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□SWEET SCENT
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平日の夜八時、僕らはいつものように上着を羽織って行きつけの銭湯へと訪れていた。
男湯の方の脱衣所で服を脱いでいると、おそ松兄さんが僕が何か持っていることに気がついた。
「トッティ何持ってんの?」
「え?これ?リンスだけど…」
「はぁ?銭湯にリンス持ち込む普通?」
「え、ちょっと見せ…ん!?女性用!?ケツ毛燃えるわっ」
「しかもちょっとお高いヤツっていうね」
「うっさいな!これサラッサラになるしいい匂いするから人気なんだよ?ま、DTにはわかんないか。」
「お前もDTだろうが」
いつものように口うるさい二人の兄を軽くあしらいながら、銭湯に入る準備をする。すると、横から視線を感じた。
「…一松兄さんも使ってみる?」
「えっ……い、いいよ、俺は…。」
「貸してもらったらどうだ一松。寝ているとき、たまに枝毛が目立つぞ?」
「勝手にみてんじゃねぇよクソ松…」
「えっ、どれどれ…うわっ本当だ!すぐ見つかった!うわこっちにも…切ってもキリがないねーこれは…」
カラ松兄さんの指摘に気になって髪をじっくり見てみると、確かに、一松兄さんの髪に枝毛がいくつも見つかった。それも、100本に一本くらいの割合で。
「別に気にしてないし…」
「えー?ここまで来るとリンスしないって訳にはいかないよ。」
「だから、いいって。」
「じゃあ言い方変えるね?僕がほっとけないからリンスしたい。いい?」
「…か、勝手にすれば。」
出た、一松兄さんのツンデレ。これが出ると一松兄さんは人の頼みを断らない。元々真面目な性格だから、ちょっと自分が頼られてると思わせれば、大概のことはしてくれるんだよね。
シャワーを一列に並んで浴びる。今日は一松兄さんにリンスを貸してあげるため、僕は一松兄さんの隣に座る。シャンプーで先に洗おうとしたら、一松兄さんが石鹸で髪を洗おうとしていた。
「えええ、ち、ちょっと待ったぁ!一松兄さんそれアウトだよ、あり得ないよ!」
「んあ?」
僕の驚く声が反響する。一松兄さんが何が悪いんだよというような顔で見てきた。もしかして普段も石鹸なのかな…いつも隣に並ぶおそ松兄さんは何も思わないの…?
「石鹸は絶対ダメ、ちゃんとシャンプーで洗ってよ。」
「…わかった。」
石鹸を置いてシャンプーの容器に手をかけた。プシュッという音と同時にシャンプーの液を取り出すと、それを自分の頭につけて洗った。しかしその動きは泡も立つことがないようなゆっくりとした動きで、見ているこっちを苛々させた。
「ああもう、背中向けて!僕がやったげる。」
「えぇ…」
渋々僕に背中を向けた一松兄さんの頭をわしゃわしゃとマッサージするように洗う。すると、一松兄さんが気持ち良さそうに目を細めた。こういうところに猫を感じさせるなぁ。
「ふふっ、一松兄さん気持ちい?」
「んー。」
「トド松のは僕がやったげる!痒いところはございませんかー!」
「いたいいたい十四松兄さんやめてぇ!」
「ちょっと、迷惑かけてるから静かにね…」