コラソン×ロー

□彼らの日常
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「起きろー、もう昼になるぞー」



 太陽は既に高く昇り、これでもかというほど窓から室内に光を届けていた。

 その光から逃れようとベッドに深く潜り込んで眠り続けるローを起こし続けること十数分、痺れを切らしたコラソンはベッドへダイブをかましてやった。



「…うげ」



「起きろーっ!」



 コラソンの巨体に押し潰されたローが苦しそうな声を出す。

 もぞもぞと動くローの上から布団を剥いでやり、コラソンは小さな身体をぎゅっと抱きしめた。



「おはよう、ロー」



 ローの耳許でコラソンが囁いてやると、くすぐったそうに顔を逸らして逃れようとする。



「もう昼になるぞ。いい加減に起きろよ」



 おまけとばかりにコラソンがローの耳を舐めてやると、小さく呻いた彼がピクリと肩を揺らした。



「眠い。重い」



 いつもなら飛び起きるはずのローが、今日に限ってこの行動で起きようとしない。

 サイドテーブルの上に山積みされた本を見ながら、コラソンは溜め息を吐く。

 ローのことだ、どうせまた夢中になって本を読んで朝を迎えたのだろう。

 キリのいいところで一息ついたり、手を止めるということを彼は知らない。

 積み上げられた本を1冊手にしてパラパラと捲ってみたが、そこにはコラソンが理解し難き文字の羅列ばかりが並んでいた。

 ローは医学面では有能なのに、自分の管理についてはだらしがない。

 規則正しい生活が出来ないローに、コラソンはいつもあれこれ試行しながら、彼に少しでも規則正しい生活をさせようとしている。



「起きねェと襲っちまうぞ」



 挑発するように告げてやるが、慣れたローはこのコラソンの言葉では起きようとしない。

 事実、実際に襲ったこともあるが、その後更に疲れて眠ってしまったローに、流石に今日はそれをすべきではないとコラソンが肩を竦め、軽いキスを落としていく。

 何度かキスを交わしていくうちに、閉じられていたローの唇が薄く開かれたのに気づいたコラソンは、隙間から舌を滑り込ませて彼の熱い口内を楽しんだ。



「ん…、苦し…」



 乱れていく息の中で、漸くローがうっすらと目を開けた。



「ロー。起きたか?」



 濡れたローの唇を舐めたコラソンが、まだ覚醒してない表情でこちらを見つめる彼と目を合わせると、ローが呼吸を整えるように深く息を吐き出した。



「…何すんだよ」



「んー、おはようのキス?」



 もう昼だけどなと、クスリと笑ったコラソンが抱きしめていたローの身体を起こしてやる。



「寒い…」



 寝起きのローはそう言うと、コラソンの腕の中で身を寄せて瞼を閉じた。

 微睡みの中でうとうとしていると、それを止めるようにコラソンがローの頬をぺちぺちと叩きはじめる。



「寝るな、起きろ。顔洗ったら飯食うぞ」



「んんー…」



「起ーきーろっ!」



 あれから更に十数分、すっかり昼になった太陽は、暖かな光で室内を照らしていた。

 まだスッキリとしない頭で椅子に着くローの前に、コラソンとお揃いのカップが置かれる。

 蜂蜜を一匙カップに落とした後、コラソンは2つのポットを傾けた。

 低い位置から注がれた温かい紅茶とミルクは、コラソンが手を高く持ち上げたことによって高い位置から注がれ、混ぜなくても甘いミルクティーが出来上がる。



「テ・オ・レだ。ゆっくり飲んで、ちゃんと目を覚ませよ」



 ローは頷いた後、コラソンが淹れたミルクティーを口に運ぶ。

 溶けやすさを重視して選んだ蜂蜜の甘さは程好く、染み渡るような温かさで身体を優しく包んでくれた。

 ローは溜め息をひとつ漏らし、また紅茶を口にする。



「んまい…」



「クスッ。お前、意外に甘いの好きだもんな」



 甘いものを食べた時のローはどこか幸せそうな笑みを浮かべているということを知っているのは、もう長い間一緒に暮らしているコラソンだからこそ。

 だから甘やかしてしまいがちになってしまう。

 ローの色んな表情を見てみたくて、コラソンは進んで彼の世話をしているのだから。



「ほら、これも食え」



 そう言ってコラソンは朝早くから作っていたクロカンプッシュをローの前に出した。

 小さなシュークリームがタワーのように積み上げられたそれは、上から飴細工がかかっていて、所々にチョコレートソースがかけられている。

 一口サイズのシュークリームを摘まんだローはパクリとそれを食べ、ふわりと顔を綻ばせた。



「うん、んまい」



「だろ? もっと食えよ」



 紅茶のお代わりを淹れながら、コラソンは次から次へとローの前に色んな食べ物を並べていく。

 新鮮なフルーツを食べやすくカットしたものから、手作りのドレッシングをかけたサラダなど。

 味に飽きがこないように工夫された食べ物は、少食だったはずのローの手を忙しなく動かしていた。

 ローの眠気など、もう飛んでいるだろう。

 美味しそうに食べるローの顔を嬉しそうに見ながら、コラソンもまた食べ物を口に運び、今日の夕飯の献立を考えはじめた。

 何も用事がない日は家から出ることもなく過ごす日がある。

 揃って買い物という日もあるが、今日は家でまったりとしたい気分なのだろう。

 夕飯の仕込みを終えたコラソンは、また本の虫になっているローに近づき、その中身を見る。

 相変わらず意味不明の文字が並んでいたことに苦笑を浮かべながら、コラソンはローの手を引いてテーブルに着かせた。



「そろそろ休憩しようか」



 言い出さないとずっと本を読みっぱなしのロー。

 栞を挟んだ本をテーブルの端に置いたローは、昼とは違うカップの中に色鮮やかな氷砂糖がいくつも入れられるのを見ていた。



「クルンチェって言うんだ」



「ふーん」



 医学面には詳しいローだが、食材や料理に関してはとことん疎い。

 その代わりにコラソンはこの手に強く、見る面でもいつも楽しませてくれる。

 カップの横に置かれたティースプーンも、いつもカップによって変えられているのだから、コラソンに拘りがあるのだろう。

 半分まで注がれた紅茶に合わせて、パチッと氷砂糖の弾ける音がする。

 ローがその様子を見ていると、上からコラソンが生クリームを流して中身を隠した。



「これは混ぜずにそのまま飲むんだ」



 だとしたら、セットされたティースプーンの意味は何なのだろうか。

 少しの疑問を感じながら、紅茶を口に運んだローはその意味を何となく理解した。



「美味しい」



 生クリームと紅茶、次に紅茶、最後に氷砂糖が溶け出した甘い紅茶の味が何段階も楽しめる。

 半分ほどしか淹れられてなかった紅茶はあっという間になくなり、カップを置くと同時にコラソンが次を注いでいく。

 何度かそれを繰り返した後、ローが注がれた紅茶に困ったようにコラソンを見つめた。



「コラさん、もういい…」



 いくら美味しいとはいえ、今日で2日分の紅茶を飲んだ気がしてならない。

 腹が減っているのであればまだ飲めるのだろうが、これ以上飲んだらローは腹一杯になりそうだった。

 それでもコラソンは笑いながら空になったカップに新しい紅茶を淹れてくる。



「コラさん!」



 もういいと言っているのにそれを聞かず、楽しそうに笑いながらローを見つめているコラソン。

 長い指はティースプーンを差している。



「お代わりがいらない時は、飲み終わったカップにそのティースプーンを入れるんだよ」



「…どこのわんこそば屋だよ、それ」



 飲んでは注がれ、注がれては飲んでを繰り返し、そろそろローは限界にきていた。

 最後の一口を口に含んだローはカップを置かず、コラソンを引き寄せてそのままキスをした。

 席から立ち上がったローは合わさった唇の間から紅茶を注ぎ、カップに少しだけ残っていた氷砂糖もコラソンの口に移してやる。

 コクリとそれを飲み込んだコラソンが呆気に取られていると、唇を離して席に着いたローがニヤリと笑った。



「ごちそうさま」



 カップの中にはティースプーンが入れられており、紅茶の時間も終わりとなった。



「明日は何の紅茶にするかなー」



 本を開いたローが楽しそうに後片づけをするコラソンを見つめている。



「な、ロー。明日は朝からお前の好きなだし巻き玉子と焼き魚を用意するから、朝はちゃんと起きろよ」



 くるりと振り返って笑みを浮かべたコラソンに、ローも同じように笑い返した。















END

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