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□ここ掘れワンワン
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気がつけば彼はいつも側にいた。悲しい時、辛い時、慰める言葉もなかったけれど、ただ笑っていてくれた。

何が面白いか分からないが、平腹が、ただの平原だった時からずっと、彼は笑っていた。

「お前はいつも楽しそうだな」

冷めた口調で田噛が言えば特に傷つく様子もなく平腹は顔を上げた。明るい茶髪に黄色の瞳と、楽しそうに上げられた口角。

「ほ?だって、田噛がいるから」

そう言って平腹はゲーム機に視線を落とすのと同時に平腹の絶叫が響き渡り、一体何事だと田噛が寝転んでいたベットから下を覗き込む。そこには悔しそうに顔を歪めている平腹がいた。

小さなゲーム機の画面に映し出されたのは赤いGAME OVERの文字。田噛は暫く金縛りにあったかのように無言でソレを眺めていたが、突然口を開いた。

「ばーか」

「うるせー!」

ギャーギャーと、ゲリラ豪雨のように騒ぐ相棒の声が耳をつんざく。けれど、鬱陶しいのも、騒がしいのも、面倒も嫌いな田噛でも、不思議と彼の声が心地よかった。嫌な気はしない。

そんな事、単細胞に言ったら調子乗りそうで言わないけれど。

「なぁ、田噛」

「なんだよ」

突然声の調子を変え、平腹が振り返った。彼の黄色い瞳が田噛の橙の瞳を見つめ、田噛は怠そうに瞬きをして自分の首に手を当てた。

平腹は大きな黄色い目を閉じて、開いた。

「俺はきっと、人間になりたかった。」

田噛がまだ、ただの田上であった時、側にいたただの平原は、犬だった。幼い頃大事に大事に飼っていたお日様の様な大きな犬。けれど、人間よりも寿命の短い犬は、彼は、死んだ。

「だから、またお前に会えて良かった。」

「うるせぇ。」

「えー、聞けよ、田噛ー!」

「……俺はもう、穴は掘らないからな。」

「ほ?」

首を傾げる平腹に田噛は答えなかった。生前砂や泥、垢がこびり付いた自分の手は、もうない。土が爪に入る感覚、指の腹が小石を掠め、血が滲む感覚。数百年たってもその感覚は忘れない。そして、自分の大事な家族が死んだ、あの悲しみも。

「……穴を掘る仕事はお前だろ。」

田噛はそう言って、部屋の壁に立てかけたシャベルを見やる。だが、察しの悪い平腹は首をかしげて

「田噛だってツルハシで穴掘るじゃん!」

シャベルとツルハシは穴を掘る道具だから、俺達の武器はお揃いだ!

そう言って、平腹が平原であった頃と変わらぬ、黄色い目で嬉しそうに笑った。

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