book
□天上天下唯我独尊
3ページ/5ページ
【一松side】
おそ松兄さんだけが知ってる。それがどれだけ不安なことか、なんて分かってる。きっと弱味を握られた今、あの人には逆らえないんだろうな。
お金をせがまれるだろうか。物を奪われるだろうか。隠し事は出来ないんだろうな。嘘も見破られそうだ。初めはそんなことばかり思っていた。
でも実際は違った。あの人はいつも通りだった。
逆に優しいなと思う事が増えた気がする。長男だからなのかもしれないけど、秘密を話したあの夜から、相談とか悩みとか、嫌な顔ひとつせずに全部受け止めてくれる。話すと楽になるってこういうことなんだって、実感できるほどだった。
たまにいじってくるけど、それだけで終わる。あの人からは何も聞いてこない。こっちが話すのを待ってる。いつものあの人のイメージらしからぬ姿が、そこにはあった。
そのことに僕は、とても安堵していた…。
今日はおそ松兄さんと僕以外、皆外出中だった。
「あー、ダメだったぁー。ハズれたー!」
おそ松兄さんは床に新聞を広げ、馬券を片手に持ってイーッとなっていた。またか。
「また競馬…?」
「今回は行けると思ったんだけどなぁ…。」
ガシガシを頭か掻きながら寝転んで週刊雑誌を手に取った。これぞニートらしい平日の過ごし方だっ!ってこの前意気込んでたっけ。くっだらね。
「………なぁ一松。」
「…ん、何?」
少し眠くてうとうとしていた。目を閉じて昼寝しようかと思っていた矢先、おそ松兄さんが声を掛けてきた。
目を開くとおそ松兄さんが結構目の前にいて少し驚いた。
「いや、あのさ…まだ思ってんのかなって思ってさ。その、アイツの事。」
「………は?」
突然そんなことを聞かれて、少し焦った。まだ思ってるって、アイツのことって、まさか。
「……カラ松の事?」
「…おう。」
やっぱり、でもなんで。今まで何も聞いてこなかったじゃないか。今更何だよ。
「いやすまん、話してくれなくてもいいんだけとさ…何か気になって。」
謝るなら聞いてこないでよ。こっちにも心の準備とかあるんだから。
「………まだ諦めてないけど?」
「え?諦めてない?」
おそ松兄さんが顔をしかめながら言ってきた。
……本当何なんだよ。
「諦めてないって何を?まだ告白もしてないのに?フラれてもいないのに?」
「っ……な、何なの?」
「一松は自身あんの?アイツに同じ意味の好きが自分にも向けられてるって事。」
「は、」
「最初の頃こそ届くわけないとか言って諦めてたじゃん。なのにさ、俺に話すたびにだんだん緩くなってない?」
「な、にが」
「何がって、決まってんじゃん。気持ちを押さえ込むとか、そういう、我慢する力っつーの?それが弱まってるって言ってんの。」
「そ…んなことない…」
「あるって。絶対あるね。一松は何がしたいわけよ。カラ松とお付き合い?今日カラ松が出掛けた目的知ってんの?逆ナン待ちだよ?意味分かるか?アイツは一松なんか興味ない、ノーマルなんだって。そういう事だよ。」
今目の前にいるおそ松兄さんの言っている事が、素直に頭に入らなかった。こんなに責めてくることなんて一度もなかったのに。あれだけ安心してたのに。何故。今までのは嘘だったのかな。
「…な、一松。お前は俺の事どう思ってんの?」
「…え?」
頭が混乱していると言うのに、また意味のわからないことを聞いてきた。
「それは…わからない…。」
「……俺はさ、一松のこと、好きだよ。」
「っ…!?」
何を言っているんだろうか。何を聞かされているんだろう。おそ松兄さんがわからない。好き?誰が?おそ松兄さんは、今、何て?
「なぁ一松、俺にしとけよ。」
→