サンジ×ロー
□ビタースイートな関係
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「そんなに熱い目で見つめられたら、穴があきそうだ」
カシャカシャと鳴る軽快な音と共に告げられた言葉。
夜のキッチンは2人以外に他の姿は見えない。
どうにも寝つけず、水を貰おうとして足を運んだキッチンには、この船のコックであるサンジが腕までシャツを捲って生クリームを泡立てていた。
既に焼き上がっているケーキのスポンジと共に漂う甘さは、どこか懐かしい香りでローを迎え入れる。
まだ幼かった頃は、よく母親と妹が仲良くお菓子を作っていたものだ。
店に並んでいるものに比べれば不格好なケーキやクッキーでも、味だけは他の何よりも引けを取らない美味しさだったと思える。
それはもう2度と口にすることは叶わないのだけれど。
手渡された水を飲み終えたにも拘わらず、ローはサンジの手元から目が離せないでいた。
「お前、意外に甘いもの好きだよな」
ココアパウダーを混ぜた生クリームに刻んだチョコレートを更に混ぜたサンジは、冷ましたスポンジケーキにそれをたっぷりと塗りつけていく。
クルクルと丸めてロールケーキにすると、周囲にフルーツを飾ってチョコレートソースをかける。
「悪いか…?」
シュガーパウダーを振りかけて完成したロールケーキを見つめたままローが答えると、サンジはそれを持ち上げて苦笑をした。
「悪かねェよ。だが、残念。これは明日、レディーたちへ贈るバレンタインだ。野郎には食わせねェよ」
「くっ、食いたいって言ってねェ!」
ここの船長とは違い、何でもすぐに食べたがる性格ではないとローが言うが、サンジは聞く耳を持たずに言葉を紡ぐ。
「ルフィが起きてる時に作っていたら、すぐに見つかって食わせろと言うからアイツが寝てから作ったが…。まさか、ローに狙われるとはな」
楽しそうに笑うサンジは余ったスポンジケーキの切れ端に先ほどの生クリームの残りとフルーツを乗せ、おまけにアイスクリームを乗せてチョコレートソースをかけていく。
「おれは別に…っむぅ!?」
「まあまあ、そう怒りなさんな」
「何しやがる…」
ニヤリと笑ったサンジの指に掬われた生クリームが口に入り、甘さを感じながらも舐めることも飲み込むことも出来ず、ローの口内に唾液が溢れてくる。
顔を離そうとするローだが、反対のサンジの手がローの頭を抱いて逃げ道を奪った。
「今、日付が変わった。ハッピーバレンタイン?」
「………」
舐めろとでもいうようにサンジの指が舌を撫で、仕方がなしに舐めて飲み込むと、ローの口内に懐かしくも感じる甘い味が広がっていく。
甘さを感じなくなるまで舐めて吸い上げてみれば、クスクスと笑ったサンジがローから指を抜いた。
「甘いもん食ってる時、すっげー幸せそうな顔すんのな、ロー」
「…っ…別に…」
「無愛想なやつだと思っていたが、表情豊かだもんな」
目の前にアイスクリームの乗ったケーキを置いて座れと促してやると、拗ねた様子のローが椅子に腰を降ろす。
サンジも同じように座り、ローと目線を合わせた。
「食えよ。そっちが本命だ」
フォークとナイフを渡してやれば、ローが困った顔をしながらそれを受け取る。
ころころと変わる表情は見ていて飽きない。
「ほら、アイスが溶けちまうだろ」
「あ…、ああ…」
慌てて切り分けて食べるローの顔はやはり幸せそうで、サンジは微笑を消さずにふたつのマグカップに熱いココアを入れた。
「野郎などゴメンだが、お前なら別にいいさ」
それくらいには好きだと思える厄介な感情。
作ったココアと同じように甘くなるのはまだ先の話であるかもしれないが。
「黒足屋…、それはどういう意味だ…?」
口の横にチョコレートをつけて首を傾げるローに、それを舐め取ったサンジが挑発の意味も含めて笑ってやる。
「自分で考えてみな」
いつか絶対に甘く調理してやろう。
そう思いながら。
END