あるある

□愛され特典付きってあるよね
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「私が、貴方を助けてあげる」

うふふ、と笑い、整頓な顔立ちの男性を見つめている彼女には前世の記憶というものがあった。美しい見目の男性達が戦うアニメだ。その中でも特に人気のある目の前の彼は、美しい顔立ちだけでなく、他の点にも優れており、ただ少し苦手な所がある格好良くて可愛らしい、素敵な人だだった。そんな彼にも、人にはそうそう打ち明けられない秘密があった。
それはあまりに心苦しい壮絶な過去だ。昔、その生い立ちから心を閉ざしていた時期もあり、それが今では仲間達との触れ合いや主人公とも仲を深め、自然に笑えるようになる人。
彼女はそんな彼に愛されたかった。あわよくば恋人になり、結婚し、幸せな生活を送りたいとも思っていた。だから主人公に会う前の、少し捻くれた時期の彼と出会った時は運命だとさえ思った。

(ああ、神様。私は彼と付き合えばいいのね)

手を差し伸べた。彼が捕まり、私無しでは生きていけないように、恋をして、依存するようにする為だ。これならwin-winの関係だし、誰も悲しまない。ええ、これが正解なのだとさえ思っていた。

「君まで、僕を紙として見ているのかい?」

原作よりワントーン暗い色で潰された瞳に光が宿っていなかった。

「何度もいたんだ。僕を知る人が。その度に、可哀想だと泣いていた」
「‥(私の他に転生かトリッパーでもいたのかしら。邪魔ね)」
「生憎だけど、やめてくれないかな?僕を知ったかぶりするの。はっきり言って気持ち悪いんだ」
「そんなつもりじゃあ!」
「ないって?じゃあここから去ってくれないか?僕の過去も未来も知っている様な気味悪い奴のそばに居たくないよ」

それは彼の本心だった。ずっと前までは本音を隠し、建前だけで追い払っていたが、その優しさに漬け込みストーキングする女が増えて言った為、はっきり言わないとわからないのだと理解したからだ。
彼は幼い頃から、同い年の少女に心惹かれる事があった。しかし、その度少しずつ違和感を感じ始めた。僕の好みを知っている、僕の名前を知っている、僕の過去を知っている、その時の気持ちも、訪れるであろう未来さえも。剰え、僕を漫画の登場人物とまで言ってのけた人もいた。
その瞬間、彼は絶望した。彼の気持ちも、これまで必死に生きていた時間も、全て「そうあるべきであり、そうなる運命だった」のだと。それを克服するための努力さえ、紙媒体で全て終わらせたのだ。
彼は自らが愛する人が、全てそれに当てはまる事に気が付いた。僕の感情さえ、彼女達は奪ったのだ。なにが「愛され特典」だ。人の気持ちをなんだと思っている。

「さっさと消えてくれない?」

嫌悪感を隠さずに彼は彼女を睨んだ。

「成り代わりとかマジでないんだけど!!」

僕はまた恋じゃない失恋をした。
早く逃げ出したい。消えたい。感情がなくなってほしい。でも、そう思う程、彼は願ってしまう。自分を救ってくれる「主人公」という存在を。



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