狙われる審神者(in大奥本丸)

□一話
1ページ/1ページ





事の始まりは、たったひとつのゲームからだった。



「現世から遠く切り離された浮世の世界。時間から浮いた位置にある、本丸という住宅に腰を置く審神者という職があった。審神者とは、眠れる神々を顕現させ、時間を改変しようとする遡行軍と戦う人の事だ。が、住処ゆえの制限があり、それがなかなか苦痛に感じる人が多くいる。
曰く、現世のお菓子を食べたい、ゲームがしたい、ユーチューバーの実況が見たい、ドラえもんが見たい。と言ったようなものだ。(最後にあげたものは審神者の職として不適切だと判断されたため青ダヌキは審神者の中では禁忌とされている。)しかし、彼等は多くの時間軸から集った者。彼等の要望を叶えて行ったのなら、必ずや金が底を尽きる。そこで政府が考えたのは「現世からの持ち込み可能物品の範囲拡大」である。最低限の衣食住に必要な者以外は切り捨てだったにも関わらず、今では政府を一度通さなければならないものの、ゲーム類も、菓子類も、所持するスマホも、政府公認マークさえあれば利用可能なのだ。



[ドキッー君との道を歩むまでー]

「あれ?これって妹の乙女ゲームじゃね?‥まあいいや、セーブデータ2使お」



故に、この本丸もある意味政府公認なのでは?」






マゼンタと目立つパッションピンクのタイトルを読み、現世で流行りの「君ロード」という事がわかった。ちゃんねるではよく「タイトル逆」と突っ込まれていたゲームだ。公式からの報告によると、タイトルはドキッの方らしい。多分頭がおかしいけどその可笑しさが俺は割と好き。
少し長いロードに流れてくる似たような顔のイケメンを見ながら、「もっと個性出せよ俺の刀剣男士見習え」やら「俺様ってなんなの?俺っちじゃダメなの?」「なになに?ロン毛少なくない?攻略対象8人もいるのにロン毛1人?」「ロン毛が個性と思うなこれからが本番だ」好き勝手彼等に文句をつけていた。今更いうが、俺は独り言が多い。

「あ、やっとロード終わったー」

画面が切り替わるのを見て、顎を支えていた左手をコントローラーに添えて画面を見る。と、親友というとても可愛い女の子が現れた。よし決めた最初の攻略はこの子にしよう。知識豊富で友人のために力を貸すことを惜しまないとても優しく可愛い女の子。最高じゃないか。最近の女の子攻略する健全なゲームもこんな子を増やして欲しい。
でへへ、と親友の女の子を見つめながら、「俺最高じゃん、もう恋愛ルートまっしぐらじゃん」とゲームだというのに照れてしまった。

ー「なんだお前は?」
「お前こそ誰だよ」

ー「私の名前はーー」

あ、名前記入チュートリアルね!よくわかんないからアルジにしとこ。ちなセーブデータ1の方のプレイヤーネームは姫だった。厨二病把握した少し乱暴気味な妹に優しく接しようと思う。将来頭を抱えて叫ぶだろうしね。

ー「アルジ‥そうか」
ー「▽あなたは?
あんた誰?キモい
はじめまして!」

なんだこの選択肢。悪意しかない。いや、普通一番しただろ。

ー「はじめまして!」
ー「は?俺は君と関わる気は毛頭無い」

「誰が毛頭無いじゃゴルァアアアアア!!髪の毛見てみろまだフサってるわ!!てめえみたいに自尊心高いやつが少しボリューム薄れてきた途端帽子かぶってハゲるんだよ!!」

俺の善意を鼻で笑い飛ばしやがった赤い髪のイケメンに、「うちの大包平を見習え!可愛い愛染くんを見習え!」とブーイング。なんなんだこいつむかつく。しかもメニューの攻略対象にこいつ追加されてるんだけど?なんで?親友のあの子のイチャイチャルートは?俺の楽園エンドは??

‥あ、これ乙女ゲームだった。



「あれ?どうしたの?」
「う、浦島くん‥これいる?」
「絡繰?変なのー」
「恋愛ゲームってやつ。女の子に人気なんだ」
「‥イケメンと付き合う‥。ごめん、俺恋愛対象にするなら女の子がいいんだ」
「これやればモテるモテる」
「本当!?」

少し、あ、やべ。と思いながらも「俺を信じろ」とばかりに肯首する。むっちゃ肯首する。
するととても素直でいい子で可愛い浦島くんは、「わーい!ありがとう!」ととても喜んでくれました。浦島セコムを怒らせないかという不安が襲ってくるけど、その時はその時考えればいいや。





三日後、浦島くんはクマを拵えて蜂須賀お兄ちゃんにお話をしました。

「女の子って怖いね。‥自分を好きになった男から高価なものを普通なもらってた。高級な着物もあったから、まるで上様への貢物だよ」

蜂須賀くんは、花道仲間である歌仙くんとお話をしました。

「最近の女人は、男から貢がせることが多いようでね、浦島がそんな人間に影響されなければいいんだが」

歌仙くんはとても仲のいい小夜くんとお話をしました。

「いいかい、お小夜。例え好いた女人がいたとしても貢いではいけない。これが普通になったとはね。思いもしなかったよ」

小夜くんは江雪お兄ちゃんとお話をしました。

「その、女人を好いた人に貢ぐのが普通なの?」

江雪お兄ちゃんは宗三くんとお話をしました。

「‥小夜が、小夜が。女人にものを貢ぐと」

宗三くんは仲の悪い長谷部くんとお話をしました。

「小夜が、女人に物を?どういう事ですか、長谷部、今すぐ調べなさい!小夜が、小夜が!」

頭をかいた長谷部はスマホとお話をしました。

「ヘイSiri、お前は女人に物を貢ぐか?」

「すみません、よくわかりません」




それから数週間が経ったある日。
初期刀である加州は審神者に質問をしました。

「主が浦島の事好いてるって本当なの!?」
「何でそうなったの!?」



全体的に説明が必要と判断した審神者は、皆を広間に集め一つのビデオを流しました。

「これは君ロードの実況です。女性ユーチューバーなので女視点だけどどうぞ」




ー「うっわ、顔が良い」
ー「え、ちょ、は?これドレスじゃん!」
ー「次は宝石!?何!?キャバ嬢!?」
ー「あはははは!超貢がれてるんだけど私!ガラスの靴貰っちゃったよ。しかもこれ絶対片方紛失フラグー!」




そしてはじまる「貢がせたら侍らせれる」


審神者はのちに語る。「どうして???」






なんかおかしいな、と思ったのは朝食の時間。

「主!お助けを!朝起きたら妙に瞳孔の開いた男が僕の布団の前で!」
「貴様が朝餉に遅れるからだろう!」

少し肌けた服の宗三が弱々しく俺に抱きついて来た。そしてその後ろにプンプン怒る長谷部。いつもの宗三は「はい?だから?」と返す二人きりの喧嘩なのに、何故か今日は俺の方まで流れ弾を食らわせて来た。

「あー、とりあえず飯たべよ?長谷部ありがとう」
「は、はい!」

宗三と長谷部に定食を取りに行く様に促して、長谷部の頭を撫でる。いつも長谷部みたいな子が頑張ってくれるからいろんな人が助かってるもんなー。尻尾が忠犬並みに揺れてる幻覚を見たけど俺の脳は別に異常ない。
すると、長谷部の小言から抜け出した宗三は定食を取りに行かず、かといって小夜の元へ行くわけでもなく、ただ立っていた。て、何これ怖い。
すると、ふるふると体を揺らし。

「違うでしょ!そこは、「無事かい?ああ、こんなに服が‥代わりの服を用意しないとね」からの万屋で簪を貢ぐルートでしょう!」
「何の話!?」
「何を言ってるの、主を困らせないで」
「んん?長谷部??」
「大丈夫だった主?」
「騙されないでください!今こいつは自分を年上のお姉さんに見立てて攻略しようとしてます!こいつ絶対金欠です!」
「貴様と一緒にするな!主!こいつ時代劇物のか弱い貴婦人を装い貢がせようとしてます!近侍狙ってますよこいつ!」

「うん??よし、あとで話があるから食べ終わったら職務室に来てね?」





「ごちそうさま、美味しかったよ」
「どうかしたの?元気無いね」
「‥それが、なんか貢ぐとか時代劇となお姉さんとかよくわかんない設定でリアルマネーを要求された気がして」
「‥先越されちゃったか」
「んんん???」
「なんでもないよ。ところで何か困ってることある?」
「おい、気を抜くなよ。こいつは困った時はお互い様シチュでお前から眼帯を買って貰うつもりだ」
「伽羅ちゃん!?‥まさか君も」
「んんん???」

「マリオパーティは俺が貰う」






急いで尋問の弱い兼さんを引っ張り出してどういうことか説明を求めると、

「主と長い間過ごすには侍らせるほかない」
「侍らせるには?ヒロインになればいい」
「ヒロインになるには?相手に貢がせればいい」
「俺が姫になるんだよ!」

ということらしい。

「まあ、つまりは大奥ってわけだ」
「‥なんか急に照れるな」
「まあ一部は普通に貢がせたいだけだけどな。嗜好品どれも高いから兄弟がいるところはキツイんだよな」
「ふーん」
「ッタタタァ!足が痛いよお!なあ肩貸してくれない?」
「え」
「騙されちゃダメだよ!兼さんは「ふえっ転んじゃったあ」的ドジっ子を演じて主さんを巻き添えに転んで「お詫びに」って万屋の買い物でお菓子を奢ってその帰りにきっと耳飾りを貰う予定なんだ!そして兼さんの目的は「土方さんスペシャルお薬〜偽薬効果〜」だよ!」
「なんでわかるんだよ!?」
「兼さん、せめて作戦ノートは南京錠しようね」
「お前ら協調性というものがないのか??」


次の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ