コラソン&ドフラミンゴ×ロー
□強引なD
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随分と涼しくなったものだ。
季節の移り変わりは早い。
暑い暑いと言っていた夏は終わりをみせ、秋に差しかかる。
昼間はまだ暑さを感じさせるが、朝晩は冷え込み、先週辺りからコラソンが本格的な衣替えをしていた。
ついでだから模様替えもしたいと言い出したコラソンに頼まれて、ローとドフラミンゴは朝から都心部にある巨大なショッピングモールに来ている。
秋冬用のカーテンや、それに合わせたソファーカバーやテーブルクロス、ウォールペーパーなどが次々に買い込まれ、ドフラミンゴ専用の車のトランクが一杯になった。
後部座席も少しばかり占領されたが、それだけで済んだのはドフラミンゴが厳選したからだろう。
コラソンに選ばせたのであれば、きっとこうはいかない。
いつか必要になるからと、そういって買われた雑貨の類いは数多く、使われないままで倉庫に眠っているものもある。
それに何故かコラソンは可愛らしいものが好きらしく、よくハート柄を集める癖がある。
一時期揃いのハート柄パジャマを着せられた時は、頻繁に悪夢に魘されていたものだと、最後の荷物を後部座席に押し込んだローは助手席に座って窓を開けた。
夏の空とは違い、太陽が遠い。
来月になれば一気に寒さが襲い、行き交う人たちの服装も冬仕様に統一されているのだろう。
左側の扉が開かれ、ドフラミンゴが運転席に座る。
持ってろと渡された花束を受け取ったローが、漂う薫りに目を細めた。
「またどうして花なんか…」
「アイツのことだ。部屋のあちこちに飾るんだろ」
ローの一抱えもある花束は、花屋に売られていた全ての色が揃っているんじゃないかと思えるほど、様々な色の花が混ざっていた。
花のことはよく知らないが、自分たち3人が住む家に花が欠かされたことはない。
庭にもコラソンの趣味で季節に合わせた花が咲いている。
幼い頃からこの2人と暮らしているローは、昔はよくコラソンに倣って花を育てていたが、少しでも手入れを怠ると虫が大量に花に巣食う為、その手のものが苦手だから、いつしかそれから離れていった。
どうせ育てられるのなら、ちゃんと手入れも愛情も注いでくれる人間の方が花も嬉しいだろう。
それに、花よりも庭に造られていた果樹園の方がローは好きだった。
あれは食べることが出来て美味しいし、あらかた育てば後は勝手に大きくなると、意外にもドフラミンゴがまめに手入れしていることを知らないローはそう思っていた。
「ほら、もう着いたぞ」
いつまで乗っている気だとドフラミンゴに言われて、ローは慌てて車から降りる。
広いガレージの中にはもう一台車が停まっていて、輝きをみせていた。
赤いスポーツカーはコラソンが所有するもので、たまにローも乗せられてドライブに付き合っている。
その隣にはローのハーレーが停めてあるが、過保護なコラソンが心配するので、それほど使われていない。
たまに遊びに来る赤毛の悪友が弄らせろと騒ぐのを止める程度のものだ。
横目にそれを見ながら花束と荷物を持って玄関まで歩くと、出迎えたコラソンが荷物を受け取ってくれる。
「お帰り、ロー。お疲れ様。昼飯出来てるぞ」
残りはドフラミンゴに任せて先に手を洗えと言われたので、ローは漂ってきた美味しそうな匂いに空腹を覚えながら洗面所で手を洗った。
ダイニングに向かうと、早速分けられた花がテーブルやキャビネットに飾られているのを見て、ローが笑う。
透明なガラスの花瓶に薄オレンジ色と白色の花が数本。
花瓶を囲うようにサーモンのマリネ、鶏肉とトマトとチーズとレタスのサラダ、白身魚と貝のアクアパッツア、明太子グラタンとビシソワーズが並べられている。
「コラさん…。今日は何かあんの?」
昼食にしては力が入っているように思う。
不思議そうにローが聞けば、一瞬だけ面食らったような表情をしたコラソンが笑いだし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。
「なっ、やめろよコラさん」
「ははははっ、取り敢えず食べるぞ」
一頻りローの頭をぐしゃぐしゃと撫でたコラソンが満足したのか、椅子に腰かける。
それを見て肩を竦めたローも椅子に座ると、荷物を運び終えたらしいドフラミンゴも席に着いた。
「ドフィ、ちゃんと手は洗ったのか?」
「お前はおれの母親か、コラソン。ちゃんと洗った」
相変わらずの日常。
変わらない2人にローの顔に自然と笑みが浮かぶ。
「あ、そうだ。ジュース忘れてたぜ」
コラソンがそう言ってもぎたての果物からジュースを作り、氷を入れてからローの前に置いた。
ストローで混ぜるとグラスの中で氷が踊って小さくなっていく。
ほどよく冷えたジュースは甘すぎずサッパリしたもので、胃を優しく包んでくれた。
「夜はこれよりもっと色んなの作ってやるからな。楽しみにしてろよ、ロー」
やはり何かあるのだろう。
コラソンの言葉に今日は何かあっただろうかと思考するが、ドフラミンゴの様子はいつもと変わらない。
訳が解らないままのローだったが、美味しい昼食に箸が止まらず、考えるのを止めることにした。
昼食後、ドフラミンゴは急ぎの仕事を片付けてくると出かけ、コラソンは鼻歌を歌いながら食器を洗っている。
ローはドフラミンゴの書斎から本を1冊拝借して、ソファに座って読んでいた。
ドフラミンゴの持つ本はなかなかに面白い。
時の権力者たちがどのように時代を生き抜いてきたか。
帝王学にも惹かれるが、それ故にその権力者たちが持つ孤独や闇が、何故かローは好きだった。
もしかしたら深層では比べているのかもしれない。
この本の持ち主と主人公を。
反対にコラソンが好んで読む本は恋愛ものが多く、たまに読んでみろと言われてローも読むのだが、くすぐったいような感じがしてどちらかといえば苦手な部類に入った。
自分自身はそうであるが、そういえば2人にも女性の影が見えないと、ローは思う。
時間があれば当たり前のように傍にいるのだ。
2人と共に暮らすようになってから、ローは孤独を感じたことは一度もない。
常にどちらかがローの近くにいるし、仕事で忙しそうにしていても、2人は時間を作って傍にいた。
いてくれたと、そう考える方が正しいのだろう。
一緒にいるのが当たり前だと思っていたし、これからもこの生活が続くと思っていた。
けれど、このままでいいとは思わない。
いずれ互いのパートナーを見つけ、そのパートナーと共に暮らす生活を送る。
これこそが当たり前の暮らしだろうに、それを考えるとローは胸が苦しくなっていく。
別に1人で暮らすのが嫌な訳ではない。
離れて暮らすことになっても会えるのだから。
では、何が嫌なのか。
その原因が解らず、ローは眉間に皺を寄せた。
「ローォ…?」
「…っ!?」
座っていたソファの隣に重みと同時に額に触れた冷たい感触に、ローが息を詰める。
「なに難しい顔してんだ?」
男前が台無しだぞと笑うコラソンが人差し指でローの眉間をぐりぐりとつつき、顔を覗き込んだ。
近すぎる距離に、ローの目が開かれる。
ドクンとローの心臓が跳ねた。
「べ…、別に…」
吐き出す声は掠れている。
「まーた難しい本ばっか読んで。そんなのばっか読んでっからここに皺が入るんだぞー」
退けられた指の後に感じたのは、柔らかいコラソンの唇の感触。
ローの身体がビクリと跳ねた。
「…どうした? 顔赤いぞ、ロー」
心臓が煩いくらいに音を立て、忙しく動きだす。
上がりそうな呼吸を整えようと、ローは深く息を吐き出した。
「もしかして、熱あんのか?」
「ひっ…」
互いの前髪を上げてコラソンが額を合わせれば、ローが短い悲鳴を上げる。
「おい…、ロー…っ?」
「だ、大丈夫だ…から…」
だから早く離れてくれとローが震える声で呟けば、怪訝な視線を送りながらコラソンが改めてソファに深く腰を降ろした。
安心したようにため息を吐いたローに、クスクスと笑いながら頭を撫でるコラソン。
肩を抱き寄せられたローは、コラソンの胸に頭を預けて頭を悩ませる。
コラソンのスキンシップは昔から今も変わらない。
変わらないのに、何故かローはドキドキしてしまう。
変わったとすれば、自身の心。
何がどう変わったのか問われれば、それはまだ答えることが出来ないが。
でも変わったのだと、ローは思う。
落ち着きを取り戻したローは、コラソンに肩を抱かれながら窓を見つめた。
日の暮れは次第に早くなり、外の世界は夜に変わろうとしている。
今日はやけに時間が経つのが早い。
ガチャリと鍵の開く音がリビングに響き、ドフラミンゴの帰宅を伝えた。
揃って出迎えに行くと、ドフラミンゴがローに白色の箱を手渡してきた。
「…ケーキ?」
ゴールドのリボンで結ばれた箱から漂う微かな甘い薫り。
ローが見上げた先に見えたのは、楽しそうに笑うドフラミンゴとコラソンの顔だった。
「ハッピーバースデー、ロー」
重なったそれぞれのグラスが音を立てた。