スモーカー×ロー

□月は雪を彩る
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 部屋が半透明の青に包まれたら、扉の横に置かれた観葉植物が黒装束の男に代わった。

 男は鍵をかけてこの部屋の主に近づいていく。



「白猟屋、お返しに来た」



「てめェは何で普通に入ってこれないんだ、ロー? それに、またドアノブ取りやがって」



 久々の休暇は今日が誕生日であるから休めと言われて強制的に与えられたものだ。

 例の事件があった翌日からスモーカーは昨日まで休むことなく働き続けていたのだから、当然の休暇ともいえる。

 体力には自信があるし働き盛りの歳であるスモーカーは休暇など必要なかったが、休みもなく働きずくめの職場だと世間に広まってしまったら、それでなくとも最近は入隊希望者が少なくなってきているのが悩みである海軍。

 ついでだから溜まりまくっている有給休暇も消費してくれと、シフト担当の人間に泣きつかれてしまったので、仕方なく10日間の休暇を取ることにしたのだ。

 所詮はお役所仕事。

 時間と金の管理には煩いのである。

 以前と同じように器用にドアノブを人差し指の上で回転させて笑っているローを見て、スモーカーは大きくため息を吐き出した。



「気にするな。どうせくっつけば元に戻る」



「そうじゃねェ」



「………?」



 伝えたところで頓珍漢な答えが帰ってくるのだから、もう何も言うまいとスモーカーは思い、ローを手招きした。

 1人暮らしのスモーカーの部屋は殺風景なもので、1人掛けのソファと小さなテーブル、仕事用の机にベッドくらいしか家具がない。

 それだけでは流石に寂しいだろうということで、お節介な部下が持ってきた観葉植物が扉の横に置かれていたくらいのものだ。

 ソファに座るスモーカーの前に足を進めたローが、コートのポケットの中から綺麗にラッピングされてリボンが結ばれてある包みを取り出して手渡す。



「わざわざラッピングしたのか?」



「違…っ! それは…、店員が勝手に…」



「客に聞く前に勝手にラッピングする店員がいるとは思えねェが、嫌なら破いてから持ってくればよかっただろう?」



 リボンに隠されるように貼られてある[happy birthday]の文字を見ながらスモーカーが笑う。

 相変わらずこの男は回りくどい。

 顔を赤らめているローを見上げてスモーカーは更に口を開いた。



「で、これは何だ?」



「…バレンタインに貰ったやつのお返しに決まってるだろ」



 その上、この男は素直じゃない。

 この時期にプレゼントを包装してメッセージシールを貼るとすれば、大半は誕生日を祝うものではなくホワイトデーを意味するものなのに。



「そうか。今日はホワイトデーか…」



「そうだ。ホワイトデーだ」



 そういった態度でくるのならちゃんとお返しをしてもらおうと、スモーカーはローの手首を掴んで思い切り引き寄せた。



「うあっ!? な、なんだっ!?」



 倒れ込んだローの身体は、鍛えられているとはいえスモーカーに比べると細い。

 逃げようと藻掻くローの腰を抱きしめて密着を深めてやれば、触れ合った肌から恐ろしく早い鼓動が伝わってくる。

 ローの名前を呼んでやるとビクリと震え、伝わる熱が更に上がったように感じられた。



「バレンタインのお返しといえば3倍返しが相場だ」



「なにを…」



「ちゃんと返して貰おうか」



「白りょ…っん、ん!?」



 素直じゃないローが悪い。

 見上げた瞬間をスモーカーは見逃さず、ローの腰に回した腕はそのままに反対の手で顎を捕らえて唇を奪う。

 想像していたよりも柔らかなローの唇は触れているだけでも心地好さを感じるが、それだけで満足出来るようなスモーカーではない。

 頭を振るローの後頭部を支えて歯列を割って舌を入れ、スモーカーは熱い口内を堪能する。



「ん、ふ…ぅっ、ぅんんっ」



 くぐもったローの声と舌の絡む濡れた音がスモーカーに熱を入れる。

 スモーカーは力の抜けはじめているローの頭だけを抱く形に変えて、開けられているコートから常に見えている腹から胸にかけて手を滑らせた。



「んな…っ?」



「逃げるな、ロー。足りねェ分はお前で返して貰う」



 暴れて逃げようとしたローの頭を更に引き寄せ、ビクビクと震える肌を撫でていくスモーカー。

 それなりに鍛えられたローの肌は滑らかな感触で、撫でる度にスモーカーの手に心地好さを感じさせる。

 いつまで触っていても飽きることはなく、上半身の隅々にまで手を這わせてスモーカーは邪魔なコートを脱がせた。



「…っ、い、いやだっ! スモーカー…っ」



 これから何をされるかだなんて、ローが気づいてないはずはない。

 スモーカーはローの頭を抱いたまま距離を取ろうと突っぱねている手首を掴まえ、困惑を浮かべる目を見つめる。



「本当に嫌なら止めてやる。止めて欲しけりゃ本気で抵抗してみろ、ロー」



 お前の能力があれば、逃げ出すことも簡単だろう?

 最後の言葉は口に出さず、スモーカーは太股を跨ぐ形でソファに膝をついて自身を見下ろすローを抱きしめた。

 腕の中に収まるローの身体はやはり細く、実際にそんなことはないのだが、スモーカーは力を込めれば折れるのではないかと思ってしまう。

 そのことを伝えてやればローはどんな反応をするだろうか。

 おとなしくなったローに先の行為を了承したと見做して、スモーカーは彼の下肢を覆うものを全て脱がせた。










「ぅうっ、いってェ…よ、バカ…やろっ…」



 やるならベッドへ連れていけと聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で文句を言ったローに従って、スモーカーは2人で寝るには小さなベッドに身体を横たえる。

 時間をかけて愛撫をしていた身体は熱をもって震えていたが、肝心の場所を慣らしはじめるとローは痛がってしまう。



「ロー、力を抜け」



「クソッ…もう抜いて…るっ、ぅああっ」



 ローはスモーカーと目を合わせようとしない。

 ずっと横を向いたままで、時折痛みに堪えるようにぎゅっと目を瞑ったりする。



「こっちを見ろ」



「…や…っだ、ぁああ…」



 スモーカーの要望にローは頭を振って拒絶を表し、両腕で顔を覆った。

 近い距離からため息が聞こえたかと思うと、ローは自身が生温く濡れた何かに包まれたのを感じる。



「ひっ、ん、あ…あぁ…」



 舌と指でローの自身に刺激を与えながら、力が抜けたタイミングを見計らってスモーカーは蕾に埋め込んだ指を増やしていく。

 大袈裟なまでにローの腰が跳ね、ベッドのスプリングが何度も音を立てた。

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が部屋に響くと、その音を聞いたローが嫌がって首を振る。



「ロー…」



 柔らかく解れたローの胎内から指を抜いたスモーカーが、顔を隠す腕を掴まえて退かせた。



「…すも…か…っあああぁああ!」



 涙で濡れたローと目が合った瞬間、スモーカーは怒張した自身を一気に打ちつけた。



「んあ…っ、はっ、あ、あぁっ」



 ガタガタと震えたローが見開いた目から涙を零す。

 それを舐め取った後で、スモーカーはローにキスを落として律動をはじめた。

 想像していた以上にローの中は蕩けるように熱く、長く持ちそうにない。

 あの日からいつか抱いてみたいと思っていたローが今、腕の中で乱れているのだという現実に、それだけでスモーカーは爆ぜてしまいそうだった。

 けれどもまだ、肝心のことを聞いていない。



「ロー…、お前、おれに言うことあるだろ」



「あっ、ぁっぁっ、やっ、なに…っ…」



 敏感な場所を何度もスモーカーに突かれているローはそれどころではないが、終わらない快感に訳が解らずにぽろぽろと涙を零す。

 スモーカーはその度にローの涙を舐め、宥めるようにキスをする。



「今日は何の為に、おれに会いにきた」



「ぁあっ、この前のっ、お返し…に…っ」



「本当にそれだけか? 素直になるまで止めねェぞ」



 スモーカーはそう言って動きを変え、蜜を溢れさせるローの自身を掴まえて先端を指でぐりぐりと撫でてやった。



「ひぁっ、さわ…っ、触んなぁ…やぁ…っ…、んやあぁ…ぁっ」



「答えろ、ロー」



「ひぐっ!? やっ、た、たんじょ…び…だからっ、やだ…離せぇ…っ…」



 更にきつく自身を指で抉って胎内を深く突いてやると、ローが本格的に泣きを見せる。

 それでもまだスモーカーは責めの姿勢を崩さないまま、微かに笑みを浮かべたまま口を開く。



「どうしておれの誕生日を祝おうと思った? 1ヶ月前から計画を立ててまでして」



 スモーカーの口調は優しいが、動きに容赦はない。

 まるで拷問に近い尋問だ。



「んああぁっ、もっ、やだあっ」



「ロー…」



「ひっ、ぅっく、好き…だから、だっ! ああっ」



 泣きじゃくりながら答えたローに、漸く聞きたかったことが聞けたスモーカーが腰の動きを早める。



「ちゃんと言えたじゃねェか…」



「ぁっぁああ、もっ、スモーカー…っ」



 はじめからストレートに伝えてくれたのなら、こんな回りくどいやり方をせずに済んだのに。

 もっともストレートに伝えられていたとしても、スモーカーはローを抱いただろう。

 意識してしまったのが運の尽きというか、何というか。



「あっ、も、だめ…だって…、ぅぁあ…」



 ぐずぐずになったローに柔らかなキスをして、スモーカーは言葉を紡ぐ。



「奇遇だな、ロー。どうやらおれも、お前が好きみてェだぞ」



「あ…、ふあぁあああぁっ」



 その言葉と同時に、ローがスモーカーの腕の中で絶頂を迎えた。

 後に解ったことだが、目を合わせなかったのはただ単に恥ずかしかっただけらしい。

 あの後も何度も激しくローを求めた結果、動けないでいる彼の面倒を休暇を全て使ってみることになったスモーカー。

 誕生日に手に入れた厄介な男は結局何も変わらずに、その後も回りくどい変化球でスモーカーに想いを伝え続けたそうだ。















END
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