくる。特別武装警察 真選組 と言う攘夷浪士殲滅を主目的とした組織だ。
「ふん。」ご苦労なことだな。と桂は独り言ち、熱心に自分を追ってくる真選組隊士をチラリと一瞥する。まぁ追ってきたところで、まったくもって捕まってやる気もないから、ひょいひょいと屋根を移動していく。
いい加減、大通りからそれてしまえば、パトカーから降りなくては追って来られるはずもなく。また、そのタイムラグを使って、路地裏に逃げ込めば、組織としてできたばかりと言っていい烏合の衆など、簡単に巻くことが出来た。

あれはあれで厄介な連中だ。と桂は嘆息して、素早く用意していた変装用の装束に着替えた。
仲間とは、あと3つ先の路地にある隠れ家で落ち合うことになっている。今日は下調べだけなので、憂さ晴らしに最後に引っ掻き回してやった。数ある攘夷組織の中でも『桂小太郎』と言うブランドは、人目を惹くには格好のエサになることを、十分理解している。なので桂が姿を見せれば、自ずと捕縛の目は桂に向く。目が桂に向けば、比較的仲間は逃げやすくなる。そこまで計算済みの逃走劇だ。

しばらく人通りがある通りをうろついて、何事もなかったかのようにまた路地に入る。そこからまたしばらく歩けば、ここ最近頻繁に使っている隠れ家に身を寄せる。
「桂さん。お帰りなさい。」
先に戻っていた仲間から声がかかる。奥の座敷に入れば、今回行動を共にした仲間たちが待っていた。
「皆、ご苦労だった。しばらくは休んでくれ。」編み笠を取り顔を見てそう一言労えば、一人、また一人と、姿を消していく。最後に残った一人が、小さく折りたたまれた紙を渡して、桂の前から去って行った。
かさ。と受け取った紙を開けば、そこには懐かしい仲間からの伝言があった。


陽が沈み、闇が濃くなった頃合いを見計らって、桂は編み笠だけをつけ外に滑り出た。
昼に渡された紙片には、攘夷時代に別かれた坂本辰馬からの連絡であった。
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