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□雨とやさしさ
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「猫がさ、いつも、あの場所にいたんだ。」

「そいつ、この頃さ、子猫産んで。今日は雨だったから、ちょっと俺、心配で。」

「様子見に行ったんだよね。そしたらさ、」


「猫、死んでた…。」


一松は少し震えた声で話した。

猫は血まみれで、人間の手によってズタズタにされた状態だったらしい。だから、あの場所で穴を掘ってお墓を作っていた。傘は何処かへ落としてしまったと言う。

そう言い終えた一松の顔を見ると、昔の事を思い出した。

あぁ、一松のこの優しさは昔から変わらないなぁ、と思ったからだ。

たかが猫一匹など、という人の言葉と裏腹に、一松にとっては重いものだったのだ。

昔、家の屋根にツバメが巣を作ったことがあった。家族みんながそのツバメを可愛がっていた。特にその当時、一番まじめだった一松は、風の強い日は風避けをつけたり、子供が落ちてしまったら自力で戻してあげたりと、誰よりも愛情を注いでいた。

しかし、子供がもう少しで巣立ち出来そうだという時に、近所の子供たちがイタズラで巣を壊してしまったのだった。一松はその子供たちに怒って殴り込もうとしたが、おそ松が先にこらしめていた事を覚えている。ケンカが強かったおそ松なりの気遣いだったと今は思う。

一松の苦しそうな顔を見ているといてもたってもいられずに、一松の持っているマグカップを机に置き、一松の顔を自分の肩に乗せて、ぎゅっと抱き締めた。

「あんまり辛いの溜め込むと、後でもっと悲しくなるよ…?」

人の前だからって、泣くのを我慢してほしくなかった。この場合、兄の前なのだから、悲しいときは声に出してほしかった。だから、やさしく背中をぽんぽんと叩く。

すると肩から、小さくぐずり泣く声が聞こえた。そのことにチョロ松は少し嬉しかった。自分を頼りにしてくれている。そう思うと頬が緩んだ。


数分くらいそのまま背中をさすっていたら、一松の寝息が聞こえた。久しぶりに泣いて疲れたのかもしれないと思い、ソファーに運んでやった。


そういえば、おそ松はどうしているのだろうか…?
あれから帰ってくる様子がない。

…少し嫌な予感がした。


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