短編集

□to have an eye on
1ページ/4ページ



イギリスの教育システムだと書きにくかったので、日本設定な高校生です。










⬛⬛⬛ to have an eye on ⬛⬛⬛












ずっと不登校だったけれど次第に学校に来られるようになった一年生と、幼馴染みであるその一年生を励まし面倒を見ている優しい三年生。
特にその三年生は、成績優秀、容姿端麗、しかも生徒会長も務めたという注目の人物だったから、その話はあこがれや尊敬を含んだ話題として生徒達の間で広がっていた。




雪がちらつく中、今朝も二人は一緒に登校してきた。
すぐ隣で何かを話す三年生を見上げ、瞳を細める一年生も、三年生とは違ったタイプではあるもののかなり整った容姿だ。
二人並んでいると、何かドラマの撮影でもやっているのかと思うくらい絵になってしまっている。
そんな二人は登校中の他の生徒達から一斉に注目を浴びるものだから、本来ならこの二人と同じ長さの付き合いがあるもう一人の幼馴染み────マットは、いつも二人から数歩離れた後ろを歩くようにしている。
あの美談に彼は全く関係ないし、いや、なにより、美談として広がっているその話は、実際は全く違うと知っているからだ。



その一年生──────ニアが不登校になった理由というのが、『知ってて当たり前の事を垂れ流すだけの学校なんかで学ぶものなどありません、バカバカしい。通う意味がない』であるという事。
面倒を見ている三年生──────メロがニアの登校時から休み時間、下校時までつきっきりになる理由が、男子らしからぬ容姿のニアに群がる虫達への、ひたすらな威嚇行動であるという事。

実際、ニアの学力は学生の域でおさまるものではなく、むしろ既に出来上がっている分野においては全て極めていると言ってもいいほどだ。
教師達はニアが教室にいると授業がやりにくいからと不登校でも放置していたし(単位は全国模試成績の公表で取引済)、幼い頃からニアを見ている自分とメロはそれを知っているから、ニアに「学校行こうぜ」などと顰めっ面を返されるに決まっている白々しい言葉なんか向けるわけもない。

むしろ、ニアを幼い頃から気に入るというレベルではないレベルで気に入っているメロにすれば、ニアが学園に行かなければ他の生徒の目に触れさせずに済むわけだから、部屋に閉じこもる状態は好ましいものだった。
それに、ニアが不登校でも誰も何も困らないから、ニアの学園卒業までこの状態は続くんだろうと当たり前のように思っていたのだ。







ニアが不登校を満喫していた頃、マットは学校帰りにメロと二人でニアの家によく遊びに行っていた。

「マットはともかく、メロはどうして学校なんかに行くんですか?あなたにだって学舎など必要ないでしょう?」

部屋の半分近くを埋めるジグソーパズルを組み立てながら、ニアが不思議そうに聞いた。
さりげなく仲間はずれにされているような感じがして、軽く寂しさを感じた横で、雑誌のページを捲っていたメロが紙面から顔を上げることなく答えを返した。

「そうだな・・・強いて言えば、人間観察だ」
「人間観察?」
「ああ。表情、行動、言葉。それらを組み合わせる事によって、周りの人間がどんな反応をするか、いかに操れるか。こればっかりは相手がいないとできないからな。ありがたいことに、学舎には無料の被験者がたくさんいる」
「そんな理由なのかよ。嫌な奴だな」

非難を向けながら覗き込んだ雑誌には、新細胞を使った創薬研究についての論文らしいものが、見たことの無い言語でぎっちりと解説されている。
ニアの本だ。
健全な男子高校生の部屋にあるには難解すぎるものだし、それを興味深げに読む奴もかなりおかしいとマットは思う。
しかも、

「ああ、マットはそう言うと思った」

目だけを向けながらニヤリと笑われ、メロに「反応」を見られたのだと気付いてムカついた。
これだから、頭の良すぎる奴は嫌なんだとふて腐れていると、その感情を宥めるように静かな声が「なるほど」と呟くのが聞こえた。

「ニア? どうかした?」

驚いて視線を向けるのと一緒に、隣でメロも何事かと紙面へ落としていた顔を上げる。
その先で、ニアは手の中のパズルをパラパラと箱の中へと戻しながら、大きな瞳を面白そうに輝かせていた。

「それは───────面白そうですね」




その一言が、始まりだったのだ。









次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ