DREAM

□独り占め
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女性なんか苦手だ。

怖いし、どう接していいのか分からない。





でも、あの人だけは。


「アキヲくん!」


あの人だけは僕を認めてくれる。褒めてくれる。



「……ぷ、プロデューサー。
僕に、な、何か用?」



「アキヲくんを見つけて、嬉しかったから。」




そんな理由だけで声をかけて、笑ってくれる。


この人の傍にいる時は、すごく暖かい。

でも、胸がぎゅって苦しくなる時もある。





だって、

「……さっき、子規と話してた。」


「え?」


「…え、あ。」


声に出すつもりなんて無かったのに。

思わず声に出てしまってたみたいだ。




意味わかんない奴だって思われたらどうしよう。


子規に僕なんかが適うわけないのに、嫉妬なんてしてたことがバレたらどうしよう。




「見てたなら声をかけてくれても良かったのよ?」



そんな僕の心配なんて気にもせず、この人は笑うんだ。



「子規くんとはね、仕事の話をしていたの。アキヲくんにも関係のある話よ。」


「ぼ、僕にも?」




話を聞くと新曲が出来たらしい。


しかも、ラブソング。



「む、むりだよ。…僕なんかが、そんな恋愛なんて…。」



「大丈夫よ。」




そう言ってプロデューサーは僕の手を握った。

女性恐怖症の僕からしたら、引きこもりたいと願う他ない。




「きっとアキヲくんの好きな人を思い浮かべて歌えば上手くいくわ。」




僕の好きな人なんて、1人しかいない。

目の前にいる貴女しかいない。




少しだけ、ほんと少しだけ勇気を出そう。


じゃないと、このまま変われないから。


震える手でプロデューサーの髪に触れる。


「…アキヲくん?」


まっすぐ見つめられて、パニック状態だけど




今だけは、勇気を出して言うんだ。






「す、きな人、は、あ、アンタ、だよ。」


言葉にした途端、自分でも顔が真っ赤になるのが分かった。



プロデューサーも顔が赤くなっていた。

目を合わせているのが辛くなってきたから、やけくそになってプロデューサーを抱きしめた。




これもこれで死ぬほど恥ずかしいけど、顔が見えないからいいとしよう。





「え、あ、アキヲくん!?」




僕だけじゃない。この人も焦ってるんだ。


腕の中にあるこの人を離さないように、少し力を入れる。




「この、曲歌う時だけは、あんたの、こと、独り占めした、い。」



明日からはもう引きこもろう。そうしよう。

だから、どうにでもなれ。




「だから、子規とか、虎とかと、話しないで……。やきもち、焼くんだ…。」



言いたいことは言えた。

ゆっくりプロデューサーを離して顔を見ると、多分僕と同じくらい顔が赤かった。







不意に目が合って心臓が口から出そうになった。


言ったことに後悔はしてないけど、なんだか無性に申し訳なくなってきた。


「あ、あぅ…。ご、ごめんなさ」

「謝らないで。」


「えぅ?」

「…私のこと思い浮かべて歌ってくれるの?」




上目遣いで言ってきて、目を逸らしちゃったけど、
自分で自分を応援しながら再び目を合わせる。



「…うん。」


そう返事をすると、プロデューサーは嬉しそうに微笑んだ。




「…なら、私も頑張るわね。」


「え?」

「アキヲくんの為に、私も仕事頑張るわ。」


プロデューサーはそう言うとまた僕の手を握ってきた。




この人は頑張ってこの人なりに僕の想いに答えてくれているだなって思って、どうしようもなく恥ずかしくて嬉しくなった。



僕もちゃんとこの人と向き合おう。



「…じ、じゃあ僕も、頑張るよ。…名前。」


人生で一番の勇気を出して、名前を呼んだ。


そしたら心の底から嬉しそうに笑ったから、この人のために、名前のために頑張ろうって思った。



こんな僕でも誰かのために頑張れるんだって、すごく嬉しかった。

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