仮面少女の奮闘...

□まじで謎だ
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B級隊員の柊といえばボーダー内で知らない奴はいないだろう。B級のくせにチームを組まず、個人ランク戦にも参加しない。やる気がないのかと思えばトリオン兵との仮想戦闘は人一倍こなし、定期的に忍田本部長に稽古をつけてもらい腕を磨いているらしい。

「いっぺん戦ってみたいよなあ」

「んあ? 誰とだ?」

つい口に出た言葉に焼きそばパンをほおばりながら槍バカが反応した。汚ねーなこいつ。

「柊だよ。トリオン量もなかなからしいし、バトってみてえなあって」

「俺こないだ誘ったけど都合悪くて断られたぜ。次やる約束したけどな」

「まじかよ。てかドヤ顔むかつく」

「うっせ。あいつとは何度か話したことあるけど、普通にとっつきやすい奴だし問題児っぽくもないし、なんでチーム組まないのかわかんねーんだよなあ」

普通の奴なのか。まじで謎だ。
でも、それなら誘えば俺ともバトってくれそうだな。

「あ、ちなみに京介の彼女」

「はあ!?」

まじかよ。あの恋愛に全く興味なさそうな京介に彼女?

「俺の勘だけどな」

「なんだよ勘かよ」

「いやー、なんかあの二人が一緒にいると二人だけの空気っていうか、他人が入れない空気みたいのがでてんだよなー。よく一緒にいるし」

「へー」

はー、あの京介がねえ。しかしますます興味湧いてきたな。今度京介に聞いてみっか。

「柊瑠花……か」













「ぴゃっしゅん!」

「変なくしゃみだな」

「う、うるさいな! 本当に花粉症になったのかな」

「誰かがお前の噂でもしてるんじゃないか?」

「そんな噂されるような大層な人間じゃ……あ、良い噂とは限らないか」

ちょっと期待したのになあ。いつまでも花粉症の嘘をつくのは正直メンタルに響く。一体どんな噂をたてられているんだろうか。ボーダーのお荷物?出来損ない?忍田本部長の顔汚し? 

「またネガティブなこと考えてるだろ。悪い噂なんて言ってない。そもそも迷信だ」

「ネガティブなことなんて考えてないよ!考えてなんかない!」

「顔に出てた」

そう言いながら京介は弁当の中のたまごやきを口にいれる。またやってしまった。ネガティブやめろって言われてるのに。

「うまい。なんか味付け変えたか?」

「あ、今日ちょっと甘いかも。ごめん」

「いや、俺こっちの方が好きかもしれない」

「ほんと? じゃあ明日からもこのくらいにするね」

「……いや、いい」

「私も甘いの好きだから大丈夫だよ?」

「いやそうじゃなくて……明日から委員会の仕事で一週間いっしょに昼飯食えないんだ」

「え……」

「だから明日から弁当は遠慮する。いつもありがとな」

京介いわく、委員長がやらなければならない仕事をすっかり忘れていたせいで期限がギリギリになってしまい、昼食片手間にやらなければ間に合わないらしい。つまり私はその間一人でお昼ご飯を食べなければならないということだ。他の誰かと食べればいいと思うでしょ? マスクを外さなきゃいけない食事中は私にとってのコミュ障タイムだ。京介以外とランチタイムなんて考えただけで私の人生終了の鐘の音が聞こえて来る。

「すまない」

「き、気にしないで。 私は大丈夫だから。お弁当も作るよ? 作業しやすいようにおにぎりとかサンドイッチとかにするね!」

「いやそれはさすがに悪いから良い」

「いいの。京介には感謝してもしきれないんだから、お弁当くらい作らせて」

「……悪いな」

京介が眉をすこし下げて私の頭をなでる。

「私、京介に頭なでられるの好きだなあ」

なんか落ち着く。

「……知ってる」

やっぱり。京介は私のことは全部お見通しなんだ。

「えへへ、委員会のお仕事がんばってね!」

私は知らない。高校になってからの初めての京介のいないこのお昼ご飯に、これから何が起こるのかを。










「悪い、嘘だ」

彼女は知らない。俺が彼女に聞こえないようそう呟いていることも、俺が彼女の不意打ちに口がゆるみそうになるのを必死に抑えていることも。

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