仮面少女の奮闘...

□俺がお前を嫌いになることはないから
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「柊さんって知ってる?」

「知ってる知ってる! B級あがったのにチームに入らない変わり者でしょ?」

「A級にあがるためにはチーム組まなきゃいけないのにね。なんでだろ」

「強い人の考えはよく分からないねー。一匹狼って感じでかっこいいけど」

「確かに。なんかかっこいいよね」

防衛任務の報告書を提出した帰りのボーダー本部の通路で、自分の名前が聞こえてとっさに物陰に隠れた。
そっと見ると、C級の女の子2人が楽しそうに話している。
私は少し下がっていたマスクをあげてしっかりと装着する。
声が遠ざかっていくのを確認して、さらにそこから時間をとって、ゆっくりと物陰から出た。
もう、我慢ができない。言わせてください。

「死にたい……!」

ごめんなさい私一匹狼なんかっこいい存在じゃないんです。きっとあの子達も戦闘体でない私と会って話したらなにこの根暗うざいとか思うよきっと。いやもう思われてる?もしかしたら私が聞いてるの知ってて皮肉の意味をこめて言ってたのかもしれない。一匹狼きどってんじゃねーよ(笑)って意味だったのかな。よし、死のう。

「あれ、柊じゃん。珍しいな」

聞きなれた声に、即座に切り替え。マスクをもう一度確かめる。

「米谷先輩に緑川くん、お疲れ様です。今からランク戦ですか?」

「そうそう。たまたまそこでよねやん先輩とあってさー」

「……よっし! 柊もいくぞ!」

「え、いや、私は別に……」

「お前ぜんぜんランク戦に顔出さねーじゃん。いっぺんやってみたかったんだよなーお前と試合!」

「私B級ですよ? 米谷先輩を満足させられる実力なんてないですよ」

「謙遜すんなって! トリオン兵との仮想戦闘見りゃ分かるっつーの。やろうぜ!」

「俺も俺も!瑠花さんと試合してみたい!」

どうしよう。この戦闘大好きコンビはどうやってもひきそうにない。
いやどうしようも何も受ければいいだけの話だ。ボーダー隊員のくせにランク戦をしたがらない私が普通じゃないんだ。
断ったら、嫌われてしまうかもしれない。

「そうですね、やりましょう!」

「すみません。ちょっとコイツ借りてもいいですか?」

「ぐえっ」

意を決して承諾した時、突然京介が現れて私の首根っこをつかんだ。
そんなに強い力じゃないから苦しくはないけど、いきなりだったからびっくりしてちょっとむせた。

「京介、なんでお前本部にいるんだよ」

「林藤支部長のおつかいでちょっと。瑠花、お前報告書に記入漏れあったらしいぞ」

「え!?」

「てことなんで、すみません」

「ちぇー」

「いつか絶対やろうね瑠花さん!」

そう言いながら米谷先輩と緑川くんはランク戦ブースに歩いて行った。
私はそれを、京介に首根っこをつかまれたまま見送る。
しばらくしてため息をついた京介が私の首から手を離した。

「……全く」

「ごめんね京介。私のミスのせいで無駄足ふませちゃって」

「いや、あやまらなくていい。あれ嘘だから」

「嘘って……」

「適当なこといって逃げていいんだぞああいう時は。対人戦闘苦手なくせに無理するな」

そう、私は対人戦闘が苦手だ。
仮想トリオン兵相手なら問題ないが、例えトリオン体でも人間と戦うのは抵抗がある。
だからランク戦には、B級にあがってからは一度もしたことがない。
だから正隊員のなかでは誰よりもポイントは少ない。
そしてさらに、C級の女の子たちがいっていたように私はB級隊員でありながらどのチームにも属していない。
その理由はとても単純で、馬鹿らしいものだ。

私が、極度のコミュ障だからだ。
コミュ障。正式名称はコミュニケーション障害。簡単に言うと人と会話することが困難な人のこと。
あの二人とは会話できていたじゃないかって?
それは良かった。私はコミュ障を全力で周囲に隠しているのだ。
そのための絶好のアイテム。それがこのマスクだ。
もしマスクを発明した人に会えたら、私は土下座してもいいレベルでマスクのお世話になっている。
顔を隠していたら、まだまともに話せる状態まで保てるからだ。マスクの絶対の安心感といったらもう……。
このマスクがなければ、幼馴染の京介以外とはまともに話せなくなる。
そんな奴に、チームなんて組めるわけがない。

京介は、こんなめんどくさい私をいつも助けてくれる。

「……ごめんなさい」

「だから謝らなくていい。俺が好きでやっていることだ」

「でも私、いつも迷惑かけてばっかり」

「もっとかけていい」

「でも……」

「俺がお前を嫌いになることはないから」

そう言って京介は頭を撫でてきた。
この幼馴染は、いつも私を安心させてくれる。

「ありがとう、京介」

「送って行くから待ってろ。林藤支部長のおつかいってのは嘘じゃないんだ」

「……柊、了解」


私の幼馴染は優しすぎる。
甘えてしまう私はなんて卑しいことか。

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