スモーカー×ロー
□ここからはじまる恋物語
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「お前はまた、酒ばかり飲んで」
広い部屋の一室でその男はローからボトルを取り上げる。
昨日手に入れたばかりのそれは、仕事から帰ってきた今、いつの間にか部屋に来ていたらしいローによって半分まで減らされていた。
いつだってそうだ。
気紛れに現れるローに手を焼いている。
手を伸ばせば離れ、背を向けると寄ってくる。
猫のようにつかみ所のないローに、仕事の疲れもあって男は盛大にため息を吐き出したのだった。
「ケチケチすんなよ、白猟屋。まだ他にもいっぱいあるじゃねェか」
グラスの中の氷を指でつつき、マドラーの変わりに指でブランデーをかき混ぜるロー。
「いつも高いのばかり選んで、おれより先に全部飲み干す奴が何を言う」
ここ数ヶ月、新しいボトルの蓋を自ら開けた記憶がない。
どこで嗅ぎ付けてくるのか、気に入った酒を買ったその日か翌日にはローは必ず部屋に来ている。
知らない間に合鍵を作っていたローは、今や我が物顔で部屋を好き放題にしている有り様。
鍵を変えるという手もあるにはあるが、警戒心を解いて懐に飛び込んでくるローを、スモーカーは手離したくなかった。
コートを脱いでローの隣に座ったスモーカーはその手からグラスを奪い、グイッと一飲みでブランデーを喉に流した。
「あま…っ」
想像とは違ったブランデーの味にスモーカーが思わず顔を顰めると、ククッと笑ったローがテーブルの上に置かれた小瓶の中に指を入れ、粘り気のある液体を指に乗せながら口に運ぶ。
色づいたローの舌が濡れた指を舐め取り、小さな口に銜えられる。
淫猥さを醸し出すローの行動に、スモーカーの喉が微かに鳴った。
「この方が飲みやすくていいんだよ」
綺麗に舐め取られた指を再び小瓶に入れたローは、今度はその指をスモーカーの口に持って行く。
「ロー、酔ってるだろ」
元よりローは酒が強い方ではない。
飲みたがる癖に、いつもすぐに潰れてしまうロー。
逃げ出さないようにローの手首を掴んだスモーカーは、細い指を銜えて舌で舐め上げる。
液体の中身は小瓶のラベルに書かれてある通りの蜂蜜で、甘ったるい味にスモーカーの唾液の分泌量が増した。
「いつまで銜えてんだよ…」
ふやけちまうと、それでも嫌そうな素振りは見せずに、反対に楽しそうに笑うローを見つめ、スモーカーは指に軽く歯を立ててやった。
「誘ってるなら、喜んでその誘いを受け取るが?」
手首を掴んで指に歯を立てるスモーカーの低い声に、ローの顔が少しだけ赤く染まる。
スモーカーの真剣な眼差しに、冗談で言っているのではないということが窺え、ローは一度目を伏せた後、銜えられたままの指を軽く動かした。
「酔ったことにしとく…」
酒に酔ったのか、雰囲気に酔ったのか解らないけれど。
体温よりも熱いスモーカーの舌は、ローの指だけでなく、身体の奥深くまで熱を与えてはじめている。
「Very Superior Old Paleというより、Very Special One Patternだな」
誰に伝えるでもなく呟かれたローの言葉。
テーブルの上に半分まで減らされたV.S.O.Pのブランデーを一度見たスモーカーは、いつまで経っても変わらないローに笑い出した。
「お前はそのままでいい」
懐いてくる様も可愛らしいが、誰にも懐かないローが自分の手に堕ちた時の方が征服欲が満たされると、スモーカーは細身の身体を引き寄せて腕に閉じ込める。
「Happy Birthday、スモーカー」
今日1日は好きにさせてやると言いながら肩に頭を懐かせたローに、スモーカーは固まった。
「ロー、お前、わざわざ祝いに来たのか?」
まさかローがそんなことをするとは思わず、突然のサプライズにスモーカーの鼓動が高まる。
「だったら、どうなんだよ」
肩から顔を上げないローは多分照れているのだろう。
不貞腐れたように吐き出された言葉に、スモーカーはローの頭を撫でて優しい笑みを浮かべた。
「ありがたく頂いてやるから、途中で逃げるなよ?」
手離す気も逃がす気も更々ない。
ローの顔を上げさせたスモーカーは、薄く開かれた唇にキスを落とした。
END