短編集

□Wish list next to
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「探偵としても忙しくしているメロに、頻繁に捜査協力をお願いするのは申し訳ないと、前々から思ってはいたんです」


そう告げると、メロはキーボードを叩いていた手を止めた。









⬛⬛⬛ Wish list next to ⬛⬛⬛










「へえ、そんな気遣いなんてできたのか、ニア」

どこか馬鹿にしたような眼差しと声。
それは、『今ごろ気付いたか』と言わんばかりの反応で、ニアも上向きに寝転がって飛ばしていたブリキのヘリコプターを空中停止させた。

「もちろんです。それに、自分一人ででもでできることを増やしておいた方がいいとも思いますし」

ほとんど真下になる位置から、椅子に座ったメロの見下ろす青い瞳を見上げて返す。
メロは、肘掛けに寄りかかって上体を乗り出し、ハッ・・・と短く笑った。

「それはいい心掛けだな」

軽く傾けた顔の動きに合わせ、金髪が揺れる。
そのさらさらとしたなめらかさを見る度に、いつも触ってみたいとニアは思うのだけれど、拒否されるのが分かりきっているからとまた我慢した。

「ありがとうございます。それでですね、メロにお願いがあるんです」
「なんだ?」
「勉強させてもらえませんか?」
「何の」
「今回の宝石ブローカー一味への潜入、私も一緒に行きます。現場での捜査を手伝わせてください」
「ふざけるな、断る」

返ってきた即答は、予想していたものだ。
分かっていても不満はどうしようもなく、ニアは唇を尖らせて溜め息をついた。
またPCへと戻ってしまった顔は、くだらないことに時間を使ったとでも言いたげだ。

「どうしてですか」
「足手まといだからだ」
「決めつけないでください、ちゃんとできます」
「できない。無理だ。分かりきってる」
「ひどいです 」
「何もひどくない。どこからどう見ても答えは決まってるだろうが。ハル達にでも、どっちが正しいと思うか聞いてみろ」

投げやりな口調でそう答えて、メロはパソコンからUSBを抜き取ってさっさと帰り支度を始めた。
いつもなら、捜査協力について連絡を入れるとメロは朝にやってきて、捜査内容について話ながら一緒に昼食を取って、それから帰る。
その定例とも言える流れを無視しようとしている姿に、ニアは慌てて体を起こした。
どうやら、機嫌を損ねてしまったらしい。
前線で動く大変さを分かっていないと思われたのだろう。

「待ってください、メロ。昼食を用意してあります」
「他からの依頼もある、俺は忙しい。もう帰る」
「メロ・・・!」

呼び止める声も虚しく、「じゃあな」と軽い挨拶を振り向きもせずに落として、さっさと扉の向こう側へと消えてしまう。
立ち上がりかけた中途半端な状態でそれを見送ることしかできなかったニアは、楽しみにしていた時間があっけなく終わった事実に、ただ呆然と体を固まらせた。








「素直に言えばいいんじゃないですか?」
「何をですか」
「捜査協力を依頼する時だけではなくて、もっと一緒にいたいんだ、って」
「・・・何の話ですか」
「あら、検討違いでしたか? すみません」

メロが帰ってから向かったモニタールームで、ハルはコーヒーを差し出しながら意味深な笑みを見せた。
謝る声は、とても白々しい。
何の資料だかわからない紙切れに視線を落としているレスターも、先週片付いた事件の実行犯の顔写真を眺めているジェバンニも、口許に薄く笑みを浮かべている。
どうしてこうも、こいつらはこういう面に無駄に賢いのだ。
メロみたいに潜入捜査をしてみたい、という話はしたことがあったから、今日メロがさっさと帰ってしまった理由がそれだと感付いたのだろう。
一緒にいたい云々などとは言ったことがないけれど、そこら辺のことも無駄に悟っているに違いない。
しれっと仕事に戻った三人を睨みながら、ニアはふてくされた溜め息をついた。


もう少しメロと一緒にいたい。
そう望んでいるのは確かだ。
だから、少し難しい事件が舞い込んでくる度にメロに依頼をかけている。
メロは、こちらから捜査協力を願い出た時でないと『L』にやって来ないから、それしか会う理由を作れないのだ。
『もっと一緒にいたい』などと言ったりしたら、メロはもうここには一切現れないだろう。
潔癖なあの性格が、自分のこの気持ちを知ったらどんな反応を見せるか・・・考えただけで気分が滅入ってしまう。









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