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□ハイカラ男子と桜の木
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時代は大正。和と洋が要り混じったこの世の中は、これまでの日本の風景をガラリと変えた。
松野家は、そんなせわしない時代の波に流されながら平和に暮らしていた。
大正12年に関東大震災が起きて一度家が崩壊したが、家族全員奇跡的に助かり、地道な復興作業をしながら数年が経った。
「兄貴、喫茶店寄っていかないか?」
「おっ、いいね!奢りぃ?」
「フッ、まぁたまにはいいだろう。」
「あまり遅くなるといけないから、早めにね。」
松野家の六つ子の上の三人は学校帰り、駅の近くの喫茶店に入っていった。
カララン、と優しい音色で三人を迎えた店の中は、結構流行っているようで、席のほとんどが埋まっていた。
唯一空いている奥の席へと誘導され、席についた。順番に飲み物注文し、三人は雑談を楽しむ。
「あのウェイトレスさん綺麗だなー。着物もいい物だし、なにより白のエプロンがよく似合う!」
「やめなよ、色目を使うのは。」
「フッ…この店は照明もいいな。そしてなんといってもあの「お待たせいたしました。」
「あっ、それ僕です。」
「ズズッ…んー、旨い!」
注文の品が届く。この店が流行っている理由が味でわかった。どうやら豆にこだわっているようだった。
そういえば、とおそ松が問いただす。
「あいつらは?もう家に帰ったのか?」
「え、知らないけど、見なかったの?」
「カラ松は?」
「俺も見ていないぞ?」
「まぁ俺らと一緒で何処かで道草食ってるのかもな。」
そうやって他の兄弟について話していると、突然、店のドアが乱暴に開かれる音がした。
「松野ー!出てこい!!」
バンカラな服を着た男が数人、店に押し入る。店はざわつき始め、店員が止めに行った。
「お、お客様!店内ではお静かに…」
「うるせぇ!松野探してんだよ退け!!」
「きゃあっ!」
足を蹴られその場に崩れるウェイトレス。
店内が凍り付いたその時、女の悲鳴に三人の男が動いた。
「ちょっと、弱いものいじめはやめなよ。」
「女に手を出すとは…男として感心しないな。」
「大丈夫ですか…?さ、手を。」
「あ、ありがとうございます…。」
「あ?何だお前ら」
男はとてもイラついている様だと店内の誰もがわかっていたが、三人は何のためらいもなく男の前に立ちはだかった。後ろにいた少し小柄な連れの男が三人を指差して叫んだ。
「あ、兄貴!子奴です!この顔ですよ、さっきの!」
「あ、お前かふざけたとこしてくれたのは!」
「は?」
「…おそ松、何かしたか?」
「いや、知らねぇ…チョロさんご存じ?」
「知らないよ、多分あいつらでしょ。」
「「あー」」
ぽん、と手を叩く二人。どうやら察しがついたようだった。
「何話してんだコラ!」
ぶんっとおそ松に向かって拳が降りかかる。キャー!という女性の声が店内に響いた。
瞬間、おそ松はその拳をひらりとかわし、相手の腕を掴んだ。
「!?」
「すみむぁすぇーん、弟がご迷惑かけちゃって。」
「はぁ、全く…。」
「困ったマイリトルブラザーズだぜ…。」