夢100 創作

□偽装カップル
1ページ/6ページ

世の中にはモテる人種とモテない人種というものが存在する。
シェミは“ない”ほうの人種だ。
そして運悪く目の前に座っているのは“モテる”人種である。

「ウィルくん、ウィルくん、次何飲む?」

「これ美味しかったよぉ、オススメ」

「んー……どうしようかなぁ」

パッと見ただけで分かるほどの圧倒的な存在感。
誰が見ても悪くは無いと言う容姿。
いかにもリア充な感じだ。
女性の半分はあからさまにウィル狙い、残りの女性だってもし話しかけられでもしたら満更でもないであろう。
男性陣はつまらなさそうにするのを必死に堪えているようだ。

「……シェミさんもなんか頼んだら?」

「…………」

隣の席に座っていた男性がそう声を掛けてきた。
自分に自信のある……つまり男性から見て魅力のある子はみなウィルの所にいる。
となれば余りもので自分もそれなりに楽しもうというのは妥当なのかもしれない。

「そうですね。


すみません!オレンジジュース、下さい」

シェミはそう店員に呼びかける。

「オレンジジュースとか可愛すぎでしょ」

男性はそう言うと急にシェミに興味を示し出した。

「お酒は?飲まないの」

「皆さんに迷惑かけると悪いので」

「あれ、意外と酒癖悪いんだね」

別にそういう訳でもないが、色々なことを踏まえてお酒は飲まないようにしている。

「俺は……とりあえずビールだな」

そんなことを言ってから定員に注文すると、少し距離を詰められた。

「…………」

「ごめんね、ちょっとこっち狭くて」

「大丈夫ですよ」

そんな訳はないとわかりながらも笑顔で答える。
そんなこんなでその人と話をしていたのだが、酔いが回り始めたのか嫌に接触されて困り果てたシェミは、適当な理由をつけて席を立つ。

「2時間……か」

そろそろ帰ってもいいだろうか

そう思いながら店を出ると思わぬ人と出くわした。

「…………」

あのモテ男さんだ

やはり1人ではなく、二人の女性と共にいるので気づかなかった振りをして、すれ違おうとした時手を掴まれた。

「シェミ、そんなに冷たくしないでよ」

「……はい?」

いきなり呼び捨てとはなんだ。
いくらモテるとしても流石にこれはどうかと思う。

「……ああ、ニールと一緒にいた子じゃん」

「ニール君と一緒じゃないのぉ?」

あからさまに目の敵にされているのだが

「……体調悪くてお先に帰らせてもらいますね」

そう言って一刻も早くこの場から逃げ出そうとしているのに、彼は手を離さない。

「ごめんね。
謝るからそんなに怒らないでよ」

だから別に知り合いでもなんでもないのになぜそんなに馴れ馴れしいのだ
もしかして誰かと間違えているのだろうか

「いいじゃん、何があったか知らないけどこんな席でむくれてる彼女が悪いんだよ」

とても腹立たしいがここで喧嘩を売っても仕方ない

とりあえず帰るにはどうすればいいか考えていると彼はふたりを一瞥してシェミに一歩近づく。

「彼氏が黙って合コンなんかに来てたら怒るに決まってるだろう?」

「………………(ん??)」

「……え、やだぁ、なに?
ウィルくん彼女いたの?」

「だからそう言ったよね。
悪いけど僕帰るから、じゃあね」

強引に彼はそう言ってシェミの手を引く。
その動作で何となく話の筋がわかった気がしたので大人しく黙ってついていくことにした。

「ごめんね、話合わせてくれてありがとう」

「いえ」

どうやら彼女達と離れる口実に使われているのは確からしい。

「断れなくて、無関係の君には悪いことしたね」

「……まあ、それはいいですけど。
いくら必要があったからと言って、手を握るのはどうかと思いますよ」

シェミは笑顔を浮かべてそう言うと半ば強引に手を離した。

「ごめん、初めてあった男にこんな事されたら気持ち悪いよね」

「そうではなく、勘違いされてもおかしくはないですよと忠告しているだけです」

誤解を与えるような嘘をつく場合、大なり小なり自分に好意があると思ってもおかしくはない。

「君は僕に興味が無いように見えたから」

平然と言い当てられて驚いてしまう。

「一応相手を選んでるつもりだよ」

機嫌が良さそうに笑いながら彼はそう言うと首をかしげた。

「違ったかな」

「……違いません。
全く興味も無かったし、出来れば関わらないよう素通りしようと思ってましたから」

「はっきり言うなぁ」

そう言われて思わず素が出ていたことに気がつき焦る。
古くからの友人にはよく化けの皮が分厚いなどと言われるとこがあるほど、シェミは表面上取り繕うことがうまいらしい。
であるのにいまどうしてこんな事をバカ正直に言ってしまったのだろう。

「本当にありがとう。
助かったよ」

「いえ、私は何もしてませんし」

「駅まで送るよ」

ぜひとも断りたいが、荒波も立てたくないので有難く送ってもらうことにした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ