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□SWEET SCENT
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「じゃあ先に僕リンス使うから、シャンプー洗い流して待ってて」
そう一松兄さんに言い聞かせて、コクンと頷く様子が見れたので、僕はリンスを手に取る。
リンスを出した途端に辺りに甘い香りが漂った。すると、周りの兄弟がぎょっとした目でこっちを見た。
「うわっ、女の匂いがする!」
「ピーチの香りだ…」
「つかそれ、持ち込み許可貰わなくてよかったの?」
「一々うるさいなー…」
上の三人からの話し掛けを無視して、リンスを手に馴染ませる。手櫛で髪をとくように着けていき、大体につけ終わると、指を通しても全く引っ掛からない状態になった。まぁそんなに髪も長くはないけど。確か、ネットには五分くらい置いてから流すのがいいって書いてあったような…だとしたら、先に一松兄さんにつけてあげようと思い、一松兄さんの方を見る。
するとそこには、まだシャンプーを洗い流していない様子の頭と、その上に猫耳のように盛られた泡があった。
「…ちょっと?」
「どうよトド松、上手くできてるっしょ?」
「おそ松兄さんの力作だってさ。」
「もうそんなのどうでもいいから、早く洗い流して。」
「へいへい…」
はぁ、とため息をつく。おそ松兄さんって、なんでこうやって五分置きに誰かにちょっかい出さないとじっとしていられないんだろう。十四松兄さんだってちゃんとするときはするのに…どっちが兄だかわからないねこれじゃ。同い年なのが不思議で堪らないよ。
一松兄さんが洗い流したのを確認して、いよいよリンスをつけていく。再び僕に背中を向けた一松兄さんの髪にリンスをつけた指を絡ませる。すると、一松兄さんが心配そうにこっちを見てきた。
「…ねぇ」
「ん?どうしたの?」
「こんな匂い俺には不似合いじゃない?」
…なんだそんなことか。確かに、一松兄さんはピーチの匂いとか、そういう華やかな匂いは合わないかもしれない。
でもね一松兄さん、ギャップっていうのも男には武器になるんだよ?普段、皮肉で引っ込み思案な一松兄さんが、猫にはとびきり優しくて、兄弟が大好きなのとかも、結構女の人にはグッと来るものがあると思うんだよね。
まぁ、それは兄弟しか知らないことだけど。
というより、僕が他人の女の人に一松兄さんの本当の姿を知られたくないんだよね。
僕が一松兄さんのこと大好きだからかな?
「大丈夫だって、一松兄さんからこういう匂いするの、なんか意外で可愛いし。」
「いや可愛いとか言われても…」
「ふふっ、僕らだけ匂いお揃いだね!」
「え、あぁ、そうだね。」