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□私とあなたの幸福論
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「ねぇ、吉継」
なにか書き物をしている彼の後ろで寝転がっていたら、ふとある疑問が頭をに浮かんだ。
書き物に没頭しているのか、はたまた私の呼びかけに反応する事が面倒なのだろうか。
どうせいつものことだ。
構わずに私は話を続ける。
「吉継にとって、幸せってなに?」
私の問いかけにぴくりと体を動かし、振り向いた。
白黒反転した彼の目が、静かに私を捉える。
「ヒヒッ…ぬしも可笑しなことを聞くものよ」
そう言って彼は筆を置き、体を完全に私の方へ向けた。
「われにとっての幸福は、われ以外の者共の不幸よ…幸福も不幸も全て等しく平等であるべきであろ?」
彼はそういうと至極楽しそうににたりと笑った。
「じゃあ、私の不幸も吉継にとって幸せ?」
「そうよなァ…ぬしの不幸は想像も出来ぬほど甘美な味であろ」
そう答えると、彼は渇いた笑い声を上げた。
その渇いた笑い声も、捻くれた考えでさえ、全てが愛おしい。
「そっか…じゃあ困ったことになっちゃった」
「困ったこと…とな?」
「私にとっての幸せは吉継にとっての幸せなの。でも吉継にとっての幸せは人類皆の不幸…その中には私も含まれてるんだったら、吉継が幸せになったら私も幸せになっちゃう」
そう言うと彼は黙り込んでしまった。
「ねぇ、吉継。幸せって案外難しいんだね」
「そう…よな」
彼の返事を聞いて私は静かに目を閉じた。
吉継の側で微睡むことも幸せだと、そう感じながら。