『題名を無くした物語』
□第二章
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レインの後を追って、歩いていくとそこはガレージだった。
品の良いテーブルとイスが綺麗に整頓されておりこの世界ときりはなされたように、美しい庭のなかでも違和感なくそこに存在している。
「まってろ」
レインはそういうとアリシアを置いて屋敷に入っていった。
しばらくしてレインはティーセットを持ち再び戻ってくる。
そして無言で準備を整えるとすっとアリシアの前にカップを差し出した。
そんな姿は紳士らしくかっこよく見えなくもないのに性格がこれでは意味がない。
そんな失礼なことをアリシアは考えているとふと突然レインと目が合い咄嗟にその視線を外した。
「…ありがとうございます」
“こんないいところに住んでいる男がどうして自分で紅茶を客人に入れたりするのだろうか“
とアリシアは思ったがそれもすぐにどうでもよくなり考えるのをやめた。
“この男にはこれしかないから
ただ それだけの話だ“
そしてしばらく無言の時間が続く。
レインもアリシアもお互いに話しかけることなくただ景色を眺め、自然に耳を傾け、紅茶を楽しむ。
その時間がどこか懐かしく感じられたのは気のせいだろう。
「やっぱりうちの茶葉が一番だな」
レインは誰にいうわけでもなくそう呟いて自慢げに笑った。
その笑顔はいつもの皮肉げな笑顔ではなく普段のレインよりも幼く見えて可愛らしい。
その笑顔にアリシアも少し気が緩みなんだかこんな時間も悪くないと思いだしていた。
するとその時黄色い物体がモゾモゾと動いているのが視界に入りそちらを見ると、2つ席を開けた隣に男がいる、しかも頭の上に長い何かがついている笑えない容姿だ。
「……………」
見間違いかとも思ったが何度見てもそこに存在している。
「…帽子屋」
「んだよ」
「…あっちを見てくれなせんか」
アリシアがそういうとレインは明らかに不愉快そうにまゆを潜めてアリシアの二つ隣を見た。
そして、長い耳の男を見てため息をついた。
「何だよ」
アリシアはあまりにも平然としているレインの姿を見て
“もしかしたら私より先に来ていたのかもしれない“
と思い尋ねてみることにした。
「あの方はいつから?」
「さぁな」
「………………」
レインはそれだけゆうとまた自分の世界に浸り始める。
「え、いや。さぁなじゃなくて。
どうして勝手に屋敷内に入ってきているのに怒らないのですか?
というより彼は誰ですか」
「ああ?誰でもいいだろうが。
つーかこいつはそういう奴なんだよ。こいつが神出鬼没なのはいつものことだからな。
そんなこといちいち気にしてられねぇ」
レインがそう言った瞬間“その物体“はムクっと起き上がった。