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□雨とやさしさ
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その日は雨が降っていた。
昨日から天気予報でも言われていて、朝から夕方にかけて長時間の弱い雨が降ると予想されていた。その予想は的中し、今でもなお雨が降り続けている。

腕時計を見ると、もうすでに午後5時を指していた。

(イベントは中止にならなかったからいいけど、鞄が濡れそうだな…早く帰ろう。)

チョロ松は、とあるアイドルのイベント会場で一日を過ごしていたところだった。グッズなどたくさん買い物をしたので、傘を持っていない方の手には、二つほど紙袋が握られ、背中にはリュックが背負われていた。

小走りで雨の中を駆けて行く。家路につく社会人や学生もちらほら見えた。

橋が架かっている川沿いの場所に差し掛かった時、見覚えのある姿を見つけた。

「あ、おーい一松!そんなところで何して……ってちょっと!?」

そこにいたのは一松だった。が、少し様子がおかしかった。結構な雨が降っているというのにもかかわらず、傘を指さずに立ち尽くしていた。紫のパーカーは水を含んでいつもより色が濃くなっていて、ジャージのズボンは足に張り付いていた。

「一松!風邪引くぞお前、出掛けるとき傘渡したよね?」

「……あ、チョロ松兄さん。」

さっきから話し掛けていたというのに、まるで今気づいたかのような反応を見せる一松。その様子にチョロ松はさすがにおかしいと感じていた。

「一松?何があったの…?」

「…。」

「ねぇ、大丈夫?一緒に帰……?」

チョロ松が一松の手を引いて帰ろうとしたとき、一松の手になにかがついていることに気がついた。

そこには、水を含んでぐしゃぐしゃになった泥と、動物の血らしきものがべったりとついていた。

「ど、どうしたんだよコレ…!」

「……うわ、きたね。」

「いや、きたねじゃないよ、もう話は後!早く帰るぞ?いい加減風邪引くって。」

相変わらずぼーっとしたままで、このままでは本当に風邪を引いてしまうと思ったチョロ松は、一松の腕を引いて足早に家へと向かった。


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