もしかしてそれは
□夢のよう かもしれない
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あれから俺たちは関東、全国と大会を終え、部活も引退し、エスカレーター式とは言え試験はあるので勉強したりと あっという間に中学人生を終えた。
無事に全員高等部へと進学した後も 高等部の方のテニス部に入部し、部活に明け暮れた。
たまに中等部の方にも顔を出したり、赤也の進級試験の勉強を見てやったりしていると、気付けばもう二年生になっていた。
俺は中等部の頃と同じく、生徒会で書記を担当していた。
体育祭の準備がそろそろ始まる時期というのもあって忙しいが、生徒会の先輩方が効率良く仕事を回してくれている。
後は 書類を担当の先生に提出するだけだ。
それで今日の分の仕事は終わるので、俺が提出を任されたと同時に解散となった。
四階にある生徒会室から二階の職員室へ行くには、渡り廊下を通らなければならない。
四階と二階の渡り廊下で吹奏楽部が練習をしている確率は86%だ。
三階まで降りてから渡り廊下を通った方が良さそうだな。
そこまで考えてから階段へと向かったその途中、試合中に足を負傷し 松葉杖を使い始めたサッカー部員を見かけた。
松葉杖、か。
彼女のことを忘れたことはあれから一度もない。
ふとした瞬間に思い出してしまい、会いたくてたまらなくなる。
しかし彼女は京都まで行ってしまった。
幼馴染みだった貞治とも、引越した後は疎遠になってしまったというのに、まともに話したのは一度だけの彼女とどうしてもう一度会えるだろうか。
東京と神奈川よりももっと離れたところにいるというのに。
そう分かっているはずなのに、
やはり会いたいと思ってしまう。
要はまだ未練がましく彼女を想っているのだ。
我ながらなかなかに女々しくて気持ちが悪いが。
気付けばとっくに階段まで来ていて、三階を過ぎ二階へと下りかけていた。
急いで三階まで戻る。
全く気が付かなかった。
別のことを考えながら歩くのはいけないな、今度から気をつけよう。
渡り廊下のあるところまで歩く。
渡り廊下は廊下をずっといった奥の方、資料室の隣だ。
さっさと終わらせて部活に行かなければ。
あと数歩で渡り廊下へ到着する、というその瞬間
目の前で 資料室のドアのガラスが突き破られたように粉砕した。
一瞬何が起こったのか分からず立ちすくんでいると、割れた部分から腕が出てきて 思わず叫びそうになるほど驚いた。
冷静になれ、俺。
外から何か投げ込まれた痕跡はないから、内側から割られたのはすぐ分かるはずだ。
内側から腕が出てきてもおかしくない。
よく見ると、出てきた腕は鍵(のようなもの)を握っていた。
鍵を持っているということは、部屋からの脱出を試みたのか?
しかし、何故ドアのガラスなんだ。
脱出したいならドアにはめ込まれた窓よりも、普通の窓の方が面積が大きいから向いているはずだ。
色々と考察している間、その腕は鍵穴を探しているように宙をさまよっていた。
やはり、脱出を試みているのか?
まだ仮説の状態だが、相手の目的が分かった気がして少し落ち着きを取り戻した。
落ち着いて考えてみると、確か資料室は窓側にまで棚が設置してあったはずだ。
これでは窓からの脱出は出来ない。
だから窓ではなくドアのガラスを割ったんだな。
俺がそう導き出した瞬間、腕が消えた。
不思議に思っていると、
割れたところから上半身が出てきた。
向こうを向いているので顔は分からないが、上半身部分の制服を見ると、どうやら高等部の女子生徒らしい。
不審者ではないと分かり安心した。
声をかけようとすると、その女子生徒がこちらへ振り向いた。
長い睫毛、
たれ目がちなグレーの瞳、
整った中性的な顔
ドアの窓から身を乗り出した
その女子生徒は
紛れもなく、彼女だった。