ほんとを見て
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かしゃん、と音を立てて創也のティーカップがソーサーへ戻った。
「初対面じゃないんだよ」
からっぽになった頭に、創也の言葉が響く。やっぱりまだ信じられなくて、ぶんぶんと首を振った。
「お前、お姉さんが栗井栄太のメンバーだって言いたいのか!?」
「違うよ。秋穂さんが栗井栄太なら、わざわざ同室になってるぼくらの部屋から離れるはずがない。彼女は栗井栄太のことは、一昨日に初めて聞いたんだと思うよ。……もっとほかに、単純な共通点があるだろう。……柳川さんは、美大生でしたね?」
ああ、と柳川が頷く。観念する、というように肩を竦めながら。
「秋穂さんは、大学生。……その大学というのは、美大ですか?」
「正解。ひろくんとは学科が違うけどね」
にっこりと秋穂が笑う。
内人は絶句したように口を閉じた。
「どうもウイロウの様子がおかしいと思ってたら」神宮寺が息を吐きながら椅子の背もたれに体重を預けた。「そういうことだったのか」
彼の様子から、秋穂と柳川の関係は、栗井栄太の中には伝わっていなかった事がわかる。ジュリアスと麗亜もそれぞれ驚いた顔をしつつ、興味深そうな目で柳川を伺う。
注目の集まった柳川は、鬱陶しそうに視線を逸らした。
「……まさかこの場に居合わせるとは、本当に、秋穂は行動が読めない。知らない体を、貫いてくれたのは、唯一の救いだったが」
――やなぎがわ……ひろゆき?
――やながわ、ひろゆき
あの短いやりとりは、秋穂が「初対面のふりをしてやる」と示したサインだった。その代償として、彼女は栗井栄太も巻き込んだいたずらを仕掛けたわけだが。
「そーよ。せっかく私が空気読んで他人のふりして!おとなしくゲームキャラクターに徹してあげたのに!この唐変木、言うに事欠いて『この場にいてほしくない』だって!はあ!?ソレ気を遣ってあげた私に言うセリフ!?」がらりと態度を変えて半眼になる秋穂に、部屋にいるほとんどの人物が言葉を無くす。
「……毒蛾が入り込んだら、取り除きたくなるだろう」
蛾。
システムの誤作動や破壊をもたらす「バグ」の語源となったその虫の話は、秋穂も知っている。
だが、彼がバグの比喩だけでその言葉を口にしただけではないと分かって、秋穂はひくりと表情を引きつらせた。咄嗟に下唇を噛んで罵詈雑言をこらえる。この場にいるのが柳川だけだったら、遠慮のない文句が飛び出していただろうが。
「ウイロウ、やめろ」
窘めるような神宮寺の言葉で、柳川は口を閉じた。
落ち着くように、息を吐く。
リーダーの言葉に従っただけ、であり、恨みがましく秋穂をねめつける視線は変わらない。
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あとがき。
柳川さんが毒舌家だし夢主がはねっかえりだから自然とケンカップルみたくなりますね。