コラソン&ドフラミンゴ×ロー
□愛するもの
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今日も同じ日の繰り返しで、コラソンはドンキホーテファミリーの情報を横流ししながら海軍で働いていたし、ドフラミンゴはドレスローザを乗っ取る事なく新しい事業に力を入れながら適度に海賊をやっていたし、トラファルガー・ローは嫌いな海兵になれとコラソンに勧誘されたりダサいハートの椅子に座って幹部をやれとドフラミンゴに言い寄られて迷惑がっていたりと、何だかんだで世界は平和だった。
兄弟喧嘩に巻き込まれる事など日常茶飯事であり、その原因となっているローは2人に腕を取られながら不機嫌に顔を歪めている。
「いてェよ…」
呟いた声が届かないのもいつもの事。
コラソンはローを連れて海軍で一緒に働いて手元に置きたかったし、ドフラミンゴもまたローを自身の右腕として手元に置きたかった。
2人の手に力が入る。
「痛ェって!」
肩や腕の関節がギチギチと鳴って大変痛い。
これでも手加減はしているというのだから、手加減されなかったら腕をもがれているだろう。
少しでも楽になるように、ローは引っ張られる力とは反対の方向である自身の身体に向かって腕の力を加える。
コラソンがファミリーに帰ってくる度にこんな目に遭うのだから、ローは内心複雑であった。
ローはドフラミンゴはもちろんだが、コラソンの事も気に入っていて好きなのである。
もっとも、それは絶対に口にはしない想いなのだが。
だから海軍に入ってドフラミンゴの敵になるのも嫌だったし、ファミリーの幹部になってコラソンの敵になるのもローは嫌だった。
どっち付かずの状態で悪いとは思うが、何もかもを恨んでいた幼い頃とは違って、今は医療に従事して中立の立場を守りたい。
どちらかが傷ついたり倒れたりしても、必ず自分の手で治療して治してやるのだと、ローはそう決めていたのだ。
だからこんな下らない事で争わないで欲しいのに、その思いも虚しく、今日もローは2人に引っ張られている。
「ねェ…、若様もコラさんも聞いてる? ローがかなり痛がってるわよ」
決着のつかない兄弟喧嘩に、ベビー5からいい加減にローを離してやれと仲裁の声が入る。
「フッフッフ。こればかりはな…」
「負けられない戦いなんだ」
不敵な笑みを浮かべながら火花を散らすコラソンとドフラミンゴ。
誰でもいいから冷水、いや、海水でいいからぶっかけて止めてくれないだろうか。
なかばヤケクソになるロー。
「だったらさ、昔に読んだ本に書いてあったんだけど…。2人で力加減なしの本気で引っ張り合いして、勝った方がローを自分のものにすればいいじゃない」
「ベビー5、てめェ…っ!」
大岡越前かよっ!
今より更に状況を悪化させてどうしてくれる。
ローはベビー5をギロリと睨む。
ベビー5は一瞬だけ竦んだが、ローを安心させるようにニッコリ微笑んだ後、具現化させたゴングを鳴らしたのだった。
「っぁ! いっ…た…」
試合開始のゴングが鳴れば自然に力が入るものだ。
2人も例には漏れず、ローを引っ張る力を徐々に強めていく。
本気で身体が引き裂かれたら、その時は恨んでやる。
ローも負けじと反発の力を強めるが、痛みは増すばかりで泣きたくなってきた。
「まあ、本来なら痛がるローを可哀想に思った方が負けてあげる事で、勝敗は負けてあげた方に軍配が上がるんだけど」
「フッ…」
「なんだと!?」
「グハッ…!」
ベビー5が言うや否や2人の手が同時に離され、反発していた力の向きに従って、ローの肘は自身の腹に入った。
あまりのも痛みにローはその場に蹲る。
呼吸も上手く出来ず、痛いし苦しいし、最悪だった。
「ほら、2人が思いっ切り引っ張り続けたから、ローが苦しんでるじゃない」
「いや、これはお前の所為だろう」
「こればかりは、おれもそう思う」
ベビー5の言葉に、ドフラミンゴとコラソンの意見が合った。
ぷるぷる震えて俯いているローに、2人は屈んで様子を窺う。
「………で…」
「ん?」
「人の気持ちも知らねェで…」
ローから漂う気配も声色も黒く低い。
不穏な雰囲気にローに触れようとしていた2人の手が止まる。
「出ていってやるっ!」
そう言うとローは立ち上がった。
「ちょっ! 待て、ローっ!」
「まずは落ち着け。話し合おうじゃねェか」
今にも飛び出してしまいそうなローの腕を咄嗟に掴まえて、コラソンとドフラミンゴは細身の身体を2人の腕の中に閉じ込めてやった。
抵抗を見せて暴れていたローだが、1メートル以上も身長差もあり、体格も差がある2人の結束は強く、抜け出す事は敵わない。
協力し合う事が出来るのであれば、はじめから協力しながら暮らしていればいいのに。
ローはぶつぶつと文句を口に出して大きなため息を吐いた。
「おれの気持ちも知らねェで、いつもいつも勝手な事ばっか…。喧嘩の元になるなら出ていく」
それに、やりたい事がある。
ローの言葉にドフラミンゴはため息を吐き、コラソンは肩を竦めた。
「だったら反対に言ってやるが、お前はおれの気持ちを考えた事はあるのか?」
ドフラミンゴの声は落ち着いているが、その分余計にローの鼓動を跳ね上げる。
「お前にはおれの傍に居て欲しい。言葉でも態度でも伝えているのに、答えを出さないのはローの方だろ?」
コラソンは笑っているが、その笑顔は悲しいものだった。
どちらか1人など選べない。
答えなど出せない。
だからローは唇をきつく結ぶ。
それでも痛いくらいの視線を向けられて、ローは2人に目を合わせられないまま言葉を紡ぎ出していく。
「おれは、ドフラミンゴもコラさんも、2人が大切で大好きだ。順番なんか決められねェし、決めるつもりもねェ。だから、どちらかを選ぶ事は出来ねェ」
これがいい事だとは思っていないけれど、本心なのだから仕方がない。
相手が大切で大好きな人だからこそ、ローは嘘はつきたくなかった。
真剣で切実なローから告げられた答えに、予想通りの答えだと2人は笑い出す。
けれど、続いて告げられたローの言葉に2人は固まった。
「前々から考えていた。おれ、1人立ちして海に出る。海上の医者をやってドフラミンゴやコラさんの力になる」
いつでも出られるようにもう準備は出来てあると、港にある黄色い潜水艦の事も伝えるロー。
「ドクターイエローみてェだな」
それは言い得て妙だ。
コラソンの言葉とイエローサブマリンを思い浮かべてローが笑う。
「ロー、お前を手放す気は更々ねェが…」
それでも、その方面で名を上げたローを完全に手に入れるのは面白いし、何よりもその事で更に自分の名も知れ渡る結果になるとドフラミンゴは笑い出した。
「ロー、おれたちで世界の平和を守ろう」
お前の平和もおれが守ると決意を顕にしたコラソンが拳を握る。
「絶対にお前をモノにするからな」
コラソンとドフラミンゴの声が見事に重なる。
結局、2人の根本的なところは何ひとつとして変わりはしない。
それでも、どんな立場であっても求め合えるといった未来に、ローは2人を見上げて嬉しそうに笑ったのだった。
END
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