短編

□未完成恋愛
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ある日、教室で貴方と擦れ違いました。
振り返ると見える背中。貴方の傍らには部活の仲間。手を伸ばしたら手の届く距離にいるのに、声は届くのに、先延ばしにしてしまう。貴方が怖いから。部活で輝いている貴方が困るのが怖いから。今日も、ただ傍で見てるだけ。

廊下で、貴方と擦れ違いそうになりました。
目線を上げれば自然と見える貴方の笑顔。また、擦れ違うのかな。なんて恥かしくなりながら考えていたら、貴方がいませんでした。口の中が乾いて、鼓動も速くなるのが自分でも分かります。でも、数歩歩いて気が付きました。階段に登っていく貴方の後姿。隣には同じ上履きの女の子。ポケットの白紙の手紙を握り締めた。

校庭に、貴方がいました。
ボールを蹴って、楽しそうに笑う貴方が、教室から見えました。ゴールを決めては肩を組み喜び、相手に抜かれては、悔しそうにしている貴方が好きでした。素直で、明るい貴方が好きでした。でも、貴方がサッカー部の女子マネージャーとキスをしている所を見て、一瞬呼吸を忘れてしまいました。所々涙で滲んだラブレターは、鞄の奥底に強引に突っ込んだ。

時が経ち、私も大人になりました。
新郎の服を着こなして、新婦に笑いかける貴方に、私は薄暗い客席で拍手を贈ります。
忘れた恋を思い出してしまいました。

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