記憶がなくても…俺達は

□確かな思い
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地面が揺れた。大きく揺れた。
五虎退はあわわわわわと言いながら
尻もちをつく。

「お兄様方々が・・・お兄様達が・・・」

顔が青ざめる。
頭の上に乗っている小虎が膝の上に乗り
五虎退のほっぺを舐める。

五虎退は後悔していた。
自分が怖いながらでも一人で洞窟の中に
入ればよかったと後悔した。

小虎がきゅぅと可愛らしい声を出す。
「虎君大丈夫だからね」とぎゅっと
抱きしめる。

大きな揺れはだんだんとおさまっていった。

「おさまった?」
小虎を抱きながら辺りを見渡す。
大きな空洞は崩れ岩石で塞がれていた。


「五虎退くーん」
と少女らしい声が後ろの方から聞こえた。

「乱ちゃん・・・」
五虎退は涙目になる。

「どうしよう・・・大変なことになっちゃった
・・・僕が怖くて洞窟の中に入れなかったから
鯰尾さんと骨喰さんが・・・閉じ込められた」


「うわ・・・本当だ」
乱ちゃんと呼ばれた金髪で少女みたいな姿の
男の娘がびっくりする。


乱ちゃんの後ろから秋田君もやってきた。
「五虎退無事?」
息を切らしながらそう言った。

「・・・うん。僕は平気。だけど鯰尾さん達が
・・・」


その洞窟は穴が塞がれていた。
どうしようにも中に入れない。
中を確認することなど不可能だ。

「僕のせいで鯰尾さん達は・・・」
そして涙をポロポロと五虎退は泣いた。
小虎がきゅぅぅと弱弱しく鳴く。


「そう自分を責めないでよ」

「そうよ。これじゃ本当にお兄さん達が
あの世へ逝ったような言い方じゃない」

秋田君と乱ちゃんは五虎退を慰める。

「でも・・・」

「大丈夫だって鯰尾さん達はそんなことで
破壊されるものじゃない」

秋田君は五虎退の言葉を遮った。

「だからね、信じよう。僕等藤四朗兄弟はすぐ
にへこたれるような連中じゃない」

秋田君は微笑む。

「そうそう、だからいつまでもうじうじしてた
ら五虎退の方が先に破壊されてしまうよ」
と、決め台詞のように乱ちゃんはそう言った。

「・・・乱ちゃんは言葉を選ばないな」
秋田君は苦笑気味に答える。

「僕ははっきり言いたい事はその場でいう子
ですから」
とドヤ顔をする。


「・・・そうだね。信じるよ。大丈夫だよね?
鯰尾さん達はちゃんと生きているよね・・・?」

五虎退は小虎を撫でる抱きつくように。

「だから、僕等は僕等が出来ることをしよう」
と、秋田君は洞窟の塞がれた穴に近づいた。


「鯰尾さん骨喰さん聞こえますかー?
僕たちは平気です。だから、僕等の心配よりも
貴方達の心配をしてくださいー」

乱ちゃんも続いて言う。
「僕達は僕達で資源を集めるからお兄さん達は
洞窟の中にある資源を集めて♪」


五虎退も
「・・・大丈夫ですか?僕も虎君も秋田君も
乱ちゃんも鯰尾さんと骨喰さんが穴から出られ
るようにこの大きな岩石を少しずつ取り除いて
いきます・・・無事でいて」







黒髪を一つに束ねた少年が後ろ姿で一人
検非違使と戦っている。

少年はチラリとこちらを向け
さ よ な ら と口を動かした。

「よせ、鯰尾!俺を置いていくな」
手を伸ばした。だけど鯰尾はどんどん
奥の方へと行ってしまう。

俺のせいなんだ。
俺が弱いから・・・今でも記憶記憶と自分の
記憶を探すために独りよがりなことを知らず
知らずのうちにしてるから。


鯰尾は一つに束ねた髪をほどいた。
そして、ふわりとサラサラのロングの髪の毛
が宙に舞う。

そして、鯰尾の覇気が変わった。
もう俺の声は届かない・・・俺はなんて愚か
なんだ。鯰尾が犠牲になることなんてないのに

悪いのは俺の方なのに・・・

「鯰尾・・・ごめん。ごめんなさい」

彼の耳にはもう届かない。
彼は血に染まり検非違使から痛めつけられる。


鯰尾は倒れた。
倒れて体にヒビが入った。

「ごめんなさい・・・」
俺は涙を流す。涙を流す権利なんてないのだけ
ども泣いてはいけないのだけども・・・勝手に
涙が出る。



すると頬っぺたをつねられた。
そして、現実に戻される・・・


「骨喰?」
と暗闇の中で鯰尾が顔を覗かせる。
骨喰は目を開いた。

「生きている・・・?」

骨喰は涙を流していることに気が付いた。
鯰尾は横に倒れている骨喰の首筋を撫でる。

「お前が生きてて良かった」
鯰尾はにっこりと微笑んでいるようだ。
暗闇だからか顔がよく見えない。


そして、記憶を思い出した。
そうだ・・・俺は上から大きな岩石に下敷き
になるところだったんだ。だけど、鯰尾が俺を
押して倒して鯰尾が俺の上に・・・

はっと思い骨喰は顔を紅潮させる。

「へ・・・変なことはしてないだろうな!」
と起き上がって鯰尾を押した。

そして、視線を合わせられない。
先ほどの夢を思い出してそっぽを向いたままだ。

「し・・・してない!断じて寝ている骨喰に
悪戯をしようと思ってそんなことしてない!」
と多分、鯰尾も顔を真っ赤にさせているのだろ
う。

だけど、骨喰は内心ちょっとだけガッカリした。そんな自分にまた顔を赤くさせる。

(・・・馬鹿か俺は。何を考えているんだ)


すると鯰尾が口を開いた。
「さっきまで秋田君と乱ちゃんと五虎退から
外で連絡があったよ。よかった。みんな無事で」

「辺りは暗いが閉じ込められたのか・・・俺達?」

「そうらしい。だから、俺達もこの洞窟の中を
どう出るのか一緒に考えようぜ」

「ああ、そうだな」

「それより骨喰、玉鋼ちゃんと持ってるか」

「ああ、ちゃんとバックにしまった」


バックの中を確認する。
玉鋼は岩石で崩れたってことはなかったらしい。運がいいのか悪いのか・・・。



(辺りをうろうろするのは危険すぎる。
いつどこでまた岩石が落ちてくるのかわから
ない。俺達はずっとその場でうずくまった方が
いいだろう)

30分ぐらい時間が経過して鯰尾と骨喰は並んで
座っていた。

「なあ、骨喰」
と、沈黙を破ったのは鯰尾からだった。
「なんだ?」

「俺はお前の事が好きなのかもしれない」

いきなりの言葉で骨喰は顔を紅潮させる。
「・・・好きだから・・・なんだ?」

鯰尾はいっとき間を置いて
「骨喰を・・・めちゃくちゃにしたい」

「・・・・・・」

骨喰は顔を背ける。
(俺も鯰尾が好きだ・・・でも)

「ごめん、そんなことされたらお前が傷つく
だけだ・・・」

骨喰はその場から離れようとする。

「ちょ、動いたらまた岩石が頭から・・・!」
鯰尾は骨喰の手を握る。

骨喰はキッとした口調で
「離せ」
と言う。

「嫌だ。お前を離したくない」

「うるさい」

耳鳴りがする。また誰かを傷付ける。
遠い昔に記憶がないけれども誰かを犠牲にした。その誰かは思い出せないけれど・・・

ただ大切な人だった。
大切な人が失うのはもう見たくない。

目を伏せていたい。

「俺のせいか・・・?」
骨喰は握られた手を離せずにいた。

「俺がいち兄と抱きついたりしてるから・・・
お前は・・・」

「あー馬鹿馬鹿しい。俺がいつお前に嫉妬
した!」

顔が紅潮する。言葉は嘘をつく。
そうだ、鯰尾が誰かとひっついているのを
見るのは気分が良くない。狂ってしまう。

そして、骨喰は涙がホロリと出る。
泣きたくなんてないのに・・・


すると鯰尾は骨喰に抱きついた。
強く抱きしめた。

「ごめん・・・。俺は馬鹿だから気付かなかった」

「離せよ・・・」
だけど、そんな抵抗は鯰尾には通用しない。


鯰尾の体は温かい。骨喰そんな彼の体温が
愛おしくてたまらなくなった。

「・・・欲しい」
つい、言葉が出てしまう。
骨喰は鯰尾の耳元で囁く。

「今だけ確かめたい。本当にお前が俺のことを
好きなのかどうかを・・・」


鯰尾は頬を紅潮させた。耳まで真っ赤だ。

「ごめん・・・俺もう我慢の限界なんだ」

そして、骨喰は鯰尾に押し倒された。

それから口付けを交わした。
何度も何度も交わした。


(俺は鯰尾を傷付けてしまう・・・だけど
俺は鯰尾が欲しいんだ)


二人は衣服を脱ぎ捨て裸で抱き合った。

(俺は罪深くて卑怯な人間だ)

そして、二人は手を結びあって快楽に落ちた。

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