夢100 創作
□彼女の思惑
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シェミは人には言えないアルバイトをしている。
決していかがわしいものでは無いが、ある意味いかがわしいアルバイトよりも言い難いアルバイトだ。
勿体ぶらずに言うならばコスプレ喫茶、魔法の言葉なんかもあったり、キャラクターまで決まっている。
今日は甘えん坊のロリメイドしゅがーだ。
「おかえりなさいませご主人様♡」
胸のあたりで両手をにぎりしめ猫なで声で呼びかける。
全くもってこれの何が良いのかわからないが、店長いわく萌えなのだそうだ。
「へぇコンセプトカフェってほんとにこんな事言ってくれるんだ?」
「……………………」
「面白いだろ?俺の推しメンはぷーちゃんなんだけど……って君初めて見た、新人さん?」
背中に冷や汗が伝って気持ち悪い。
「はじめましてご主人様♡
一ヶ月前から働いてるしゅがーっていいます♡
普段は朝お屋敷にいるんですけど、金曜日だけお昼からなんです」
どうしてウィルがここにいるのか、頭の中でそんな考えがぐるぐるとまわる。
まさかこんな所で彼氏に会うなんて気まずいにも程がある。
きっと彼のことだ、口ぶりから考えてもつき合いで来たのだろうが……何故よりによってこの店だったのだろうか。
「そうなんだァしゅがーちゃんも可愛いねぇ。
せっかくだし今日はぷーちゃんじゃなくてしゅがーちゃんにしようかなー」
出来ればいつも通りぷーちゃんを指名して欲しかった。
そう思いながらも笑顔を浮かべて店長に教えてもらったとおり振る舞う。
「やったぁっ!しゅがーご主人様に選んでもらえて嬉しいです♡
ありがとにゃん♡ 」
「やっべーしゅがーちゃん超可愛い 」
「…………」
凄い見られているのはコスプレ喫茶が初めてだからだろうか。
それとも気付かれているからだろうか。
「そちらのご主人様はしゅがーでいいかにゃ?
しゅがーはご主人様に選んで欲しいけど、もし良ければこの中から他の使用人をお呼びください」
是非違う子を選んで
切実にそう思いながら言った言葉は報われることなく、ウィルはシェミを指名する。
「僕も君がいいな」
「……ありがとうにゃん!
しゅがーを選んでくれたご主人様にはあーんのサービスをあげちゃうよ!
まずはしゅがーの部屋へどーぞ♡」
そう言って席に案内するとメニューを渡す。
ちなみに部屋とは言ったがただのテーブル席だ。
「それじゃぁ注文が決まり次第しゅがーを呼んでね♡
早く呼んでくれないとしゅがー拗ねちゃうからね!」
彼氏の前でこんなことをするなんてどんな羞恥ぷれいだと言いたくなってしまう。
注文が決まり食事を持っていくと地獄の時間が始まる。
「お待たせしましたご主人様♡
こちらラブキャンディーサワーとキャラメルパンケーキ、にゃんにゃんレモンてぃーと、ハニーサンドイッチです」
毎回思うがなんなんだこのネーミングセンスは。
恥ずかしいことをこの上ない、
「待ってねご主人様、しゅがーが食べさせてあげるんだから1人で食べちゃだめだよ」
「はーい」
「美味しくなるようにしゅがーが魔法をかけますね!
しゅがしゅがラブリン美味しくなぁれ」
……し、死にたい
「それじゃぁご主人様?しゅがーのラブをおすそ分け♡はい、あーん♡」
シェミは気づかれないように必死で“しゅがー”を演じながら連れの男性にパンケーキを食べさせる。
内心の焦りや困惑など微塵も感じさせない完璧な接客だ。
「次はお隣のご主人様の番だよー!
しゅがーのおまじないいきまーす!
しゅがしゅがしゅがーあまぁく美味しくなぁれ♡」
「あ、俺の時と違う」
メニューによっておまじないが違うのだが、モチロン考えているのはシェミじゃない。
店長だ。
「しゅがーの愛情召し上がれ♡」
見られている
それはもう真っ直ぐに目が合っている。
怪しまれないようににこやかに笑いかけて口元までサンドイッチを持っていくと、ウィルは口を開いて齧り付いた。
「しゅがー」
「な、何かにゃ?ご主人様」
「あとは自分で食べるよありがとう」
その言葉にほっとしながらサンドイッチをウィルに手渡すと、安心した。
自分で食べると言った事から考えると、もし似たような事があっても連れの人に対する付き合いの範囲でしか関係を持たないということだろう。
予想外のところで嬉しいことを知れた。
「しゅがー実は三つ子で、ビターシュガーとシュガークイーンがいるの。
もし良ければしゅがー以外も応援してくれると嬉しいな♡」
「へーどんな子なの?」
連れの男性が食い気味で来てくれるお陰でウィルの方を向かなくて済んで、少しありがたい。
「ビターシュガーはツンデレ
シュガークイーンは女王様だよ
ちなみにしゅがーの正式の名前は、はにーしゅがーって言います。
是非覚えて帰ってねご主人様」
お会計時にこれを言うのは恒例でこの後のセリフがなかなか苦痛だ。
「お別れは寂しいけどしゅがー此処で待ってるから早く帰ってきてねご主人様!
しゅがーご主人様が帰ってきてくれないと寂しくて死んじゃう……」
「しゅがーちゃん絶対また来るからね!」
「えへへしゅがーずっとお屋敷で待ってるからね?
行ってらっしゃいませご主人様」
自分は案外こういう仕事が向いているのかもしれない、そう思うほどに上手く出来ていると自負している。
だが本当はのたうち回るくらい恥ずかしい。