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□わん
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「髪型被ってる?は?俺禿げてねーし若禿げてねーし。なに、お前にはこれが被り物に見えんのか、おいそうなのか。そんなこと言っちゃうのかこの口は。引っ張って取り外してやろうかテメェ」
「いひゃいいひゃいやめひぇ。くひひっはっへもほれなひはは」
「日本語喋れ」
「ひほい(酷い)」
取りあえずこんにちはとでも言えばいいのか。
最初っからこんなんだがこれにはれっきとした理由がある。
「お前がヅラとか言うから」
「そうは言ってないじゃん!」
俺が引っ張ったことでやや赤くなってる頬を自分の手で慰めながら不満を叫ぶコイツ、一応親友の会津蓮。
あ、なんか慰めるって響きエロくね?思うの俺だけ?
「明日来る変な転入生が五人の髪型とそっくりだからさぁー」
「あ、被ってるってそっち」
「そうだよ、何なの?自意識過剰?」
「ほーぉ、そうかそんなに可愛がって貰いたいのか」
「あいだだだだだだだ」
優しい優しい俺のアイアンクロ―が完璧に決まって嬉しさに悲鳴を上げる親友。
いやー、親友っていいな(良い顔)
「鬼……」
「あ”?」
「いや何でもないっす、いやマジでその手下してゴメンナサイ」
なんてやり取りも結構いつも通り。
こんな感じだがこれだって仲が良いからできることだったりする。
ダイニングテーブル上にある数枚のプリントにふと目がいった。
(ちなみに今は寮の俺の自室で晩飯のあとの休憩時間である。蓮の作る料理がかなりうまいので最早作ってもらうのが日課になった。)
そのプリントは件の転入生の資料らしい。
よく見ると写真も貼ってある。
「……いやいやいやいやいやいや」
写真。おい、写真。
「ん、どした?」
「おいテメーこれと俺が被ってるって?ははは、ふざけんのも大概にしろよ」
「えー?髪型そっくりじゃない?」
「俺にはちゃんとキューティクルっつーもんがあるんだよ。それにこれはばっちゃん譲りの天パだし。地毛なんだよ。よく見ろ、この光が当たってる部分の髪の光具合とかコイツはまんま被ってるし、ヅラを。まとまりのない不潔感とかも……ちょっとちぢれ入ってんじゃねーかコレ」
これ絶対ドンキとかで売ってるやつじゃね。
お笑いコーナー辺りで。
「ブフッ」
あ、噴いた。
「ちwぢwwれwww ……え、てか被ってるの?ガチで被ってるの?マジで?www
いや確かにさ、どうやったらこんな髪の生え方するんだろーなぁとは思ったけどもw」
腹を抱えるほどに大笑いするコイツをみてふと思い出した。
……そういや結構笑い上戸なんだよな、蓮って。
まぁ、良いことだと思うぞ。笑う門には福が来る、的な?
ひーひー言ってるのを尻目に改めてもう一回目を通す。
……ん?
「つかこの書類持ちだしていーのかよ、いやダメだろ(反語)」
「あー、完全に個人でね……これはおもろいって思って五人に見せたくってさー…」
笑いすぎてまだ涙目なままそう言った。
いやお前どんだけ笑ってんの。福すらも笑い飛ばしそうだな。
さらに改めてプリントに目を戻すと、そこにはとんでもないことが書かれてあった。
「…………校長の甥?」
「そーそー、それ俺もびっくりした」
ここの校長とは、(まぁ私立の雇われだが)よくわからんが金持ちなのだ。不動産だかの分家だがそれなりに金持ちらしく。まぁ十人いたら四人くらい知ってる感じの。
やべえ、俺の手持ち情報少ねぇ。
「あ、あとそれにも書いてるけど俺らと同クラだよ」
「………………は」
「マジマジ。本気と書いてマジと読む」
「……正直この見た目、近づきたくねーわ。だってコレあれじゃん、部屋の隅っこにたまに出てくる埃と綿ごみの塊」
ツボに入ったのか、目の前のヤツが再び腹を抱えて大笑いするのを見てこの部屋が完全防音部屋で良かったな、と本気で思った。うん、本気と書いてマジと読む。
これが昨晩の出来事。