サンジ×ロー

□優しく切り裂く刃
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 長い長い道だった。

 何処まで続いているのか解らない。

 暗い暗い世界だった。

 光なんて何処にも見当たらない。

 凍える身体を包み込んでくれる人はもう誰もおらず、ただ1人で暗闇の中を彷徨っていた。

 逃げ出したかった。

 終わりにしたかった。

 あの人がいない世界は色を失い、全ての音がノイズに変わる。

 このまま消えてしまおうか。

 この暗闇の中に。

 呼吸の仕方すら忘れるほど息苦しい毎日。

 安らぎなど、あれから感じたことがない。

 眠れば決まって悪夢が訪れる。

 起きている時ですら悪夢なのだから、何処に逃げればいいのか解らない。

 光を見たいと願った。

 夜明けが訪れるのを待っていた。

 暗く寒い世界の終わりを祈っていた。

 楽に呼吸をしたかった。



「コラさん…」



 何処に行けば逢えるのだろう。

 あの人は何処にいるのだろう。

 黒いコートだと闇に紛れて見つけることが出来ない。



「コラさん」



 走っても走っても終着点が見えない世界。

 ただただ、暗くて寒い。



「…ロー」



「コラさんっ!」



 うっすらと棚引いた煙の先に見えた黒い影。

 輪郭を現しはじめた人影に手を伸ばせば、その手が確かに握られた。



「目を覚ませ、ローっ!」



「………コラさん…?」



 光が見えた気がした。

 暗闇に伸ばされた手を掴んで目を開けると、うっすらと夜明けの光を背負った彼がいた。

 香る煙草の匂いが鼻を擽る。



「魘されていたぞ…。大丈夫か?」



「あ…、ああ…。悪い…」



 風に靡いた金髪が、黒を纏う身体が、口に銜えられた煙草が涙を誘う。

 抱きしめてくる温もりに、身体が震えた。



「何があったかは知らねェが…、泣きたい時は素直に泣けばいいんじゃねェか」



「泣くか、バカ」



「でも、魘されている原因はそのコラさんって人なんだろ?」



 誰にも教えたことがない過去。

 久し振りに聞いた名前に涙が浮かぶ。

 外気に曝されて冷えた身体に優しい抱擁を与えられたら、その温もりに縋ってしまいたくなる。



「見るな…」



 掠れた声で伝えてしまえば、泣いているのだと知られてしまう。

 俯いた頭に与えられたのは優しい愛撫。



「クスッ…。ローが見ていいって言うまで見ねェよ…」



 ノイズ混じりだったはずの音は、柔らかな声をクリアに伝えてくる。



「誰にだって泣きたくなるほど辛い過去のひとつやふたつあるもんだ。それでも…」



 それでも、その過去に縛られて前を見ないのは、その恩人が本当に望んでいることではない。

 命を懸けてまで守って貰えたのなら、命を懸けて幸せになれ。



「お前は1人じゃねェだろ? ロー」



 あやすように撫でられた頭を上げて追った視線の先には、うっすらと白んだ水平線が見える。



「朝が来ない日はねェ」



 どれだけ長い夜が続いても、夜は明けるもんだ。

 涙の跡を拭った指が唇を撫でる。



「黒足…っ…」




















 触れた唇は焼けるように熱く、そいつの背後に眩しいくらいの夜明けを見た。





END

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