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□譲れないのは
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「班長。これ、今週の納期です。」

そうやって、俺が担当する班で一番納期を管理するのが得意な部下がipadを見せてきた。そこには、うんざりするほどの注文の品々がびっしりと書かれていた。自分でもある程度は予測していたが、この頃しっかりと睡眠が出来ておらず、三徹の疲れからか、それを見ただけで頭がくらっとした。心配した部下がこちらを気の毒そうに見てくる。
心配をするなら少しは気を使え…と心の中で文句を言う。そもそも、この部下の名前すら忘れる自分が気を使われるなんて、図々しいにも程があるが。

何秒かの間頭の中でぼーっと考えていると、突然アナウンスが工場内に響いた。

『只今より、緊急会議を行います。各ラインの班長は至急、会議室へ来てくださいーーーー』

うげ、自分のことだ。
俺、一松はこの工場で終身名誉班長の称号を貰って働いている。称号といっても、終身名誉な訳だから死ぬまで班長。つまり、それ以上にも以下にもなれないということだ。
係長や課長なんかは、ちゃんとした大学を出て、ある程度の実質が無ければなることは出来ない。工場長なんかは経営者と一緒だ。班長という仕事は、大体が高卒の者で、交代勤務の班を取り締まることが主だ。高卒で、しかもまだ二十代後半にも満たない俺が班長になれたのは、この会社の環境も関係していると思う。

何故なら、給料に比例しない労働時間を強いられる、所謂、ブラック工場だからだ。

勤め先がブラックであれば、長く続かない社員は大勢いるであろう。実際、この工場でも多くの社員が、長くても一年、短くて二週間で退職したり逃げ出したりしている。そんな中俺は、平均よりもはるかに長くこの工場で働いている。俺にはこのブラックな工場が自分にとって天職だと思っているし、他にこんな俺を働かせてくれるような会社は無いからだ。

先ほど流れた放送の通りに、会議室へと向かう。不良品の発覚か、はたまた、不正行為が見つかったか。どちらにせよ、良い知らせではないことは確かだろう。

会議室の扉をノックしてから開けると、顔を顰めた工場長と一緒に係長や課長、自分以外の班長の姿が見えた。どうやら俺が最後らしい。
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